狂気の欠片
なにより頭痛がひどい。
誰かが持ってきた花が窓枠に生けてある。
花は淡い黄と青のコントラストに中央は白く、部屋の中はその花の香りに満たされていた。
清潔感のある部屋と言えば聞こえは良いが、ただ何もない空間が広がっているだけのように思えた。
『無駄』に困らないスペース。
(どうやら、個室のようだ)
天井をただ、ぼんやりと眺めていると部屋の入り口のドアがサイドに開き、女性が入ってきた。
胸に江藤とかかれている名札をつけた白衣の女性は、私を見るなり笑顔を送った。
「すいません、目が覚めちゃいました?」
江藤はその目を見開いて言った。
まだ、頭がボ〜ッとしていて何も答えることが出来なかった。
「遠藤さん?」
江藤はベッドの隣りの椅子に腰掛けた。
「看護婦さんですか?」
新一は問い返した。
安心したように両手を軽く合わせ、江藤は身を乗り出した。
「これでも、女医です」
彼女は自慢気にウィンクした。やはりここは病院だ。しかし、何で私は入院しているのだろうか………思い出せない。
「ここはなんていう病院ですか?」
新一は記憶をたどりながら聞いた。
江藤は少し不思議そうな表情をして答えた。
「杉並病院です、覚えてないんですか?」
「覚えてないって何を?」
新一は少しイラっとした。
「昨日ご自分で歩いてこの病院に来られたじゃないですか」
江藤は少し戸惑った様子で答えた。
まるで覚えがなかった。
「笠見山で意識を失っていたらしいですよ」
霧がかっていた記憶に光が差した。全て思い出した。
笠見山で意識を失ったことも、あの奇妙な生物のことも。何もかも。
「遠藤さん?」
頭が痛い。脳の内側からノックされているようだ。江藤の声が徐々に小さくなっていくように感じた。




