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ブラッディスキル ~出血多忙な旅人たちの冒険譚~  作者: 独りっ子
第一章 学園都市にて

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第十四話 『コインの行方』

遅くなってすみません。

 こいつは先ほどの奴らとはくらべものにならない実力がある。ボクを確信させたのは彼の一つ一つの動作だった。

 無駄がなく、軸が全くと言っていいほどぶれない。しかし、ところどころにほつれがある。隙が出来そうでもある。でも、ボクの目は彼の隠し持っている暗器の存在に気付いてしまった。


「さあ、どうする?」


 彼をじっくり観察している間、彼は全く動かなかった。その姿はまるで、獲物に狙いを定めた肉食動物のようだった。狩られる草食動物はボク。

 しばらく彼を観察した結果、ボクは彼に対してかなわないことが分かった。いや、もともとわかってはいたんだけどね。だけど、収穫もあった。彼は中距離から暗器で敵を翻弄し、近距離で仕留める。そんなスタイルのようだ。更に、ボクが少しでも攻撃をしかけようとすると、そのたびに手が懐に触れていた。無意識の行動だからこそわかる。きっと、懐にでも暗器を仕込んであるのだろう。

 つまり、かなり距離を取れば、ボクに対する有効打はない。


 と思うんだけど……。彼の目を見る限り、何か裏がありそうだな。

 何か言い手はないか、そう思って彼を見つめた。


「あいにく、そう簡単に逃げさせないぜ。もし逃げようとしたら容赦なく殺させてもらうしな」


 当たり前のように考えが読まれてしまった。まあ、この状況からすると、ボクが選ぶ選択肢は逃げしかないから、読むのも簡単だよね。

 さて、どうやって生き延びようか。


 やっぱり彼についての情報収集かな。


「あなたはどういう人ですか?」


 回りくどく言うのには疲れた。彼に対してはすべて本音を押し出して喋らないと殺されそうだしね。……こういうのを修羅場っていうのかな。昔のボクならもっと動揺してたと思うんだけどなあ。前世での殺人鬼騒動もあったし、今世でも色々あったから慣れてきちゃったな。

 死、という存在に。

 慣れてはいけないのだとは思う。でも、この世界では死がとても身近にある。少し前まで元気に生きてた人が突然死んでしまう、なんていうのは嫌というほどあったしね。


「ふぅん。意外と素朴な質問をするんだな。面白い質問をしてくれたらおだてようと思ったのによ」


 はぐらかしている……とも捉えられる返答だな。肝心の質問には答えてくれていない。さて、ここはもう一度訊くべきかな。それとも、別の質問に移るか?

 ボクが悩んでいると、彼は笑みを浮かべながら言った。


「さあ、どうする?」


 どうする……かな。ボクは、打開案を必死で考えたが、何も浮かばなかった。こうなったらしょうがない。


「賭けをしましょう」


 ボクは提案した。賭けといっても、イカサマをつかったり、必勝法がある賭けをするわけではない。そんなのは賭けではないからね。

 この人には勝てる気がしない、ならば不確定要素に任せればいい話。頭脳戦がなんだ、戦闘がなんだ、という話に持って行かれた時点で終わっている。逃走はさせてくれないし。逃走したら闘争に飲まれそうだし。うまいこと言ったつもりはない。


「ふーん。で、何の?」


 彼はつまらなそうに言った。なんというか、嫌な反応だなあ。期待を裏切られたようでさ。まあ、キイすることでもないかな。

 さて、どんな賭博がいいかな。できればボクが得をするものがいいんだけど。無理、かな。じゃあ第一の条件として、運にすべてが委ねられるものということかな。

 コインをはじいて裏表を予想する……駄目だ、見抜かれる。


 いや、待てよ……? コインの裏表をはじく前に予想すればいいんじゃないか? 彼がボクのいかさまを見抜ける?


 ならいかさまをしなければいい。というか、いかさまをさせなければいい、と言えばいいのかな。


「契約。彼とボクの間にて約束されたことを否定する行動を互いが行った場合、当事者を裁く権利をもう一方に与え、生殺与奪の権利も所持することができる」


 【契約(フラッシュ)】!


 ボクがそう告げると、ボクと彼の間に淡い光が浮かび上がってきて、お互いを包んだ。そして数秒経つと光がどこかへ消えていき、ボクと彼の間に線のようなものが浮かび上がった。


 それも数秒経つと消え去っていった。


「うごかなくて大丈夫だったのですか? もしかしたら今ので殺されていたかもしれませんよ?」


 可愛らしく見えるように首を傾げて告げてみた。すると彼はどこかめんどくさそうに言った。


「敵意がなくて特別オレに被害がある攻撃ではなさそうだったしな。そのくれぇは許してやろうと思った。なにをするか楽しみだったしな」


 そして彼はするどくとがった歯を見せて笑った。……あの歯絶対殺傷能力あるよな。あれで人殺せそうだったしさ。


「ははは。流石にそのくらいはわかりましたか。……今のは契約、というスキルを使わせてもらいました。これでどとらかが不利になるようないかさまや、ちょっとしたタネを仕込むことが不可能となりました。実はボクが有利、なんてことにはなっていないので安心してください。嘘だと思うならボクの目でも好きに見てください」


 畳み掛けるように、一気に言葉を言い切った。必要なことはこれでほとんど伝えた。さて、彼はどう出てくるかな。


「それは本当だな?」


 彼はそう言ってボクの目を見つめた。僕は軽くうなずき、ニコッと笑いを見せてみた。彼はボクを最後まで疑っていたようだけど、なんとか観念してもらえた。


「では、賭けのルールを説明させていただきます。まず書けに使用するものはこのコインです」


 ボクはポケットから適当なコインを取り出して、彼の手に握らせた。


「ふーん。それで?」


「はい。まずはお互いこのコインの裏表、どちらかを指定します。そして片方がコインをはじきます。指定した側のコインが表になっていたらそっちの勝ちとなります。ボクが勝利した場合、ボクはこの場から逃れ指してもらいます。そちらの要望はなんでしょう?」


「お前の秘密をすべて明かせ。一つ残らずな。嘘を吐いたら殺す」


 っ!? なぜそれを! 思わず叫んでしましそうになったが、ポーカーフェイスを保つことが出来た。でも、彼の様子からすると、ばれたみたいだね。まあ、しょうがない。


「さて、ボクがコインをはじきます」


 ボクがすがすがしい顔でそう告げると彼は軽く顔をしかめた。それを予想していたボクは言った。


「あなたがコインをはじくと自分の思い通りの目を出しそうで怖いんですよ。その点ボクはそんなことできませんしね。契約が結ばれているので怪しい行動もできません」


 彼は疑わしい目でボクを見つめたが、しょうがねえ、とつぶやきボクにやれ、と言ってきた。


「ちなみに引き分けの場合はもう一度となり、一回目で後に目を選択した方からの選択となります。ボクは裏を選びますよ」


 これで一回目、先に選択したのはボクとなり、次の選択は彼が先となる。彼は、ボクが即決した様子を見て、ぶっきらぼうに言った。


「オレも裏を選ぶ」


 彼はボクの様子を疑いながらも、ボクと同じ目を選んだ。


 うーん、ちがうのを選んでくれたらよかったんだけどな。いや、ぜいたくを言ってもしょうがない。まずはこの一手に集中しよう。


 チンっ


 軽く響きのいい音を鳴らしてコインはボクの手から離れて空中へと舞った。


 彼の目がじっくりとコインの行方を追っている。ボクはそれと同時に見られていることを確信していた。やはりいかさまはそう簡単にさせてくれないよね。


 コインが、落ちる。


 出た目は――


「表……か」


「そうみたいですね」


 お前はわかってたんだろ? という彼の言葉にまさか、と笑いながら返すと、彼は再び考え始めた。


「さあ、どっちにします?」


 ボクは妖艶な笑みに見えるようにつくった笑顔を彼に向けた。


「急かして曖昧にするなよ」


 彼は甘すぎたかな、とため息をついてそう言った。


「そうだな……。じゃあ、表を選ばせてもらう。……一応確認するが、オレがいかさまを見抜いたらどうなるんだ?」


「ははは。やだなあ、いかさまなんてしてませんよ。現に先ほどだって外しちゃったじゃないですか」


「どうなるんだ?」


 ……ちぇっ。そう簡単に話題は逸らせないか。


「負けになります」


 ボクは素直にそう吐いた。


「誰が、だ?」


 ……あはははは。流石に屁理屈を押し通せないか。


「当然ボクの負けとなります。では、ボクは裏を選ばせてもらいますよ」


 ボクはそう言ってコインを親指に置いた。


「いきますよ?」


 チンっ


 さきほどよりわずかに重くなったような気がするコインを指ではじいた。


 さて……出た目の結果は――


「表……か?」


 砂煙の中からちらりと見えたその目は――

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