第十六話 『襲撃』
久しぶりの投稿です。お待たせしました。
総合評価50pt突破しました!
こんな作品を読んでくださる方、大感謝です。
友人に別れを告げたボクは、ミースの家に向かい始めた。
流石に蛮族どもはもういなかった。もしこれでいたら逆に感激していたかもしれない。ある意味、だけど。今までのことを整理しなおしながら、前を向いて歩く。
さて、ミースはそろそろ動けるようになってるかな。流石に旅に出るのがこれ以上遅れると調子が狂うし。まあ、もとはといえばボクが悪いんだけどさ。でもこの決意が鈍らないうちにしないと。あまり長く留まっていると、この都市の愛情を再確認してしまいそうだし、ね。
「到着っと」
そんなことを考えている間に、いつの間にかミースの家についていた。お土産の存在を確認し、ボクはミースしかいない家の扉をあけた。
「ただいま~」
ボクの家ではないから正しくないけど、急に言いたくなってしまった。玄関の脇にミースから預かっていた家の鍵的な存在を置いて、ミースがいるであろう寝室に向かった。
「お土産、もらってきたよ。……腰、大丈夫?」
お土産を軽く見せて、ミースの容体を訊いた。ミースはこちらを非難するような目で見たあと小さく大丈夫、と笑った。
「うーん……」
「どうした?」
ボクが考え事をして、唸っているとミースが尋ねてきた。ボクは軽くほほ笑んで答えを返した
「いやー。家で二人さびしく食べるのってなんだか悲しくてさ。一緒に外で食べよう? って誘うか迷ったんだ。どうかな?」
「……行こう」
悩んでいるかと思ったらとてもいい笑顔で答えを返してくれたね。よし、じゃあ丘にでも案内しようかな。
「行きましょう、お嬢様」
いたずらっぽくほほ笑んでミースの手をとる。
「う、うん」
いつものミースが崩れてる。これはだいぶ貴重なシーンじゃないか? 普段の武士っぽい口調はどこに消えたのだろうか。
ミースの手を引き、ボクたちは紅さんと戦った場所である懐かしの丘に到着した。学園都市で一番見晴らしがいいけど、人が少ないという少し有名な穴場であるこの場所は、恋人たちのデートスポットとしても有名だ。ボクは普段から時々訪れていたけどね。
「やっぱり綺麗だなあ」
口からそんな言葉が漏れる。学園都市を一望できるこの場所に来ると、色々な思いが心の中にあふれてくる。小さな悩み事くらいは浄化してくれそうだしね。
「そうだな……」
しばらくの間、ぼーっと丘から見える景色を眺めていた。そして、思い出したようにお土産を食べ始めた。
うん、やっぱりおいしい。頬が緩むのを感じながら、ボクたちはお土産を食べ進めていた。そしてお土産が残り半分ほどになったころ。
「……っ!?」
ボクの顔をターゲットとした短刀が飛来してきた。
視線を潜り抜けたおかげか、以前なら反応できなかったであろう攻撃を回避することができた。
「誰かな?」
気楽に見えるような、涼しい表情でボクは訊いた。マスクのようなもので顔を隠している敵に。その格好はまるで暗殺者のようにも見える。
暗殺者は答える義務はない、とでも言いたげな目をして再び短刀を投げた。ボクは【収納】していた弓と槍を取り出し、槍を置いた。短刀をなんなく回避し、弓に矢を継ぐ。
「ミース、離れてて!」
その叫び声を自らの合図として、矢を放った。暗殺者はボクの放った矢に向けて短刀を放った。放たれた短刀は飛来していた矢に命中し、共に地へ落ちた。
その様子を見たボクは、弓ではかなわないと悟った。暗殺者が今度は針のようなものを投擲してくるのを目の端でとらえながら、ボクは三本の矢を一気に放った。針にあたったかはわからないけど、ボクに当たらなかったから撃ち落としたのだろう。ボクは弓と矢をミースの方に軽く投げ、槍を持った。
「【血の休養】」
……今気付いたけど、ボクが発動させなければいけないスキルって、基本弓のスキルだけだね。ほかは戦闘に適していなかったり常時発動してたりするし。意外とバリエーションが少なくてもどうにかなるものか。いや、本来は弓をメインとした立ち回りをするから種類は多い方なのかな。
槍をしっかり両手で握りながら、暗殺者のもとへ駆けた。ダッシュは遅いボクの中では、素晴らしいといえる踏込だった。……足は鍛えてるからもう少し短距離が速くなってもいいんじゃないかな。
「……はっ」
ん? 今違和感を感じたような……気のせいかな。暗殺者は身を低くして、ボクの懐に突っ込んできた。って、突っ込んでくるのか。いや、普通はその選択が正しいのか。ボクは槍を横に薙いだ。
限界まで手を伸ばして繰り出された薙ぎ払いは暗殺者が近距離戦を仕掛けるまでの時間稼ぎくらいにはなる、と思った。しかし、暗殺者は前へと跳躍した。そこそこ身長が高いボクの攻撃をとんでよけられるとは思ってなかったな。……でも。
「ミース!」
「ああ!」
ボクの視線で予測してくれたのか、ミースは大きな声で返事をした。暗殺者は一瞬迷ったのか世を放とうとしているミースに視線を向けた。
跳んでいる最中にも関わらず。
「やっ!」
ボクは腰を低く落としてハイキックを繰り出した。手にしていた槍を再び地に捨て、すぐさまハイキックを放とうとする。……この型を何回反復練習させられたか。考えただけで悪寒が走る。
『いいですか、ウィズ。あなたの蹴りは確かに強いです。だけど蹴りというのはハイリスクハイリターン奈攻撃方法であることを忘れてはいけません。体の重心を支える二本の足。その片方を攻撃に使ってしまえば、本体はがら空きで隙だらけの状態になってしまいます。だから一つ覚えてください。蹴りを使う時は絶対に隙を狙ってください』
ししょー、あなたの言葉は役に立ちました。しょうもなく、つまらない練習だったけど、繰り返したことでなにもしていない人よりはるかに効果を持つ技となった。この一撃、絶対に決めてやる。
――なんとなく。なんとなくだけど、この暗殺者はボクの蹴りを回避しそうだった。空中で回避できる場所はどこか。……え、どこだ? よし、急いで考えよう。
上下。それに応じたスキルがあれば可。直感を信じるならあり。
左右。それに応じたスキルがあれば可。直感を信じるならあり。
……同じだね、うん。スキルっていうわけのわからないものがあるかぎり可能性は低くできない。暗殺者にとってこの蹴りはくらいたくないはずだ。だから体勢を崩してでも避けるだろう。左右か上下か。回避できないという選択肢も残されているけど、その可能性は消した。じゃあ、どうする?
上に逃げられると厄介。じゃあこうしよう。
ボクは、跳んだ。――否、飛んだといってもいいだろう。
「【跳躍】」
暗殺者はすでに跳躍していた。そう、暗殺者は空中でもう一段階、跳んでいた。驚きで目を見開いたようだけど、時すでに遅し。
「やーっ!」
ボクは空中で踏ん張りながら、上空――ボクの頭上に蹴りを放った。つまりボクはサッカーでいう――オーバーヘッドキックというやつだ、を放った。ただし、蹴るのはボールとは形の違うものだけど。
流石の暗殺者もこれには避けられずに、ボクの蹴りを顎辺りにくらった。
「ぐっ」
決まった。そう思わせる感触がボクの足に伝わった。
思えばそれが油断に繋がったのかもしれなかった。
暗殺者は蹴りをくらった後ながらも、苦し紛れに仕込み針を放ってきたのだ。それをなんとか左手で防いだものの、ナニカが塗られていた仕込み針はボクの腕に浅く突き刺さってしまった。
「【快復:状態】」
刺さっている針をなんとか抜く。すると、ミースのスキルが放つ光がボクの腕の傷跡を癒していく。
「ありがと」
軽くほほ笑んだ後、体勢を立て直そうとしている暗殺者のもとへ駆ける。近くに落ちていた槍を拾い、ボクの間合いに入るまで近づいた。
しかし、暗殺者もこれだけでは倒れなかったようだ。暗殺者はバックステップでボクから離れていった。……まあ、顎にヒットした感触はあったから持久戦に持ち込めばいいかな。こういう時は相手の状況を見極めて冷静に対処しないとね。ボクがくらった毒らしきものも、大丈夫だと仮定すれば現状維持が大事になる。最悪、ボクが倒れてもミースがいるし。暗殺者も脳震盪を起こしただろうし。
「来ないの?」
左手の人差し指を向けて、指先を軽く曲げる。軽く笑みを見せて暗殺者を挑発した。暗殺者は悔しそうに口もとをゆがめた。ボクは痛む腕を暗殺者から見えないように、押さえた。……結構痛かった。鈍痛のようなものがさっきから止まらない。普通の人だったら気にしない程度の痛みなんだろうな。
……本当に来ないな。もしかして回復しているとか? ……ないな。傷をつけたわけではないから、治療できる類じゃないし。まあ、待機していればいいかな。大技のスキルを持っている、っていう可能性もあるけど。
ボクは一瞬地面に視線を向けた。
「ウィズっ!」
え?
「【斬撃・速】」
このスキルってここまで早くなかったような気がするんだけどな。
「うおっと」
ミースの声に反応して、咄嗟に後ろに跳んだ。しかし、それを予期していたように、暗殺者はボクの肩から脇腹までを斜めに切り裂いた。この短刀のリーチがもっと長かったら殺られていたかもしれない。そんなことを考えながら、ボクは歯をくいしばった。遅れて伝わってくる尋常じゃない痛み。少しばかり体勢がついたのは関係ないというばかりの痛みで、ちょっとやばいかもしれない。
切り裂かれた服を直して、ボクは傷跡を確認した。……そんなに深くはないようで、短刀に毒が塗られていたというわけでもない。ただ、身体の表面は軽く裂けていて、見ていて痛々しい。
そんなことを考えていたボク。余裕そうに感じるかもしれないけど、結構ピンチだったりする。後ろに跳んだ時、着地を失敗して倒れた。足首をひねったりしたわけではないみたいだけど、上半身が伝えてくる痛みで、立ち上がるまでがつらい。時間稼ぎをしていてくれているのか、ミースが弓を撃ってくれているのは助かる。……早く立ち上がらないとな。
「いてててて……」
思わず出そうになった悲鳴を抑え、ボクは立ち上がった。槍を杖の代わりにして。
……さて、お返しをしなきゃな。思考を切り替え、ボクは痛みを無視して口元を吊り上げた。




