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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
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第9話 護衛一日目 〜帰還報告〜

お待たせしました。

パサパサ、と言う音に目を開ければ、其処は何処かの、否、月下PGC事務所の古びた天井だった。

上半身を起こすと、蛍光灯の光が目に滲みる。

「一希君、起きた?」

声のした方を見ると、其処には書類を捲る舞無が居た。

「…何で、俺事務所に居るんですか?」

「分からないの?」

「…はい。」

舞無は溜め息を吐く。

その姿は絵画の様だが、背景のひび割れた壁が残念だった。

「雪華が古手鞠さんを護衛して送った後、此所まで運んできたわ。…報告を受けたついでに、何で気を失ったか聞いたら、『自業自得です。』って言ってたけど、何が有ったの?」

「いや…」

言葉を濁しながら一希は、一つ気になる事を見つけた。

「舞無さん。ドライバー…鳥遊さんは?」

「…ダイバーが潜ったけど、確認出来なかったらしいわ…」

「…そうですか。」

一希は、ボロボロになった制服のスカートーーーまだ着ていたーーーを握り締める。

胸中を巡るのは、人を一人死なせた、否、殺したと言う慚愧の念。

その胸中を察したのか、舞無が呼び捨てた。

「一希。」

「…分かってる。」

『必要以上の同情はしない。』

あの日、目の前に居る少女に誓わされた言葉を思い出した。

「弱いなら、私の『刃』になれない。…それとも、貴方は…」

「心配無い。」

一希は寝かされていたソファーから起き上がる。

「あんたは、俺の『鞘』だ。何時までもな。」


「なら、俺は帰るぜ。」

「その制服で?無理でしょ?」

「え?」

一希は制服を見る。

白の筈の制服は、埃等で煤け、黒くなって居た。

「背中も破れてるけど。」背中に手をやると、皮膚の感触がした。見事に破れて居る。

「…どうするべきだと思う?」

「んー、そのままで良いんじゃない?」

「…何で?」

舞無は、背中を指差して言った。

「名誉の負傷見たいで私は良いと思うけど。貴方、たかが車から飛び降りた位じゃあ、怪我一つしないし。」

事実だった。

アスファルトとの摩擦で裂けた制服の下ーーー皮膚は擦り傷一つ負って居ない。雪華が一希を病院に連れていかず、事務所に持って帰ったのも、それを知っての事だった。


風見一希は、生半可な事では、傷一つ負えないーーーまるで化け物の様な人間だった。


「いっそ、明日から学校の制服を使っちゃ駄目か?スーツに似てるし良いだろ。」

「バレたら駄目と言う前提を忘れたの?駄目に決まってるでしょ。」

無論、一希はそれを知りながら言ったのだが、やはり駄目だった。

因みに、一希も舞無も裁縫は出来ない。

一希はそう言う事は、一姫に任せきりだし、舞無に至っては過去に一度挑戦した事が有ったらしいが、舞無は頑なに結果を話そうとし無かった。

と言うか、舞無は家事が出来ない。

「…仕方ないわ、雪華に預けて帰ったら?」

雪華は、この事務所では唯一裁縫と家事が出来る人間だった。

舞無が今まで生きて来れたのは、雪華が一緒に同居して居るからだと、一希は真剣に信じて居る。

「…そうしますよ。所で、雪華さんは何処に行ったんですか?」

一希はロッカーに仕舞ってある制服を取り出しながら聞いた。

「雪華?私に今日の報告した後、冷泉の所行ったけど。」

「…何時も思いますけど、あの二人は良く気が合うなと思うんですけど。」

「まあ、何処か通じる所が有ったんでしょ。」

そうこう会話して居る内に、一希は着替え終え、ーーー勿論、舞無の死角で着替えて居たーーー鞄を持った。

日が沈み、このブロックが、変貌する前に帰るべきだろう。

身を隠す為とは言え、舞無と雪華の二人が、この事務所に住んで居て、無事なのは一種の幸運だと一希は思って居た。

まあ、二人なら誰かが襲って来ても、返り討ちにしそうだが。

「なら、俺帰ります。」

「制服は明日の朝早くに取りに来て。雪華に縫わせて置くから。」

一希は、事務所を後にした。


時は少し遡る。

まだ、一希が目覚めて居ない頃。

「ーーー爆弾?」

「はい。」

一希を持って帰った雪華は、ーーー正確には、事務所の前まで、古手鞠の家の別の車に送って貰い、階段だけ持って上がっただけだが、舞無は知らないーーー舞無に報告をして居た。

無事潜入出来た事、古手鞠の印象、そして、帰宅の車に自称通り魔からの爆弾が仕掛けられて居た事。その爆弾で、一人の行方不明者が出た事。

「爆弾って…通り魔は刃物しか使わなかった筈だけど。」

舞無は机の隅に積んであった書類の一枚をヒラヒラさせた。

其処には、今までの犯行の遣り方が書かれて居る。

「前例がそうだったので、車と言う手段の方が安全だと思ったのですが…油断しました。」

「…雪華。本当に通り魔の仕業だと思う?」

「思えません。」

即答した雪華の右手は、通り魔からの手紙を持って居た。

「個人の車に爆弾を仕掛けると言う手口に、この手紙。今までの犯行の手口とは、全く違います。」

「なら、どう思う?」

雪華から受け取った手紙を見ながら、舞無はこの推理を楽しんでいるかの様に顔を緩めて居た。

他者が見れば不謹慎だと罵るかも知れないが、此処には、雪華しか居ない。

そして雪華は、全くそう言う事を気にする人間でも無い。

人が死んでも、必ず人は悲しむとは限らない。

「私達が護衛に付いた瞬間に、こんな事が起こるのは、事情を知って居た人間が何かしらの形で関係して居る筈です。」

「となると、理事長?」

「それに限った訳では有りません。PMCの方から漏れたと言う事も考えられます。」

「難しい問題ね。」

溜め息混じりに舞無がそう言った時、設定初期の音で、雪華の携帯電話が鳴り出した。

「はい。」

『ーーー』

「分かった。直ぐ行く。」十秒にも満たない通話を終え、雪華は携帯を閉じた。「爆弾の解析結果が出たそうです。今から行って来ます。」

「冷泉の所?」

「はい。ついでに銃の調整もするので遅くなると思います。何か有ったら連絡して下さい。」

そう言って雪華は狙撃銃の入った楽器ケースを持ち上げた。

ケースの片面は、飛び降りた時の摩擦で塗装が剥げて居た。

「気を付けて。」

「はい。」

雪華が事務所から出て行こうとした時、舞無は気になった事を尋ねた。

「そう言えば、何で一希君はこんな事になってる訳?」

「心配要りません。自業自得です。」

そう言って、雪華は事務所を出て行った。

「…何よそれ?」

静かになった事務所で、舞無は呟いた。

最近、とても眠いです。

次は、多分雪華中心の話になるかと。

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