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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
8/83

第8話 護衛一日目 〜脱出〜

遅くなって申し訳有りません。

私用で忙しかったので。

自称『通り魔』からの脅迫状を受け取った一希達は、リムジンの後部、その中央に設けられたテーブルの上に広がる道路地図を見ていた。

「どうしましょう?」

雪華が現在地を指差し、言った。

その声には、何時もの様に動揺は含まれて居ない。

今更ながら、爆弾一つごときで慌てる様なほど、一希や雪華は一般人では無かった。

その所為か、車内には落ち着いた雰囲気が漂って居た。

「取り敢えず、このまま此処に居る訳には行かないな。」

今、リムジンは西ブロックの高速道路を走って居る。少なくとも、今の所は。

勿論、車は何時までも走り続けられる訳では無い。

ガソリンが切れたら、走れなくなり、脅迫状が本当なら、この車は爆破されるだろう。

「取り敢えず、残りのガソリンの量次第だな。……鳥遊さん、後どの位走れますか?」

一希は運転手ーーー鳥遊に声を掛けた。

「…この速度でこの量だと、持って後一時間ですな。」

「一時間ですか…」

今では殆どの車はハイブリッド化されて居るが、元々搭載されて居たガソリンが僅かだったのかも知れない。

一時間と言う少ない猶予で、四人が脱出する手立てを考えなければならない。

「…ドアを開けて、周囲の車に助けを求めると言うのは駄目でしょうか?」

恐る恐る、と言った様子で彗が言った。

「駄目だと思います。多分、その事も考えてドアを開けた瞬間に…」

「なら携帯で…」

「電波を探知されて爆破される可能性が有りますから、それも駄目だと思います。それに、」

雪華は一端言葉を切り、言った。


「脱出するにせよ、まず、周囲の車をどうにかしないと。」


前述した通り、此処は高速道路の上だ。

脱出しようとすれば、リムジンは、爆破されるだろう。

爆弾の威力が、分からない以上、周囲の車を巻き込む可能性が十分に有った。

「そもそも、爆弾は何処に有るんでしょう?」

「見たところ、車内には無さそうだな。」

リムジンに乗った時、一希はさりげなく周りを見たのだが、爆発物らしき物は無かった。

「もしかして、車外に有るんでしょうか?」

「まあ、どっちにしろ爆弾の時点で俺達に手は出せないけどな。」

銃火器の扱い方を知っている一希と雪華も、流石に爆弾の解除方法は知らない。そんな事が出来そうな知り合いは居たが、こんな状況では意味を成さない。

正に八方塞がり、と思えたその時だった。

「皆様。」

鳥遊が、静かに言った。

「車が居ない所で有れば、ございますが。」

「……鳥遊。それは何処ですか?」

鳥遊は振り返りーーー勿論運転中、立派な余所見運転だーーー地図の一部を指差した。

その指の先で差されて居たのはーーー

「これって…建設中の橋?」

「はい。」

誰もが言葉を失い、沈黙する。

「…其処には、どうやったら行けるんですか?」

「一希さん?何を言って居るんですか?」

いち早く混乱から回復した一希の言葉に、雪華と彗は更に混乱する。

唯一、ハンドルを握る鳥遊だけが落ち着いて居た。

「此処から直ぐの所に分岐点が有ります。其処を過ぎれば直ぐです。」

「其処に向かって下さい。」

「…お嬢様。宜しいですか?恐らく、車は只では済まないと思いますが。」

沈黙の中、鳥遊は自らの主に問う。

「…構いません。この車に爆弾が積んで有る以上、最悪、爆破される事も考えてましたから。」

「承知しました。」

二人の会話が終わると同時に雪華が切り出す。

「…で、橋まで行ったとして、どうするんですか、一希さん?」

「さっきから考えて見たんだが、このまま車で走り続けるのも、爆弾を解除するのも駄目なら、やっばり『飛び降りる』以外に無い。どっちにしろ脱出しなければならないしな。」

「…時速70キロの車から飛び降りる曲芸が出来る人間が、この世界に何人居ると思って居るんですか?私や一希さんならともかく、二人はどうする積もりですか?」

無謀としか思えない脱出方法は、雪華を不安にさせたらしかった。

一希は落ち着いて答えていく。

「雪華さんはケースから銃を抜いて、背中に掛ければ後はうつ伏せの体勢でケースを下にすれば怪我はしない筈だ。」

高校に潜入する為に、雪華は狙撃銃を入れたケースを楽器ケースに偽装して居た。しかし、楽器ケースと言っても、外見だけで、その実態は、耐衝撃、防水、防弾と、ケースだけでもハイスペックだ。

まあ、中に入って居る銃を考えれば、ケースを用意した人間が、ケースにすら、気を配るのも分かるのだが。

「分かったけど、彗さんや鳥遊さんはどうしますか?」

「私は自分で飛び降りましょう。そのくらいの事は出来ます。…風見様。真に申し訳有りませんが、お嬢様を宜しくお願い致します。」

「分かりました。なら古手鞠さんは、俺を下敷きにして飛んで下さい。」

その言葉に当然ながら、彗は困惑する。

人を下敷きに飛び降りるなど全く考えて居なかったからだ。

対する雪華は、まるで何も聞いて居なかったかの様に落ち着いて居た。

雪華は、そんな事位簡単に出来ると知って居たからだ。

困惑の表情を浮かべて居た彗は、二人の至って真面目な表情を見て、決心したらしかった。

「…なら、風見さん。宜しくお願いします。」

「喜んで、お嬢様。」

「…皆様、橋が見えて来ました。」

鳥遊の言葉に三人は窓の外に視線を移した。

全長一キロにも満たない橋が、直ぐ其処に有った。


工事現場のフェンスを突き破り、70キロまでのマージンを取る為に、リムジンは僅かに加速する。

「後、五秒です。」

橋は建設途中で、中央の部分が僅かに繋がって居ない。なので、飛び降りると同時に、下の河へ落とす事にした。

もしかしたら、ドアを開けた瞬間に爆弾が起爆するかも知れないが、其処は賭けだ。

「後、四秒。」

雪華が狙撃銃を背負い直す。

「後、三秒。」

鳥遊はハンドルを片手に持ち返る。

「後、二秒。」

雪華と彗がドアノブに手を掛ける。

「後、一秒。」

一希は叫ぶ。

「ーーー今だ!!」

彗がドアノブを引くと同時に、一希は背中でドアを押し開け、飛び降りた。

制御を失った筈のリムジンは、事前に稼いだマージンを削って行き、見えなくなった。


数秒後、激しい爆発音と共に、噴水が上がった。


「…重い。」

「重くないです!!」

建設途中の橋の上。

一希は彗の下敷きになって居た。

自分が言い出した事とは言え、こうして見ると結構無茶が有った様に思える。

「すみません、取り敢えず降りて貰えませんか?」

束の間の開放感の後のーーー

「ぐふっ」

強烈な蹴り。

予想外の事に、一希は思わず本性で叫んだ。

「何しやがる!」

「重い、って何ですか!?重いって!!」

「いや、思わず…」

そう言った後、彗の表情が変わったのは、一希の気の所為では無いだろう。

実際、その直後、再び強烈な蹴りが一希を襲った。

『俺、何か悪い事言ったっけ…?』

薄れていく意識の中で、一希はそう自問した。



コメント等、お待ちして降ります。


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