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第22話 経験が合わさる時

それは、まだ師匠が生きていて。

あの忌まわしい戦争が私達を巻き込む前の話だった。

夜。

発電機なんて物は贅沢なので―――当然電気の便利さを知らなかった―――焚き火を囲むようにして、私達姉妹は、何時ものように、師匠に『座学』とまではいかないが、話を聞いていた。

今思えば、私達の戦い方は、あの数々の話を元に作られていった気がする。

そんな大切な時間も最早、私だけを残して遠い場所に消えてしまったのだが……


「どんな武器でも、決して隠しきれない欠点がある。雪華。例を挙げてみろ」


師匠に指名され、私は暫く考えた後、口を開いた。


「…例えば、種類にもよりますけど、拳銃は、威力と射程、連射速度に劣っている……とかですか?」


「ああ。正解だ。だが、それらを犠牲にして、小回りが効くなどの長所を生み出した。同じ様に、ライフルにはライフルの、ナイフにはナイフの短所がある。長所を作る為にやむを得ずに出来てしまった物だ。戦闘では、その短所を如何に埋め、長所を生かすかが問題となってくる。謂わば、じゃんけんと同じだ」


パキッ、と枝を折り、師匠は、火に枝を放り込んだ。枝を飲み込んだ火は、より一層、その存在感を増す。


「なら、どうやってその短所を埋め、長所を生かすか。例として、狙撃手(スナイパー)と拳銃手が戦うとする。二人は、どっちが勝つと思う?」


「狙撃手でしょうね。射程、威力共に優れていますから、一方的に攻撃できます。何より……私なら一発で片付けます」


桜華の言葉は、誇張でも何でもなく。

ただ、淡々と『事実』を述べたに過ぎなかった。


「私も…同じだと思います。攻撃範囲(レンジ)が違いすぎます」


「そうか。なら、雪華。お前ならどう戦う?」


師匠は、面白そうな顔をして、私に聞いた。


「私なら…遮蔽物に隠れます」


「駄目ですよ、それは。顔を出した瞬間に撃たれます」


「そうだな。だが、雪華の考えも悪くはない。あくまで、『戦争』の話だがな」


様々な武器を持つ者が集う戦場。確かに、互いの短所を埋め合わせる事が出来る状態ならば、それは、手堅い一手に違いなかった。


「なら、ヒントを出そう。桜華。もしお前が狙撃するとして、標的(ターゲット)がどんな事をしたら困る?」


「……まず第一に、標的に気付かれる事…それから、相手が絶えず不規則に動き回る事です。絶対…ではありませんが、仕止める事が困難になります」


「……ヒントどころか、答えになっちまったが、雪華。そういう事だ。狙撃銃の弱点は、スコープから見た時の視界だ。手振れに弱く、精密な調整が必要な所為で僅かなズレでも命取り。…つまりだ」


師匠は、言葉を切った。


「もし、雪華が狙撃手の存在に気付き、尚且つ機動性が有れば―――」


火の中で燃えていた枝が、灰となって消えた。


「―――場合によっては、狙撃を一発も喰らわずに狙撃手を無力化、そんなふざけた真似が可能になる訳だ」


◆◇◆◇◆◇



「……ああ…」


狙撃手の存在を感じ取り、咄嗟に隠れた装甲車の陰で対抗手段を考える雪華の脳に浮かんだのは、そんな、過去の遺産。数分の間に、相手方から放たれた弾は二発。両方とも的確に装甲車のタイヤを撃ち抜いていた。

着弾と銃声の間を計測した結果、相手は約四百メートル先に居る事が分かった。

「…機動性、か。今更ながらに考えてみると、随分無茶苦茶な…手段ですね」


この戦い方にも、当然短所はある。

全てに於いて運任せ(・・・)なのだ。

音速を越える弾丸をかわす事も運。

体力が続く距離なのかも運。

そして、相手の経験や能力さえも運。

結果……


「…駄目です。丸々あの話は使えませんね」


そもそもあれは、紫蘭のような『超人』が出来る技だ。

仮令この体が負傷状態ではなくても、まず不可能に違いない。


「でも……」


『相手が嫌がる事』をする事と『銃を持つ人間の欠点』を組み合わせれば、対抗する事は、不可能ではない。

偶然にも雪華は、狙撃手の端くれだった。要は、自分が嫌がる事を相手にすれば良いのである。

雪華は、拳銃手としての短所を『狙撃手の経験』と『拳銃手の経験』を合わせる事で埋める事を決めた。

守勢から攻勢へのスイッチが切り替わる。

雪華は、立ち上がった。

その手に、武器はなく。

代わりに空弾倉と発煙手榴弾(スモークグレネード)が握られていた。


「…さあ、始めましょうか」


雪華は、微笑(わら)う。

それが余裕の笑みなのか、それとも虚勢の笑みなのか。誰にも分からない。

ただ―――

過去との決別が、始まろうとしていた。

こんな時になんですが、一週間後に書き忘れていた番外編を予定しています。


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