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第20話 対装甲車戦

乾いた連射音。立ち込める硝煙。地面に落ち、金属質な音を立てる薬莢。そして、武器を残し、ポリゴン片に爆散する敵兵。

普段なら、ライセンスの発効を以てしか出来ない射殺。それが許されているのは、これがVRに於ける訓練であるからと言う事ともう一つ。新装備を携えた雪華の戦闘能力のデータ収集である事に他ならない。また、雪華に取っても、己の限界を探る為に過ぎない。


「……ふぅ」


壁を背にし、休憩がてらチェリーローズの弾倉を入れ換える。戦闘を始めてから、初めて取った、休息とも言えない休息。

周囲に警戒の目を飛ばし、気配を探る癖を、身体は、忘れていなかった。

実際に、それを怠って死んでいった者達を掃き捨てるほど見て来たのだから。

如何に強者であっても、油断をすれば簡単に死ぬ。逆を言えば、油断さえしなければ、仮令弱者であっても死ぬ事はない。

そして、その不文律は、VRの世界でも簡単には覆らない。


「…ッ!?」


咄嗟に『何か』を感じ取った雪華は、背にしていた壁から飛び退いた。

瞬間、壁が瓦礫と化す。もし、あのまま居たら、間違いなく赤い瓦礫と化していたに違いない。

嗅ぎ慣れた火薬の臭い。壁が消えた事で、耳に届くエンジン音。

第五都市(イタリア)では、余り慣れ親しむ事こそなかったが、知識程度には知っていた。


「……幾ら何でも、これはやりすぎでしょ…」


幾らデータ収集の一貫とは言え、あの二人には、やって良い事と悪い事の区別すら付かないらしい。

車体横に各々一つずつ取り付けられた、四連装のミサイルポッド。

雪華に狙いを定める、副装の重機関銃。

そして、壁を消し飛ばし、冷却の為に砲身から煙を上げる電磁投射砲(レールガン)

それは、兵員輸送よりも、局地戦闘に重きを置いた冷泉銃工試作の無人装甲車だった。


「絶対に私の事殺す気でしょ、あの二人……」


半分呆れた様にぼやきながらも、雪華は構える。

チェリーローズをホルスターに戻し、結局歩兵相手に一度も使う事は無かった残雪を抜刀。

本当は投げナイフも持ちたかったが、既に使い切っていた。仮に有ったとしても、装甲車相手には、何の役にも立たないのだが。

勿論、雪華は、残雪で装甲車を切り刻むと言う非現実的な事をやらかすつもりはない。弾を斬るのもまた然り。重機関銃はともかくも、高速で撃ち出される電磁投射砲(レールガン)の弾に刀が耐えきれる筈もない。ミサイルなど論外だ。

当然、


「っく!!」


全ての弾幕を生身一つでかわしていく事となる。

近付ければ、と雪華は思う。装甲車を無力化する為の策は有る。たが、その為には、近付かなければならない。

スタート直後の機関銃とは違い、冷却時間(クールタイム)には、別の武装が新たに弾幕を作り出す。

一瞬でも注意を引かねばならない。それも、装甲車に搭載されたAIが驚異と認識出来る程の。

弾幕を掻い潜り、雪華は、それを見つけ出した。

休憩前に射殺した兵士。

彼が持っていた武装。


「……有った…」


歩兵相手には、取り回しが悪いが、大型兵器相手には、有効な兵器。

装甲車が発射したミサイルが雪華を守っていた瓦礫を爆風で消し飛ばす。


「これ…借りる」


眼には眼を、歯には歯を。

ミサイルにはミサイルを。


「…喰らえ!!」


使い捨ての対戦車ロケットランチャーの引き金を引く。発射されたロケットは、安定翼を展開し、奮進剤を燃やしながら、装甲車向かって突き進む。

自らを破壊せんとする驚異に、AIは、瞬時に対応する。

重機関銃による弾幕を展開、電磁投射砲(レールガン)の充電を開始。

数秒後、眩い閃光を伴い、電磁投射砲(レールガン)は、再びその威力を解き放つ。

奇跡的に、弾幕をかわし続けていたミサイルも、流石にその強運を発揮する事は出来なかった。

対戦車を想定して作られたHeat弾は、本来の目的を遂げる事なく、爆散。

しかし―――


「……これで良い」


ミサイルは、雪華を装甲車の元へ到達させると言う目的を果たしたのだった。

雪華は、残雪を両手で強く握り締める。AIが慌てて重機関銃に旋回を命じるが、時既に遅し。

装甲車の表面に静かに刀身を押し当てた雪華は、呟いた。


「電圧……七十五パーセント。解放(スタン)


白い刀身に、電流が走る。

静電気を何倍にも大きくした様な音が響き、装甲車の排熱口から煙が上がった。

重機関銃の銃口は、雪華を捕らえていた。しかし、もう火を噴く事はない。

AIと言う物は、どれだけ構造を簡略化しても、精密部品を必要とし、ダメージに―――特に電気―――は、その精密さ故に滅法弱い。

この装甲車も、被弾に対する対策こそ取られていたが、電流になれば話は別。車体後部の充電ユニットに対する対策は行われて居たが、他の装甲は寧ろ、AIへの電流の通り道となってしまっていた。

つまり、雪華は、スタンブレードに改造された残雪を、使いAIの回路を焼き切ったのだった。


「……さて、次が最後かな?」


背中を走るピリピリとした感覚。残りの敵は一人。雪華には、それが何か分かった。

即ち。


―――最後の一人が狙撃手(スナイパー)である事を悟ったのだった。

VRは、もう少し続きます。

次回は、過去編。雪華と『月下』の出会いです。


来週の金曜日から、月末まで、進級を掛けた反攻作戦2215号が発令されるので(要は期末考査である)、更新が遅れる場合がございます。

失踪予定は無いので、ゆっくり待っててね!!

それから、今作の粗筋を変えました。良かったら見てって下さい。


新作…制作中。リアルでとある方にアドバイスをいただいたので、執筆速度向上なるか!?



今後とも宜しくお願いします。また、ギャグでも突っ込みでも構いません。コメント宜しくお願いします。

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