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真意の否定

 「小夜子さんってたぶんさっきお見舞いに来てた子じゃないかしら」

江藤は唇に手の甲で軽く触れながら言った。

 「来てたんですか!?」

 「名前はわからないけどそうだと思います。その子ならまだ院内にいると思うわ」

 頭の中の寄生虫は真似て言った。

 『いると思うわ』



 新一は部屋を飛び出した。

 走ると足がもつれる、何度もつまづきそうになりながらも走る自分を、心のなかで嘲りながらさらにスピードを上げた。

 聞かなくてはならない。

 彼はなんなのか。

 新一は小夜子の直面している事件に巻き込まれたのだと解釈していた。

 

 (小夜子のせいで何もかもめちゃくちゃだ)

 

 新一は入り口近くのソファーに座っている小夜子を見つけた。小夜子もこちらに気づいて、大きく手を振った。

 小夜子の近くまで来ると、新一はゆっくりと減速し、ひざに手を当て、大きく肩で息をした。

 

 「新一君、無事だったんだね!良かった〜。びっくりしたよぉ、だって新一君といつの間にかはぐれて……」

 

 「黙れ!!」

新一は小夜子の話を遮った。

 小夜子はビクッと震えた。新一はしまったと思い慌てて取り繕った。

 「ごめん!ひどい言い方しちゃって」

新一はソファーに腰をかけた。

 「ううん、いいよ。まだ具合良くないんだよ、きっと」

小夜子は新一を慰めるように言った。



 「……蛙馬あめについて聞きたいんだけど」

新一は気持ちを落ち着けて切り出した。

 「あぁ、少数の蛙馬のことね。私の知ってることならどーぞ」


 「会えたら強くなれるってどういうこと?」

新一は慎重に言葉を選んで聞いた。

 「えっと、まぁ、そのまんまなんだけど、正確には人格が増えるらしいの」

 (人格が増える?)

 「もっと正確に言うなら増えるじゃなくて、分裂する。自分にある強い部分だけを集めた人格が出来るんだって」

小夜子は思い出しながら話した。

 『言った通りだろ。俺はお前だって、信じてくれたかい?』

頭の中で声が響いた。

 

 (一一自分の人格の一部一一)

 

 「どうしたの、まさか蛙馬に会えた?」

小夜子は少しからかうような調子で聞いた。


 (そんなわけないよ、知りたくなっただけ)

 

 言葉が出ていない?


 『まぁね、そりゃあ強い自分を手に入れたよ』

新一の口から思ってもいない言葉が出た。

 

 (どうなってるんだ!?)


 「へぇ〜、新一君ってそんな冗談言えるようになったんだ〜」

小夜子は何度もうなずいた。

 

 『小夜子のためだよ』

 

 (!!)

 

 小夜子は戸惑った様子で新一から目をそらして立ち上がった。

 『正直に言うよ、あの時君をふったこと今でも後悔してる』

新一も腰を上げた。


 (何を言って……)

 

 小夜子は新一に向き直った。

「………それって今更だよ。自分勝手もいい加減にしてよ」


 (………)


 『わかってるよ。でもあの時はどうかしてた。

駅で小夜子と偶然会えた時、運命だと思った。勝手だろ?もう、離したくないって思ったんだ』

 

 真実だった。反論の余地の無い真実。周囲の視線はすでに二人の意識の外だった。

 

 「遅すぎるよ!!あれから何年過ぎたと思ってるの?

私ね、新一君を忘れるために苦労したの!駅で会ったあの時、涙が出そうに

なるくらい嬉しかったことが悔しいの!私ね、新一君が大っ嫌い!!」

小夜子は目に涙を溜めて新一を否定した。

 

 (遠藤新一って一体なんだろう。小夜子をどこまで苦しめれば気がすむんだ。

人間が、生まれて以後愚かさを競う生物なら、私は人間を極めた。死ぬべきなのか?)

 

 『小夜子、俺は小夜子が言うように自分勝手な人間だし、そしてそれがわかっていながら

告白する卑劣漢でもある。言い訳なんてない。それが俺の全てだから』

 

 (言い訳なんてない……全て)


 『今日の夜に笠見山のふもとで待ってる』

 もはや立っている事が出来ずフロアに座り込む小夜子に告げた。

 しかし、そのあとに付け加えた『もし可能性が0パーセントじゃないなら来て欲しい』という最後の言葉に私は不自然な感覚を覚えた。私だったら出てこなかった言葉だ。



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