番外編2 勇者達vs魔王
風邪引いた所為で、何時もに増してグダクダです。
すみませんm(__)m
世に存在する多くの女子は、和と洋の区別こそあるものの、甘味を好むものである。
その日、第四都市の南ブロックにある小さな喫茶店『月の庵』のボックス席には、四人の若者の姿が有った。
言うまでもなく四人とは、一希、舞無、雪華、葵衣の事である。
普段は刀剣や銃を持ち、日々戦う彼らが何故喫茶店で優雅なティータイムを楽しまんとしているかと言うと。
それは、二日前に遡る。
◆◇◆◇◆◇
「スイーツよ、スイーツ!!」
「……は?」
全身包帯、腕には複数の点滴。
そんな明らかに怪我人の一希が入院する病室に来た葵衣は、開口一番に言った。
「『……は?』、じゃないわ!!スイーツ、そう甘い物よ!!」
「お前は何を言っているんだ?」
「だー!!忘れたの、私達への報酬!?」
「……あー、それか」
一希の頭の中で、やっと話が繋がる。
今回の一連の事後処理は、葵衣が引き受けていた。
何故なら、一希と雪華は怪我で入院しており、舞無は看護で忙しい。彗の場合は自分の後始末に奔走し、一姫に至っては全くの部外者である。関係者であり、自由に動ける人物は、消去法で葵衣しか居なかった。
後始末を任された(と、言うよりやらざるを得なかった)葵衣は、まるで車輪を回すハムスターが如く働いた。
その内容とは、報告書の作成。現場検証。
そして、雪華の暗殺指令の撤回交渉。
本人曰く、
「報告書と現場検証が量的に面倒だった。交渉自体は大して苦労しなかった」
らしい。
銃器シェアトップを誇り、多大な影響力を持つ冷泉銃工の意向に、一都市が逆らえる筈もなかった。
「……つまり、雑誌に載っていたパフェが美味しそうだから、皆で俺の金を使って食べに行こう。そういう事か?」
「ええ、そうよ」
子犬の尻尾のように説明を終えた葵衣は、首を上下に振った。
「…因みに聞くが…一個何円だ?」
今、一希の頭の中には、財布と通帳がふわふわと浮かんでいた。金額によっては、と言う事である。
「さあ…確か五桁は有ったと―――」
「却下」
葵衣の言葉を途中で遮る。問答無用で論外だった。
「お前は、一姫と俺を日干しにする気か?」
金銭感覚の一切が破綻していた昔なら簡単に出していたかも知れないが生憎、今の一希はそうでもない。
「食料が無ければ、菓子を食べれば良いのよ」
「断頭台にでも送られてしまえ!!後、一応は菓子も食料だ!!」
「………と、冗談はともかく」
「冗談かよ…」
「一度行って見たかったのは確かよ。値段もそう高くないし、雪華達にも話しは付けてあるわ」
「財布を握る奴が一番強いって言葉、知ってるか?」
「言葉の意味だけはね」
「はあ…分かったよ」
レフリーが葵衣の勝利を宣言する。
後には、ガリガリに痩せた財布しか、残らなかった。
◆◇◆◇◆◇
「……」
貸切状態の店内には、気まずい空気が流れていた。
「……えっと、どうしてここに居るんだ、一姫?」
「バイトですよ、兄さん」
一希がどうせならと、一姫を誘い、一姫がバイトが有ると断ったのは偶然。
ならば、一希達が行った場所が、一姫のバイト先だったのは、果たして偶然なのだろうか?
「……ご注文は、何になさいますか?」
白いワイシャツに黒のスカート。明らかにウェイトレスの一姫が聞いた。
「え、えっと…季節限定のフルーツパフェを」
「申し訳ありませんが、品切れです。四人ならば、こちらはいかがでしょうか?」
一姫が指差したのは、壁の貼り紙。
『挑戦者求む!!巨大パフェ!!三十分以内に間食すれば無料!!金一封贈呈!!』
の後に小さな字で、
『失敗の場合定価を払っていただきます。』
と書いてあった。
「じゃあ、それ一つ」
「ちょ、ちょっと待て!!…一姫、因みに定価って?」
「三万円ですけど?」
一姫が一希を見た。無表情ながら眼には、『失敗したら許しませんよ?』と書いてある。
「大丈夫よ、四人居るから食べ切れるわよ……多分」
「多分ですか!?」
舞無の実にアバウトな希望的観測に雪華が珍しく言及した。雪華は、甘い物は余り好きではない。自身が巻き込まれる事に、混乱しているようだった。
「どうせ失敗しても風見の財布が痩せるだけよ、気楽に行きましょ?」
「……俺の意思は…?」
「ないわ(よ)」
撃沈。
―――二十分後
それは、絶望だった。
人によっては天国かも知れないそれだが、少なくとも、一希達には、絶望でしかなかった。
罪深い。なんという冒涜。
それは、ヒトと言う名の矮小な存在が起こす神々への反乱だった。
それは、存在自体が、最早悪であった。
「…因みに商品名は、『バベル』です」
ストップウォッチを取り出した一姫が、ピッタリの名前を紹介する。
勝てる気がしない。勝ったとしても、身体データの数値的な意味で、大きな被害を受けるだろう。
だが、それでも……戦わなくてはならない。
如何なる損害を受けようとも、戦うしかないのだ。
一希は、スプーンを手に取った。他の三人も、覚悟を決めたのか既に武器を持ち、臨戦態勢だった。
「では…始め」
ストップウォッチのカチッ、という音と同時に、四本の聖剣が襲い掛かった。
その日の一姫の日記には、こう書かれている。
『あれは、まるで魔王を討たんとする勇者達のようだった…』
と。
結果がどうなったのかは、そこに居た五人以外知らない。
ただ。
ある者の財布が、リバウンド無しのダイエットに成功した―――と言う事は、記録に残っている。