第26話 護衛最終日 〜硝子〜
予告通り投稿です。
が、短いです。
頭の中に漂う、白い色をした濃霧。
雪華は無理矢理其れを振り払い、薄く目を開ける。
部屋に唯一存在する鉄格子付きの窓から入って来る光と束縛する縄から見て、自らが何処かの屋内に監禁されて居る事、意識を失ってから大して時間は経っていない事を推測するのは容易だった。
其の事に対するショックも、何故私が、なんて思いも雪華は抱く事はなかった。
其れについて雪華は、私は鈍いからだろうか、と誤魔化す様に考える。
だが―――
考えずとも、雪華は其の答えを知っている。
五年半前。
否、其れよりも前、初めて人をこの手に架けた時から、雪華は人間として乖離し始めていた。
其れを自覚し、とある出来事で一気に人と言う存在から乖離したのが、五年半前の雨の降る夜だったと言う事だけで。
そして―――
そんな雪華をこの世に繋ぎ止めたのは、たった一枚の写真だった。
倒れた時に頬に付いたのであろう湿った土が雪華に不快感を与えて居るのを無視して、雪華は取り敢えず、自らの置かれて居る状況を確認する事にした。
武器は完璧に取られて居た。が、予想の範疇に入って居たので驚きはしない。
只、誰にボディチェックをされたかが些か気にはなったが。
逃げ出せないとたかを括って居るのかは解らないが、周囲に―――少なくとも視界に人は一人も居なかった。
しかしその代わりに、部屋の中央に置かれたテーブル、その上に楽器ケースと、自らの狙撃銃『wind』が無造作に置かれているのが見えた。
雪華は、『wind』の状態を確認しようと腰を浮かせようとした。
「―――痛っ」
支えにしようとして、床に対して突いた右手の人指し指、中指、薬指に痛みが走る。
床の上を人指し指で探ると、冷たく、鋭い物に当たった。
どうやら、ワインか何かのビンの割れた破片が、指を傷付けたらしい。
三本の指が、次第に血で滑って行く。
じんわりとしながらも無視出来ない痛みを感じる雪華の頭にとある考えが浮かぶ。
其れは無謀としか言えないが、反撃開始の狼煙の火種に成り得るかも知れない物だった。
震える血濡れた指で、雪華は硝子片を摘んだ。
次回、投稿が遅れるかも知れません。ご了承下さい。
…でも、遅くなると言ったら、案外早く出来る作者(笑)