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少数の蛙馬

 笠見山の周辺は街灯も少なくなり、人影は姿を隠した。

 すぐ横を歩く小夜子はめっきり口数が減り、後ろに見える民家から届く光が唯一の救いのように思えた。

 

 こうしてただ目的地に向かい歩くのは幾つ年を重ねてもなれないものだ。

 小夜子にこの話しを持ちかけてみようか。

 まだ、若いのに何を年寄りみたいなことなどと言って笑ってくれるだろうか。


 「新一君は笠見山の噂知ってる?」

小夜子は思い切って聞いた。

 「・・・噂?」

笠見山には数回来た程度だが、区内民でさえ何人がその存在を知っているだろう。

 「ごめん、わからないな」

新一は首を振って答えた。

 小夜子はこらえきれないといったように笑った。

 「何であやまるの?やっぱり変わってないね」


 (小夜子はよく笑うようになった)

 新一はどこかほっとしている自分がいることを感じていた。

 「『少数の蛙馬あめ』っていうんだけど、カエルに馬って書いて蛙馬」

彼女は言った。

 「蛙馬あめ?・・・聞いたことないな。それって生き物なの?」

 「わからない。でも、いるんだって。

夜遅くになると山のエサを求めて住処から出てくるらしいの」

 「山のエサってなに?」新一は馬鹿にしたように鼻で笑った。

 「わからないの。なにもわからない。

わかってることは一つだけ、出会えたら引き出してくれるらしいの」

彼女はそれっきり黙ってしまった。


 笠見山のふもとまで来ると、二人は目の前の巨大な影に吸い込まれるように入っていった。

 山の中は思っていたよりも、月明かりで見通しが利いた。小夜子は何かを探しているというよりも、

何かが出ないことを祈っているようだった。

 昔から心霊の類は嫌いだったはずだ。何故、こんなどこにでもありそうな怪談話を信じるのだろうか。


 「小夜子、そろそろ教えてくれないか?」

彼女の背中に向かって聞いた。

 「『少数の蛙馬』の話?」

彼女は新一の方に向き直り聞き返した。

 「まず、出会えたらどうなるのか知りたいね」

木々に囲まれた不気味な雰囲気をかき消すように声を張り上げて言った。

 「強い自分を手に入れられるんだって、・・・でも、たぶん会えないから安心して」

 「小夜子は十分に強いじゃないか」

 「違う。私、意外と弱いよ」

彼女はため息を吐きながら言った。


 やっぱり小夜子は何かあったんだ。そして、小夜子が言うには蛙馬は一人じゃないと現れないらしい。

いかにも怪談話にありがちな話だ。


 「でも、わからないよ。もしかしたら会えるかもしれない」小夜子を励ますように言った。

 「何で?」

 「だって、少数の蛙馬なんだろ?何匹もいるって事じゃないか」

 「え〜!何匹もいたら怖いよ〜」

小夜子は山に入って初めて笑った。


 不思議だった。もう真夜中と呼べる時間帯なのに

月明かりが更に輝きを増し、どんどん明るくなっていくような感じだった。

 しばらく進むと少し開けたところに出た。腰をかけるにちょうどいい岩を見つけると、

もう限界とばかりに私は座って見せた。しかし、視界には小夜子はいなかった。

素早く立ち上がり辺りを見渡したが、小夜子の姿は見つからない。

 私は小夜子の名前を大声で叫んだが返事はなかった。どこではぐれたのだろうか。

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