第十三話 『男の娘を襲う変態蛮族』
画面の前のあなた。タイトルにつられましたね?
少し短めです。
「うー。ちょっとはしゃぎすぎたかなあ」
ミースの家で、ボクとミースは遊んだ。二時間ぶっ通しで遊んだ。だから疲れた。
そのせいでミースが疲れ切ってしまい、腰やら足が痛いとのことで、お土産をもらいに行くのはボク一人となったのだ。
「ちょっとさびしい……かな」
不安げにボクは笑った。最近一人になる機会が少なかったから、一人のさびしさを忘れていたな。ボクは肩を落としながらとぼとぼと商店街に向かって歩いた。
歩いているといつの間にか曇っていた思考が明るくなってきた。それと同時にボクは誰かにぶつかった。
「おう、お嬢さんよお」
「イヒヒヒッ。俺様たちの服を汚した罪は重いぜえ……」
「金がねえなら体で払ってもらおうか……クヒッ」
「……」
コイツラ慣れてやがる。蛮族四人の畳み掛けるような行動にボクは思わず顔をひきつらせた。無視しようか、そんな案が頭の中を占めたけど、四人目の冷静な面持ちが怪しいので、うかつに行動はできないと思い、その場にとどまった。
ボクの身体をなめまわすように眺める蛮族たちを見てボクは体を震わせた。気持ち悪いなあ。あいにくボクの身体の構造は君たち男と同じだからね。じっくり見ても意味ないよ。……でも腰回りとかが丸くて女っぽいとミースに言われたけどね。
「おいおい。まさかお嬢さん。怖くて何もしゃべれないんじゃねーんだろうなあ!? イヒヒッ」
「ギャハハハッ!! そうに違いねえ! クヒッ」
蛮族たち二人がボクの様子を見ようと近づいてくる。うーん、どうすればいいかな。ボクは蛮族の様子をうかがおうと、少しだけ顔を上げた。
「さーて、別嬪さんよお。俺たちの相手でもしてくれねぇかよ?」
遠くにいる蛮族の一人がボクに問う。もう一人はただ黙っているだけだ。その姿が今のボクにとっては不気味でしょうがなかった。ボクはこの状況を打開する策を見つけるための策を探す。しかし、考えさせてくれる時間を蛮族たちは与えてくれなかった。
「イヒヒヒヒッ!! ちょっとこっちに来てくれよお。なあ!?」
蛮族の一人が悠々と歩いて距離を詰め、ボクに触ろうとする。その瞬間。ボクはこちらに近づいてこない蛮族の方を見た。僕が無抵抗で捕まると思っていなかったのか、ボクの手を掴んだ蛮族は、目を大きく開いていた。
何か拘束具のようなものを急いでつけようとしてくる蛮族を横目に、ボクは準備してあった弓から矢を遠く離れている蛮族に素早く撃った。放たれた三本の矢を確認するより早く、ボクは手を掴んでいる蛮族に跳び膝蹴りを仕掛けた。
「うおっ!!」
大げさに後ろに飛びのいた蛮族に追撃をかける。ボクは曲げていた膝を伸ばし、先ほどの勢いのまま、跳んだ。わずかに届かなそうだった。目を細めて歯をくいしばり、ボクは残っていた左足を振り上げた。この動きまでは読めなかった蛮族は、そのへらへらした笑みを浮かべていた顔面をボクの足によって苦痛の顔に変えた。何か月もかけて特訓した三段蹴りが成功したのだ。練習したかいがあって嬉しいな。
体を丸めて顔面から着地することを防いだボクは倒れこんだ蛮族の急所を最小の動作で蹴り上げた。
「ぐふっ……」
情けない声を上げて、蛮族は蹴られた箇所を抑えて悶え苦しんだ。振り返ったついでに顎辺りをかかとで蹴ったからきっとしばらくは動いてこないだろう。残り三人。ボクは再び弓矢をセットした。
「【燃えろ】」
ふと瞬きを終えると、黙っていた蛮族が燃えている石を投げつけてきた。あれは……魔石か。いや、違うかもしれない。わかっていることは一つ。火を纏った石がボクに向かってきていることだ。対処に迷ったボクの目に飛び込んできたのは長年愛用している弓だった。
ボクは己のもう一つの相棒にかけた。
目を細め、炎を纏った石に矢を放った。
「【貫け】」
時間を遅らせて二本矢を放ち、固まっている蛮族に近づいた。間合いを測りながら、槍を取り出した。取り出した槍をボクは思いっきり投擲した。いちいち確認していては次の行動に間に合わない。次の次の行動も考えながら、ボクは矢を一気に二本放って、けん制しながら走った。揺れる手元に意識を置きながら、どこの位置に着けばいいのかをシミュレーションした。
ボクの作りだした弾幕を避けるのに精いっぱいだった蛮族の真後ろに先ほど投擲された槍が大きな音を立てて墜落した。後ろを振り向こうと重心が傾いた蛮族にボクはとどめの矢を放った。
「【硬化】」
鈍器となった矢が蛮族の首元に命中した。我ながらすごい命中精度だと思う。しかし、後ろからかすかに音が聴こえた。横っ飛びをして回避したボクの耳元を凍っている石が掠めて行った。スキルを多用する蛮族の直線状にいたもう一人の蛮族に凍った石が運悪く命中した。
「ぐえっ」
何か声が聞こえた。しかし、気にしている場合ではないだろう。ボクは魔法を使う蛮族に向き直った。コストパフォーマンスが良いと評判の石をどこかから取り出していた蛮族にボクは矢を放ちながら、槍を拾おうと後退した。
しかし、その行動を先読みされていたようだ。
炎を纏う石の大群がボクを襲った。拾った槍で最低限の攻撃を捌こうと、槍を細かく振り回した。頭部などの部位の損傷を避けることには成功したけど、弾き切れなかった石がボクの足を襲った。
燃え盛る石の熱さがボクを悶えさせた。来る、とわかっていても、その痛みは通常の倍なのだ。対応しきれない。痛みを我慢するためにボクは槍の柄で自らの左手を強くたたいた。
自傷行為を行うボクに蛮族は驚いていたが、すぐに次の攻撃の準備を始めた。しかしボクも負けていられない。反復練習をして鍛えた、弓矢の高速セットを行う。
「ハッ!」
息を止めてバラバラな方向に三本の矢を撃った。更に、弾幕を張るつもりで矢を連射する。そろそろ弓矢を引き絞る手が痛くなってきたな。決着をつけないと。
周囲を一瞬だけ確認し、ボクは槍を足元に置いた。技一つ一つの威力は向こうの方が上。コストパフォーマンスは同じくらい。連射速度は圧倒的にボクの方が早い。近接戦闘の能力もボクの方が上だろう。蛮族は、石を撃っているときの重心が揺れていて、足腰もしっかりしていない。
接近して殴るか蹴る、案外やることは簡単だね。ボクは弓で弾幕を作りながら、時々飛んでくる石を打ち落とし、槍を足で軽く蹴りながら少しずつ前進していく。たまに、周囲の様子を確認しながら。
「ちっ!」
じり貧になってきた蛮族は舌打ちをしながら、意志の数を増やそうと懐を漁ろうとした。
「【硬化】【高速化】【燃えろ】」
一瞬で勝負をつける。槍を前方に蹴りだして、矢に付与効果を施す。慌てて石を飛ばそうとするより早く、ボクは駆けた。
さまざまな矢が蛮族を襲い、回避に専念させた。その間に距離を詰め、弓を捨てて槍を手に取った。そして、両手突きを繰り出した。しかし、軽いステップで避けられてしまい、空いた懐に体当たりを仕掛けてきた。ボクは伸ばした槍を引きながら、足を前方に伸ばし、軽く蹴りを放った。当然のように避けられてしまったが、その代わり槍は手元に戻ってきた。
間合いを測り、中距離の状態を保つため、軽いステップを踏みながら一歩踏み込んだ。それは普通の突きなら届かない位置だった。それを確認したのか、蛮族はもう一度飛び込んできた。このまま槍を引いても間に合わない。
しかし、少し前に合った試験で繰り出した繰り突きを再び放った。
蛮族から見ると、槍が急に伸びたように感じるだろう。驚く顔をにらみながら、蛮族を思いっきり突いた。
「ぐふっ」
槍は蛮族の鳩尾をとらえた。崩れ落ちそうになる身体を持ち、膝蹴りを顎に叩き込んだ。急所も蹴った。
蛮族を倒したボクは一息ついた。
「うらああっ!!」
飛び込んできた蛮族を躱して。
闇討ちがばれていたことを知った彼は言った。
「へえ、気付いてたんだな。せっかく気持ちのいい勝利をもぎ取れると思ったのにな」
「そう簡単にはやらせないよ。……できれば引いてくれると助かるんだけどなあ」
ボクが声のトーンを高くして言ったが、彼は豪快に笑い飛ばした。
「へっ。獲物をそう簡単に見逃すかよ」
「はあ。戦うしかないか」
ボクは最後の力を振り絞って、再び槍を構えた。




