セカンドフェイス
『いい加減、目を覚ましな』
長い時間寝ていたようだ。先ほどの頭痛はもう消えて、女医の姿も見えない。
まだ耳鳴りがする。誰かに起こされたと思ったが、部屋のなかには誰もいない。
『ようやくお目覚めか』
「誰かいるのか?」
『俺はお前さ』
確かに頭のなかで声がした。そして、次の瞬間、意思とは無関係に右手が上がり、新一の右手は
その動きを確かめるかのように細かに、まるで使い古しのロボットのようにゆっくりと握り締められた。
いや、右手だけじゃない、体のどこも自由が効かなくなっていた。
『これで信じてくれたかい?』
(どういうことだ!!)
現状に理解が及ばない。
『見たまんまだよ、そして感じたままだ。求めただろ?強い自分を』
小夜子の話を思い出した。たしか、蛙馬に会って強い自分を手に入れると言った。
「ふざけるな、それを求めたのは小夜子だ!」
私が声を荒げていたのを聞きつけた江藤が、急いで部屋に入ってきた。
「どうなされました?遠藤さん!」
江藤は私の様子を伺いながら聞いた。
「いや、何でもないんです」
自分を鎮めて答えた。
『言ってやればいいじゃないか、今自分と話していた、と』
彼がそういうと体に自由が戻った。
訳がわからなかった。二人に一度に話しかけられているような感覚。
江藤は近くで私を見ていたが、どうやら彼の声は聞こえていないようだった。
まずこの場を乗り切ることが先決だろう。
この女医はどこまで私の会話を聞いただろうか。……よし!
「……少し寝ぼけちゃって、彼女の夢を見ていたんです。こんなの恥ずかしくて……絶対誰にも言わないでくださいよ」
私は照れ笑いを作って見せた。
「彼女ってさっき言ってた小夜子って人の事ですか?」
江藤は椅子に腰かけた。
(どこまで聞いてたんだ?)
「名前までしゃべってました?寝言なんて、疲れが溜まってるのかな」
「……遠藤さん、あまり具合がよろしくないようですけど大丈夫ですか?」
「もう少し休めば、なんとか………」
初めは少し不審がっていたが、再三にわたる私の演出が功をそうしたのか、どうやら騙しおおせたようだった。
いや、……違うな。
そもそも、バレるはずがないんだ。誰もこんなこと想像出来っこない。
しかし、劇中にも彼は私に話しかけ続けた。




