第19話 Lacrime
殺しに何とも思わなくなったのは、何時からだっただろうか。
毎日毎日、見えない所で、見える所で、屍が量産される。『有』を材料に『無』が生産されていく。
到底正気では、いられない。実際、発狂した人間は何人もいた。彼らは、例外なく死んでいった。
生き残れるのは、狂気を宿した人間だけ。如何なる理由、理屈だろうと、殺しを―――人の道を外れた行いを―――正当化できた人間が生き残る事が出来た。
大半のそれは、屁理屈と呼ばれる。
だが、理屈に勝る屁理屈は、理屈足りうる事も事実。
そして―――
勝てないと分かっていながら、立ち向かうのも、また、人の性だった。
◆◇◆◇◆◇
「…桜華っ!!桜華ぁ!!」
『……』
役立たずの無線機が発するのは、芸術性の欠片もない砂嵐のオーケストラ。
走りながら呼び掛けても、応答はない。
不安、焦りが苛々を募らせ、押し潰される様な感覚が私に漂い始める。
否。
前から漂っていた。唯、気付きたくなかった。それだけ。
身体が重い。痛い。度重なる出血に蓄積した疲労。全力疾走。それらが、急速に体力を奪っていく。
振り切る様に、無線機を叩き、叫ぶ。
「桜華ぁ!!」
『……ね……さ……』
「桜華!!今、何処に!?」
『…ね……ん…来……だ……』
スピーカーを耳に当てても、ノイズが全てを掻き消していく。
銃声以外は。
「今、そっちに向かってるから!!」
戦争は、終わった筈。聞こえる銃声が、首筋を舐めていく。
『……姉……ん……えさ……姉さ…』
一瞬だけ、ノイズが途切れる。まるで、オーケストラの指揮者が指揮を急に止めてしまったかの様に。
下らない演出。首から下りた寒気が、背筋を走った。
『キャアァァァァァ!!』
生まれて始めて聴く妹の悲鳴を最後に、無線機は、永遠に受信する相手を失った。
「……桜……華…?」
返事はない。
「…桜華……?」
何も聞こえない。
「……嘘、でしょ?…ねぇ、悪い冗談は止めてよ桜華…怒るよ…?」
声が空虚に世界に響く。
否。
世界は。
「…あ…あ…」
私の―――
「あぁ…」
彩萌雪華に取っての世界なんて。
「あああああああ!!」
とっくの昔に、砕け散っていた。
二人。たったの二人。
それだけで、一人の少女の世界は、崩壊した。
「うあぁぁぁぁぁ!!」
少女は、嘆く。悲嘆に暮れ、叫び続ける。
少女に救いの手を差し伸べるものは―――
「……死に…たい」
もう、誰も居なかった。
◆◇◆◇◆◇
「キャアァァァァァ!!」
私は、そう叫んだ後、無線機を落とし、踏み潰した。
悲痛な音を立てて、無線機のランプが消える。
余り役に立った物とは言い難いが、小道具としては、それなりに働いたと思う。
もう、用済みだが。
「さて……」
私は、後ろを振り返る。そこには、このふざけた茶番劇の監督がいらっしゃった。
「これで、良いのかしら?」
奴は、頷いた。
「なら、早く行きましょう。ここは、寒いわ」
ぐずぐずしていると、姉さんが来てしまうかもしれない。それだけは、避けたかった。
心に、迷いが生じる前に、姉さんの手が届かない場所まで行かなくてはならない。
屋上を出る奴の後を追う。
振り返ると、無線機の残骸が残っていた。
もう二度と、会えないかもしれない。
だから、けじめだけは、付けたかった。
「…さようなら、姉さん」
同じく、会話にてお送り致します―――
舞「無理でしょ」
桜「無理ね」
雪「……そうですね」
葵「尋問するべきね」
舞「そこまでしなくても良いわよ…」
雪「でも、頑張った方ではないですか?既に新作の四話までは、完成してる筈ですよ?」
桜「そうでもないです。第一話は、書き直し、第四話に至っては書き掛け…」
葵「でも忙しいのは相変わらず。部活じゃ製本の真っ盛り。一週間おきに入る模試。そう言えば、数ヵ月ぶりに学校、塾行く以外の目的で外出してた」
舞「何処に?」
雪「人と映画のヱヴァンゲリヲンを見に。曰く『まさかこんな田舎に来るなんて…』と」
桜「ヱヴァンゲリヲンを見出したのは、人の影響…ってそんな事はどうでも良いです」
雪「はっきり言いませんか?」
葵「いい加減に待ってる読者さん達が怒りそうね」
桜「姉さんの(色々な意味でギリギリの)グラビアを差し出しましょう。許して貰える筈です」
雪「…なんで私ですか!?」
全員(雪華以外)「その胸に訊け」
雪「好きで大きくなった訳じゃ……あ」
全(姉妹以外)「極・刑♪」
雪「にゃああぁぁ!!」
(雪華逃亡。桜華以外追撃)
桜「……端的に言うと、一月中は多分無理です。戦記なんて再来年の話になりそうです。戦記は、書きたいと言っているので多分書くでしょう。魔術も…作れても月に一度の更新になるでしょう。誠心誠意努力中だそうです。コメントとか見れば…やる気が出るかも知れないわね。意見、感想、何でも待ってるわ。……姉さん達も居ないし、次回予告も私がします。VR訓練も終盤。最後に姉さんを待ち受けるのは……そして、偶然聞いてしまう真実とは。次回『第20話 過去との決別』。お楽しみに」