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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
25/83

第25話 護衛最終日 〜遅刻〜

テスト終わりました。

これからも宜しくお願い致します。

PV2000を越えていたので、明日も投稿する…かも知れません。

一応書き上がっています。

かなり短いですが。

一希の身体を襲った散弾の暴風。其れに押し倒される様にして一希は膝を突いた。

散弾に因って乱暴に手術された背中から流れ落ちる紅い液体が、コンクリートや制服に誤って蒔かれたインクの様に広がって行く。

倒れなかったのは、一希自身の体力も有ったのだろうが、一番の理由は、彗が倒れる直前に一希を支えたからに他ならない。

傷口の異常な熱さを吐き出す様に、一希は咳き込み、思わず吐血した。

逆瀬女子校の白を基調とした二人の制服と屋上のコンクリート、其れが忽ち極彩色に染め上げられていく。

「げほっ、げほっげほ」

喉に貯まる異物を吐き出そうとして身体が出す咳が、新たな吐血を引き起こすと言う何とも言えない皮肉に満ちた惨事を起こして居た。

だが、彗はそんな状態の一希にも、染め上げられた自身の制服にも眼をくれない。

彗の視線は、養父と理事長に向けられて居た。

其の眼は、現実を受け入れる事の出来ない人間特有の眼。

彗の視線を知ってか知らずか、理事長は馴れ馴れしく話始めた。

「やあ、風見一希君。どうだったかね、この三日間は?」

声色には、猫を撫でる様で、独特の物が含まれている。

圧倒的な立場から、他者を見下ろす声。

弱者をいたぶる物が、含まれていた。

「……お前等が…出て来る事が無かったら…最高だった…さ…」

咳き混じりに一希は言い、立ち上がろうとした。其れに連れ、腰のホルスターに伸びる右手に、何本もの血の線が描かれていき、吐血の名残か、口から一筋の血が流れ落ちる。

「駄目です、一希さん!!死にますよ!!」

立とうとする一希の左手を掴む彗の叫びを養父は敢えなく打ち消す。

「おいおい、何を言って居る、彗。私は昨日、『殺せ』と命令した筈だが。そんな所だけは、消された両親(くず)にそっくりだな。」

養父は嘲笑った。

其れが次第に哄笑となるのには、数秒も掛からなかった。

「…消され…た…?」

彗が茫然と呟いた。

「ああ、そうだ。お前の両親は、極秘に進められていた研究の内容を破棄する為に第二都市へ行き、消された。どんな風に死んだか…聞かせてやろうか?」

酒に酔った様に饒舌に彗の義父親は語る。下種(げす)だな、と一希が小さく吐き捨てた。

「それに彗。お前が一番分かってるだろう?“Red eyes project”の数少ない成功例が、たかだか散弾程度で死ぬ訳が無い事に。」

彗の表情が凍り付く。

絶対に隠さなければならない汚点を暴かれた様に。

破滅を目前にした無力を実感する様な表情で。

只、凍り付く。

「…“Red eyes project”…だと…?」

乱暴に口から垂れる血を拭い、彗の傍ら、代わりの様に一希が呟く。

「…ああ、そうか。風見一希君。君は自分の出自については知らなかったな。」

納得した様に言うと、彗の義父親は、一旦言葉を切る。

咄嗟に一希は耳を塞ぎたかった。

其の先に発せられる言葉を聞けば、取り返しの付かない事になる気がした事が所以だった。

だが、一希にそうさせなかったのは、一希自身の好奇心。

知りたいのに、何れ程調べても解らなかった答え。

答えを目の前に差し出すと言う悪魔の囁き。其の囁きに耐えきれる人間がこの世界に果たして何人存在するだろうか?


「―――お前と妹の二人は、軍事目的の為に実験で作り出された怪物だ。」


一瞬、世界が停滞した。

「……嘘っ…だろ…」

耳は受け入れても、脳は情報の受け入れを拒む。

その代わりの様に、一希の脳は、精神を保護する為に意識のブレーカーを意図的に落とす。

大量出血でだった事も手伝い、大した抵抗も出来ぬまま一希は呆気なく意識を闇に沈めた。


一希の身体が意識を手放した事で、身体に掛かる重さが重くなったのを、彗は半端他人事の様に感じて居た。

抱く感情は―――恐れ。

「彗。」

言葉と共に彗に人指し指が突き付けられた。

「今なら未だ許してやらん事も無い。―――風見一希を殺れ。」

人に指図する事に慣れた口調だった。

人を無理矢理従わせる空気を纏い、絶対的な言葉を放つ彗の義父親。

そんな義父親に人形(マリオネット)にされて来た彗は―――

「……です。」

「…何だと?」

言葉の意味が解らなかったのか、本当に聞こえなかったのか、彗の義父親の表情から嘲りと言う名の微笑が消える。


「嫌です!!私はもう貴方の言いなり人形なんか……古手鞠彗と言う役を止めます!!」


―――恐れを消し飛ばし、生まれて始めて義父親に逆らった。

彗は一希の太股に手を伸ばす。其処は勿論、彗の袖も血に濡れて居た。

―――来たら撃つ。

一希のcrossoverを構える事で言葉無くして宣言する。

其れを見ても彗の義父親と理事長は動揺の欠片も見せずに歩き出す。

まるで、彗が撃てないと確信しているかの様に。

引き金に指を掛ける彗の脳裏には、一希の言葉が繰り返し響いて居た。

『自分の意思を持った状態で慣れたら―――

―――もう、戻れませんよ。』

―――私はこの二人を撃って良いのだろうか?そう彗は自問する。

今までの様に誰かに強要されて居る訳では無く、自分の意思で撃とうとしている。

人を殺す事にはもう慣れて、否、慣れさせられてしまったこの状態で、自分の意思を付加して撃ったとして、私は戻れるのだろうか?

知らず知らずの内に、グリップを握る力が強まる。

指と指の間、其処に紅い線が浮き上がり、溢れた液体が、指に新たな線を描く。

それでも。

私達が助かるには、この二人を殺すしかない。

彗は覚悟を決めた。

だが、少しずつ距離が詰められて往る事で、自らの焦りを生み、判断力を低下させて居る事に彗は気付かなかった。

つまり。

義父親達が彗の発砲に対して、何等かの対策を講じて居る可能性を考える事が出来なかった。

彗は引き金を引いた。

高らかに火薬の炸裂音が響き、予想以上に強い反動が手を蹴り上げた。

彗の意思を籠めた弾丸は銃口から飛び出し、飛翔し―――

―――ガキンッ!!

呆気なく、墜とされた。

「……何で…?」

彗が驚愕したのは、弾丸が防がれた事に対してではない。


「…三日振り、ですな。お元気そうでなによりです。お嬢様。」


死んだ筈の鳥遊が、悠然と日本刀を構えて立って居た。

逃げる力も意思も、絶望に塗り潰された彗の手からcrossoverが零れ落ち、小さな音を立てた。

義父親は其れに何の気も止めず、数メートル先で立ち止まった。

懐から抜かれたSBG拳銃、其れに着装されたレーザーポインターの光線が貫くのは、彗の眉間。

殺される者と殺す者。

火を見るよりも明らかな配役だった。

「遺言は?」

「……絶対に…許さない。」

彗に取っての最期の小さな反抗。

別れの言葉無くして、銃声が響く。

彗は死への誘いの衝撃に備え、目を固く閉じる。

目蓋の裏に決して幸せとは言えない今までの人生が、手向けだろうか、紅と灰色に彩られ流れて行く。

「………」

とある映像に彗は小さく誰かの名前を呟いた。

まるで祈りを捧げる聖女の様に。

其の祈りが通じたかは分からない。

彼女達に取っては計算済みの出来事だったのかも知れない。

―――とにかく、其れは来た。


―――ガキンッ―――


「―――女の子一人、まともに護れない様じゃあ減給ね。」


突如吹いた風。

思わず目を開けた彗の眼に飛び込んで来たのは、黒い背中。

逆瀬の物では無い漆黒の制服を身に纏い、中途半端な長さの黒髪を揺らして居る。

其の手には、一振りの同じく漆黒の日本刀。

太陽の光すら吸収しているかの様に、鋼独特の光沢すら持たない刀身、其の乱れ刃からは、魔力的な物を感じられる。

「まあ、身を挺して護ったみたいだし、私も遅刻したし、帳消しか。」

少女は、彗と一希をチラリと見る。

「色々聞きたい事が有るけど、先にあんた達を叩いてからにするわ。」

弾丸を弾いた日本刀を軽く一振りして、少女―――月下舞無は宣言した。



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