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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
27/83

第27話 護衛最終日 〜矛盾(前編)〜

遅くなって大変申し訳有りません。

一度書いた物が飛んだりして書き直しを余儀無くされてました。


殺す者。

殺される者。

チェス盤の様に白黒ハッキリ別れた舞台、その中央に突如として、存在し得ない“灰色”が現れた。

殺す者でも殺される者でもない“灰色”に敢えて役を与えるとするならば、『救う者』。

―――だが、その“灰色”は、一体、誰を救う積もりで現れたのだろうか?


「そろそろ引き時か…」

彗の義父親が呟いた。

その呟きは決して形勢の不利を悟って発せられた物ではない。

居る意味が無くなった…と言う様な響きだった。

「逃がすと思ってるの?古手鞠影人(こでまりかげと)。」

言葉と共に振られた日本刀は一つの意思表示。

即ち、逃がす積もりは無い、と言う。

「鳥遊。」

だが、彗の義父親―――古手鞠影人は敢えて其れを無視し、代わりの様に鳥遊の名前を呼んだ。

「お呼びでしょうか。」

「其所の奴等を殺れ。」

「畏まりました。」

交わされる事務的な会話には、私情が混もっていない。恐らく、配役を機械に変えても遜色無いだろう。

其の様子に、舞無は背中に寒気が走るのを感じた。

其の寒気を誤魔化すかの様に、舞無は柄を握る手に力を入れた。


「ああ、そうそう。」

影人が業とらしく思い出したかの様に言った。

「依頼はもう今日で終了だ。今までご苦労だった。」


理事長を伴い、影人は背を向ける。

二人の背中は、余りにも無防備だった。

舞無は出来るものなら、影人の背中を斬り付けたい衝動に駆られた。

だが、その衝動を阻まんと、鳥遊が立ち塞がる。

瞬間的に現れ、銃弾を弾いた事から見ても、刀も腕も決して鈍では無いだろう。

故に舞無は、鳥遊のみに意識を集中する。今も悠々と歩いているであろう二人を捨て置いて。

『殺す』気で刀を構える。

其れを見て取ったのか、鳥遊が言った。

「月下程度の刀では、わしには勝てんぞ、小娘。」

言葉と共に、鳥遊の周りの空気が変化する。

腰を心無しか低くし、柄に手を掛ける其の姿は、素人が見ても分かる様な、一流の其れであった。

「……流派を知っていると言う事は、どうせ師匠(ジジイ)と殺り合ったんだろうけど、あの程度で自惚れないでもらえる?」

現に―――

舞無は、月下学園の理事長であり祖父である師匠―――月下右門に数年前に免許皆伝試験の際に勝っている。

あの時は辛勝だったものの、今なら『ジジイ程度』と言うのも訳ない。

因みに、舞無と右門は疎遠である。

より端的に言わせるならば、まだ国境が有った頃のアメリカとソ連が如く仲が悪い。

舞無が雪華と北東ブロックの今にも崩壊しそうな雑居ビルの事務所で暮らして居るのも、其れが原因の一つでも有ったりする。

「あの程度では自惚れては居らんよ。」

「なら、其の証拠を見せて貰いましょうか。」

刹那―――

漆黒と白。

二つの斬撃が交差した。

「祓え、『月蝕』!!」

「疾れ、『要』!!」

叫びと共に交錯した舞無の刀―――月蝕(げっしょく)は鳥遊の刀―――(かなめ)を受け流し、殆ど刀を合わせようとしない。

端から見れば舞無が劣勢に立たされて居る様にも見えるが、そうではない。

其の根拠に、舞無は一歩も後退して居ない。

そもそも、日本刀とは、鋭い刃に因って、相手の血管などを傷付ける武器であって、決して、中国刀の様に武器自体の“重さ”で相手の武器を破壊する物ではないのだ。

寧ろ刃を受け止める事は、刃こぼれを起こし、かえって逆効果なのである。

其れを知っているからこそ、舞無は刀を交えない。

そして―――

打ち合わせようと振られる刀には必ず其れなりの力が込められている。

つまり、振るえば振るうだけ疲労は大きくなる。

反面、受け流す方は実に楽なのだ。

相手の力を利用するだけで、下手をすれば、刀を持っているだけで済むからだ。

舞無と鳥遊が闘い始めてから十数分。

戦況は大きく傾き始めていた。


袈裟懸けに振られた要を舞無が流す。

要が振り切られた事で、鳥遊の右腕が半端無防備となる。其処で舞無が始めて前に出た。

まるで、この時を待って居たと言わんばかりに。舞無が月蝕で鳥遊の右腕を切り裂く。

だが―――

「っ!!」

即座に折り返しで振り払われた要に対し、間一髪で舞無が飛び退いた。

刃先が制服の繊維を僅かに持って行く。

後少し遅ければ皮膚か肉も持って行かれて居ただろう。

「…ケプラーか…」

飛び退いた先で、切り裂いた筈の鳥遊の右腕、其処に付いた痕を見て、舞無が忌々しそうに呟く。

そう。

鳥遊の右腕の袖。

まともに刃先が入った筈の其処には摩擦熱に因って僅かに擦った様な痕が付いているだけだった。

「如何にも。この執事服は、ケプラー繊維で出来ておる。」

「これだから金が有る奴と闘うのは嫌なのよ。」

実際、現在のケプラー繊維で作られた服は、かなりの丈夫さを誇って居る。

其れこそ、鋭利な日本刀で一回斬り付けた程度では、傷付かない程に。

真偽は分からない話だが、『大戦』中に開発されたこの繊維を身に纏った兵士が、弾が雨霰と注ぐ中、防御用陣地(トーチカ)をたった数人で制圧したのは、余りにも有名な話である。

其れ程の防刃、防弾能力を持つ執事服を身に纏った鳥遊に舞無が勝つには、露出して居る頭部か、手を狙うしか無い。

しかし、人間の体は血管が張り巡らされ、仮にどちらかを斬ったとしても、其れが致命傷になりかねず、そんな事をすれば、幾ら自衛(及び護衛)の為とは言え、『ライセンス』を発行されて居ない今では、殺人行為となってしまう。

まさに万事休す。八方塞がり。絶体絶命。

だが舞無の顔に対した落胆は浮かばない。

寧ろ、予想通りと言わんばかりの納得の表情だった。

舞無は身を以て知っている。

何もかも貫く矛が存在しない様に、如何にしても貫けない盾も存在しないと。

一目では越える事が無理だと分かる壁にも、必ず何処かに小さな罅割れが生じて居るで有ろう事を。

そして其の罅割れは、場合に因っては、巨大な穴に成り得る事を。

舞無は静かに刀を構えた。


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