第17話 Sad roundelay
果たして何れ程の時間戦い続けたのだろうか。
次第に迫撃砲の着弾音が遠くなり、銃声が薄れ、戦の終結を示す歓声が遥か遠くで聞こえた時も。
中天に有った太陽が沈み掛けた頃も。
二人は殺し合いを続けていた。
ナイフが折れたら銃を。
銃が壊れたら刀を。
何かに取り憑かれたかの様に持てる力を、武器を振り回し続けた。
大勢を決し、戦の終わりを示す勝鬨が響いた。だが、二人の闘いは終わらなかった。
やがて、太陽が西にその姿を消す頃、立っていたのは一人だった。相手を―――自分で殺めた師の姿を見詰めていた。
血塗れで滑る手で、折れたナイフと弾の切れた拳銃を持って。
斬り合い、撃ち合う。何も言わずに、数時間、殺し合い続け、血塗れになった姿で。
瓦礫と夕陽以外には観客の居ない、正に二人だけの舞台。
その共演者の最期の姿を見ていた。
大嫌い。の、筈だった。そう宣言し、殺し合い、そして殺した。
望んでやった筈なのに、何もない。
憎しみも、喜びも、満足も。
代わりの様に、涙が零れる。こんなに、泣いた事は、産まれて初めてだった。
望んだ事なのに?
自分がしたのに?
嫌いな筈なのに?
何故、私は泣いているのだろう?
悲しいから、と私の中で誰かが答える。
じゃあ、何故悲しいのか?
奪われたからだ、と答えが帰ってきた。
誰が奪った?
それは■■■■
「―――■■■!!」
叫ばずにはいられなかった。切れた喉に、理解を拒んだ脳に襲い掛かる痛み。
誤魔化す様に、馬鹿の様に死体にすがる。
泣く。鳴く。哭く。啼く。
慟哭が私の心を切り裂き、粉々にしていく。
また、奪われた?
否。
奪ったのは―――私だ。
そんな、下らない、簡単な思考に到達する事にすら苦労する。恐らく、私は半分壊れているのだろう。
それ程、大きな物を、私は喪ってしまった。
「…そうだ、桜華…」
思い出した。
まだ、私には残された物が有る。
取り返さなければならない。
喪う前に。奪われる前に。
折れたナイフを捨て、代わりに紫蘭の日本刀を手に取る。不思議と手に馴染んだ。
痛む身体に鞭打ち、私は走り出した。
◆◇◆◇◆◇
昔の話だ。
好きな女が居た。
死を隣に引き連れて歩くこの下らない世界で、そいつだけは、価値有る物に見えたんだ。
やがて俺達は結婚した。親兄弟なんて二人とも居なかったし、こんな世界で悠々と式を挙げられる訳でもない。全ては『おままごと』に過ぎなかったが、それでも俺達は幸せだった。
―――彼女が死ぬまでは。
まだ幼い二人の子を残して、彼女は死んでしまった。否、殺された。何が有ったのかは分からない。夕方には帰ると、朝、家を出て、二度と帰って来なかった。
俺は二人の子を育てる自信はなかった。人の形をした何かに成り下がってしまっていたから。幸い、二人はまだ乳飲み子だ。親の顔など覚えている筈もない。俺は、二人を信頼できる同郷の古い友人に、養子に出した。
それから、俺は気が狂った様に戦場に足を運んだ。否、とっくに彼女を―――アリッサを喪った時から狂っていたに違いない。
気が付けば、数年が経っていた。
俺はその日も『仕事』に出て、汚れた手を汚れで洗い、帰途に付いていた。
「いや!止めて!!」
と、言う声が聞こえたのは、仮住まいまで後僅か、位の頃だった。
大方、何処かの女が襲われているのだろう。力のない者は、奪われるだけだ。誰が悪い訳でもない。
そのまま通り過ぎようとした時、視界の端でチラリと灰色の物が見えた。
興味に引かれて―――と言うよりは、何となしにそれを見た俺は、驚いた。
襲われている二人の少女の髪の色は、灰銀―――アリッサのそれと、同じ物で。
顔もまた、出逢った頃のアリッサとそっくりだった。
間違いなく、その二人はアリッサの忘れ形見。
俺は男達を殺し、行き場のない二人を引き取った。
それから、五年。
結局、二人は自分達が誰の子なのかに気付く事はなかった。
でも、それでいい。
あの二人は―――雪華と桜華は、俺が居なくても生きていける。もう、俺を越えたのだから。強くなったのだから。
あいつら(・・・・)の下劣な欲望にも、打ち勝っていけるだろう。
最期に謝りたかったが、仕方がない。そもそも、謝る資格すら有していないのだ。
『―――紫蘭。』
声が聞こえる。そこに居たのは、亡き妻、アリッサだった。
「…アリ…ッサ…」
眠い。俺はそれに逆らえない。
俺は、意識―――肉体を手放した。
少し雰囲気を変えて、会話風にお送りします。
舞無(以後舞)「ねえ、雪華」
雪華(以後雪)「なんでしょうか?」
舞「作者最近やたらと、だらだらしてない?」
桜華(以後桜)「今日この話も、八割方、突貫で書いてたよ」
舞「一体、あいつは、何をだらだらしてるのよ?」
桜「評定が悪かったらしいね。勉強に忙しいみたい。それに、再来年は受験だしね。高校入試みたいに、二ヶ月弱で偏差値を二十上げるとか、馬鹿みたいな真似も出来ないし」
雪「一週間の半分は、携帯栄養食品で済ませておられるみたいですね」
葵衣(以後葵)「そう言えば、私達を差し置いて、新作書いてるらしいけど、あれどうなの?」
桜「部活の作品書いてたけど、終わったらしいから、書き始めるらしいね。二つ有る内、もう、一話は両方とも出来てるらしいけど。」
舞「手が早いのね…戦記の方はともかく、魔術の方は、三回位、世界を行ったり来たりしてたわよね?」
雪「そうですね。随分お悩みのご様子でした」
桜「で、やっと決まって書き出したってさ」
葵「『白紙』にならないと良いわね」
雪「そもそも、何でこんなに遅くなったんですか?」
舞「あー、あれよ。構想期間一日弱の白紙と違って、二ヶ月は構想期間に使ってるからよ」
桜「そう言えば、この前お茶を持って行った時、魔術の方は、上手く行けば来年の一月には…って考えてるらしいですよ?」
葵「いや、無理でしょ?計画破壊者の作者よ?」
雪「白紙は今の更新ペースらしいですが、新作は、不定期更新を予定してるそうですよ。戦記は、最低でも再来年四月までは、一ヶ月に一回更新を考えてるとか」
舞「そもそも、新作二作品とか、受験生の自覚あるのかしら?」
桜「気長に待つしか無さそうだね。」
舞「まあ、そう言う訳で」
全員「メリークリスマス!!」