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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第三章 月光祭と恋心 編
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不安

「“Half Red Eyes”計画…?」


どこかで聞いたような名前を一希は記憶の中から探し出す。

思案する事数秒。一希の脳裏に思い出したくもない屑の顔と告げられた真実が浮かび上がる。

しかし、あれは―――


「……“Red eyes project”じゃないのか?軍事用の怪物を作る為の」


「ノン。“Half Red Eyes”計画は最初から“Half Red Eyes”計画でした。少なくとも双羽は、そう記憶しています」


「最初……いつの頃か分かるか?」


「ノン。記憶にありません」


双羽の深紅の眼を見て、一希は頭を抱えた。だが、そこで、ある物が眼に入る。


「被弾したって聞いたんだが」


「イエス」


「弾はどうなった?」


「ノン。被弾時の記憶は破壊されています」


「……勘弁してくれ…」


こうも無い無い尽くしでは、やっていられない。例えるならば、地図なしで初見のRPGを全クリするような物だ。寧ろ、それより不味いかも知れない。いや、違いない。取り敢えず分かった事はただ一つ。

とんでもない爆弾が、一希の元に転がり込んできたという事だ。

それも、起爆スイッチは向こうの物。

正直、もう放り出したい気分だが。


「…駄目だな」


それは一番の悪手だ。

監視がない爆弾など、とても放っておけない。

一希の性格上、誰かにパスする事もまた出来ない。


「双羽」


「?」


「家に来るか?」


一希の問いに双羽は、暫く沈黙する。


「…イエス。それが一番の方法であると、双羽は確信しました」


「…よし、なら行こう。明るい内の方が良い」


「イエス」


二人は立ち上がった。

一希は、奥の部屋に声を掛ける。出てきた桜華に伝言を頼むとすぐに双羽を伴って事務所を出、雑踏の中に消えた。

もう一人の(一姫)に、(双羽)の事をどう説明した物かと悩みながら。


◆◇◆◇◆◇



「…さん、姉さん!」


「……え?」


肩を揺さぶられ、強制的に雪華は思考の渦から引き上げられた。


「一希さん達帰りましたよ」


「え?本当に?」


「嘘言ってどうするんですか。それよりも、五回目ですよ?」


桜華はそう言って、机の上を指差す。

組み立てられた雪華の愛銃がそこには有った。


「銃の解体整備も結構ですけど、連続して五回はやりすぎです」


「……五回?」


桜華の口調に冗談を匂わせる物はない。つまり、雪華は無意識で銃の解体整備をしていた訳で。


「一回目の解体までは覚えてるんだけど…」


部品を整備しようと思ったら、一希に呼ばれ、アレを見せられたのである。


「言い訳になってませんよ、姉さん。……何をそんなに悩んでたんです?」


「……」


雪華は黙って小さな鍵を取り出した。引き出しの鍵穴にそれを突っ込み、開ける。中には銃の保証書などが入っていた。しかし、今はそれらに用はない。

シャープペンの芯を引き出しの裏に開いた小さな穴に入れ、押し上げる。

取り出したそれを雪華は桜華に見せた。


「なんですか、これ?」


「……私の脇腹を吹き飛ばした、銃弾」


「ッ」


桜華の顔が歪む。自らの力が及ばなかったばかりに、姉を守れなかった。

雪華は、知っている。それは、嘘だ(・・)


「桜華の所為じゃない」


雪華は、桜華を抱き寄せる。


「桜華は、悪くない」


「姉さん…?」


「冷静になって。その弾、何か(・・)がおかしい」


雪華が桜華に見せた物。それは、雪華の脇腹を吹き飛ばした弾丸。乾き、赤黒いそれは、二人に取っては忌々しい物だ。

しかし、皮肉にも。それが雪華に真実(・・)を教えてくれた。


「……あ」


桜華が眼を見開く。


「この弾……対戦車ライフルの弾じゃない(・・・・)…!?」


そう。口紅程の大きさではあるが、対戦車ライフルの弾とは程遠い。

全てが矛盾していたのだ。

何故、対戦車ライフルの弾を弾いた鉄骨が欠ける程度で済んだ?

雪華が遮蔽物から飛び出す切っ掛けになった、硬い物同士がぶつかり合った音の正体は?

答えは単純だった。

音は、桜華の狙撃が上手く雪華を狙っていた弾を弾いた音。

そして、鉄骨は、二つの弾のどちらかがぶつかったのだろう。

そして雪華は、至近距離から撃たれた。

マグナム弾(・・・・・)に。

そもそも。

あの日に限って、意地を張っている筈のPMCが何故格下と蔑むPGCに依頼したのか。

もっと近い場所にいたPGCではなく、雪華達に何故命令が来たのか。

誰がこんな下らない茶番を謀ったのか。それも弾丸の色が教えてくれた。


「それにしても、変な弾です……黒色だなんて(・・・・・・)


恐らく相手のシナリオでは、雪華は、もう死んでいる予定だった。だからこそ、安っぽい偽装すらしなかったのだ。


「桜華」


「なんですか、姉さん?」


「……これから学校以外は、必ず私と居なさい。それから、銃を側から離すな」


束縛は好きではない。命が掛かっているなら、話は別だが。


「……分かりました、姉さん」


何かが、動き出している。その不安は、水に垂らした一滴のインクの様に、雪華を蝕んでいた。

活動報告に、更新状況を載せていく予定です。

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