表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/83

第25話 本当の味方

「…どういう……事なの…?」


床に広がる、黒色の海。それを気にする事なく、雪華は言った。

否、気にする事すら出来ない。


「桜華って…桜華は…」


「…何でも、ないわ」


「嘘!!」


葵衣との距離を瞬時に詰め、雪華は葵衣の服の襟を掴む。葵衣よりも雪華の方が背が高く。自然と雪華は、葵衣を吊し上げる形になった。


「どういう事なの!?桜華が行方不明って!!そもそも何で桜華が居るの!?説明してよ!!」


「それ、は…」


前後に揺さぶられ、激しく咳き込む葵衣。

無理もない。

形はどうあれ、やっと割り切った事。

桜華は死んだ。決して覆せない、誰にも否定する事のない現実。認めたくはない、しかし認めなければならない。

偶然とは言えども、葵衣は、それらを引っくり返してしまった。

もし、雪華が狙撃され、入院していなければ。

もし、桜華が倒れ、入院しなければ。

もし、入院した桜華が、姿を眩ませなければ。

また別の形で葵衣や一希は、雪華に桜華の存在を知らせる事が出来たかも知れない。

しかし、現実は一番最悪の物となってしまった。

雪華は、葵衣と一希が裏切り(・・・)、桜華の存在を隠していたと思い込んでしまった。

果たして、誰が悪かったのだろうか?

否。

果たして、何が(・・)悪かったのだろうか?

時か。

巡り合わせか。

運命か。

そんな事は、誰にも分からない。

雪華は、葵衣を掴んでいた手を離す。葵衣が受け身を取れる筈もなく、床に崩れ落ちた。

それを一瞥すると、雪華は、踵を返す。


「…何処に…行くつもりよ…!?」


「決まってる。桜華を捜しに行く」


一度目は間に合わなかった(・・・・・・・・)

もう、遅れる訳にはいかない。

雪華が、部屋から出ようとした時。


「…待ち…なさいよ…!!」


振り向いた雪華が眼にしたのは、愛銃スターレインの銃口を向ける葵衣の姿だった。


「動くなら、撃つ」


「私を撃てるの?生憎、的じゃないんだけど」


「意地でも止めるわ。もう一回、病院送りにしてでも!!」


「なら、撃ってみなさいよ!!」


雪華は、葵衣の前に立つと、自ら銃口を胸に押し当てる。銃身は、手は、震えていた。


「撃ちなさい!!」


「……」


人の命を奪うにしては、余りにも軽い音を立てて、スターレインは、床に落ちた。葵衣の顔も、それを追うが如く下を向く。


「……前に、私の事を調べたって言ったよね」


「…ええ」


「なら、どうして止めようとするの?…調べたのなら、私が急ぐ理由も分かる筈」


「……」


「葵衣。所詮、貴方は。文字を読んだに過ぎない。だから、何も分からない。私があの時、どんな思いをしたか、分かった振りしか―――」


「………る」


出来ない、と言おうとした雪華の言葉を葵衣は遮った。


「分かるわよ、この馬鹿!!」


今までにない大声で怒鳴り、葵衣は雪華に飛び掛かる。想像すらしなかった逆襲。その勝敗は、雪華を押し倒し、マウントポジションを取った葵衣に大きく傾いた。

腹の傷を圧迫され、苦渋の表情を浮かべる雪華を葵衣は、気にもしない。

葵衣は、怒っ(キレ)ていた。


「誘拐された時も私は本気で心配した!!だから協力した!!入院した時だってそう!!医者に死ぬかも知れないって言われた時の私の気持ちが分かる!?分からないでしょうね!!あんたは昏睡状態だったんだから!!」


雪華が拐われた時、助け出しに来たのは、一希と葵衣。

一連の事件を揉み消したのも葵衣。

昏睡状態から目覚めるまで、雪華の側に居たのも葵衣だった。

葵衣が左手を振り上げる。

だが、その左手が暴力的な勢いで、振り下ろされる事はなかった。


「…なんで一人で勝手に突っ走ろうとしてるのよ……?なんで何時も自分の身だけを危険に晒すのよ…?幾らでも…助けてあげるのに……!!」


そっと左手が雪華の頬に添えられ、顔に一滴、二滴と雨が降る。塩辛い雨だった。

雪華は、今更になって気付く。

今、自分の上で泣きじゃくる葵衣(少女)は、自分に取って本当の味方だという事に。


「……ごめん」


「…ほんとに、馬鹿……」「ごめん…」


「もう危ない事、しない?」


「…うん。だから…」


雪華は、上半身を起こす。


「協力して、葵衣。私は絶対に取り返さないといけない」


葵衣には、一つの答えしかなかった。


「喜んで」




バイクに跨がり、キーを差し込む。電気エンジンが、静かに唸った。

ヘルメットを被ると、仮想ディスプレイに現在のバイクの状態が表示され、そこに、葵衣の声が響く。


標的(ターゲット)は、衛星写真とGPSの履歴を遡ると、二時間前、倉庫地帯で消失(ロスト)。地点を更に分析した結果、42番倉庫に入った可能性が高いわ。恐らく、そこに居ると見て良いと思う』


「42番倉庫……それって確か」


『相当私達は恵まれてるわね。そう、かつて私と貴方が出会った場所。勝手は知ってると思うけど、一応見取り図を送るわ』


倉庫の見取り図が目の前に現れる。全二階建ての間取りは、あの時と何も変わっていなかった。


『それにしても、雪華さん。本当に、持っていかれるのですか?』


仮想空間に、彗の声が響く。


「そのつもりだけど。駄目だった?」


『いえ、そんな訳ないですけど…かなり中身が変わってますから、前のようには使えませんし…使ったら傷口が開きますよ?』


「自分で使うつもりはないよ。お守りみたいな物かな」


雪華は、背中に吊るしたライフル―――かつての愛銃を撫でる。暫く見ない内に、その姿はかなり変わっていた。


『……なら、良いのですが…』


「大丈夫よ。なら、出るから」


『ご武運を』


『私達も後から行くわ』


通信が切れる。


「さて…と」


ペンダントの写真を見る。


「絶対に…取り返す」


バイクは走り出す。

向かうは、多数の運命が、交差する地。

一人の少女は、もう一度過去と対決する為に、そこへ向かった。

多分次は、戦争になるんじゃないかな〜と

保険で注意の所にガールズラブを入れました。今回の話しもアレですし、なにより軽くネタバレですが、桜華はシスコンなの…


「何か?」

いえいえいえ!!何でもございません!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ