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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
24/83

第24話 護衛最終日 〜味方〜

すみません、リアルが忙しくて昨日投稿の筈が、遅くなりました。

掛け直しを覚悟して居た雪華に取って、人目が無い校舎裏まで辿り着く約一分半の間、携帯が震え続けて居たのは予想外以外の何物でも無かった。

しかし、其の予想外は、何処か一抹の不安を抱かせるのには、充分だった。

立ち止まり、周囲に誰も居ない事を楽器ケースを地面に下ろしながら確認すると、雪華は携帯を開く。

ディスプレイに表示された文字は―――『葵衣』。

「はい。」

『雪華?今何処に居るの?』

耳に飛び込んで来た其の声は、何かを急いて居る様に聞こえた。

「逆瀬だけど。どうしたの?」

『二日前、依頼した案件を調べ終わったの。』

「ああ、あれね。別に今じゃなくても―――」

『緊急よ。…先ず最初に、あの爆弾を作ったのは、二神篝だった。』

「あの二神が…?でも、其れなら別に良いじゃない。二神なら昨日逮捕されて、貴方の所に居る筈でしょ?」

『勿論其れだけだったら、電話なんてしないわ。二神が自分の意思で爆弾を作ったのなら。』

「…どう言う事。」

『爆弾を作ったのは二神。でも、彼は利用されただけ。彼には依頼人(クライアント)が居た。』

そして、葵衣は一旦言葉を切った。

決して長くは無い沈黙の間に雪華は、口の中が乾くのを感じた。

そして言葉は訪れ―――


『依頼人は二人。其の二人は―――』


無かった。

葵衣の言葉が雪華の耳に届くよりも早く、雪華の身体を電流が走り抜けた。

其れがスタンガンに因る物と分かる間も無く、白い制服に包まれた身体は、声すら無く地に墜ちる。

代わりに、取り落とした携帯が耳障りな音を立てた。

『……雪華?ねぇ、雪―――』

通話が途切れ、人の声が消えた其処には、楽器ケースと執事服を着た男が、まるで墓碑の様に立って居た。


金属独特の生気無い冷たさが、首筋を撫でる。

一希は、当然ながら、動けずに居た。

屋上から飛び降りても怪我一つしない一希も、流石に銃で撃たれる事は避けたい。

銃弾相手では、流石にこの化け物じみた身体も役に立たない事を知って居るが故だった。

最も、駄目だと判って居るのは銃弾だけで、他に何が駄目で何が大丈夫なのかは、一希も知らない。

実際に試して見ると言う手も有るだろうが、自ら傷を負って実験台に成る程、一希は歪んでは居なかった。

風が、二人の髪の毛を揺らした。

「……一つだけ、聞かせて。」

一希は、静かに問う。

「…何ですか?」

彗も静かに答える。

「今、私に銃口を向けて居るのは、自分の意思ですか?」

一希は別に彗が銃口を向けて来た事には、何の感情も抱いて居ない。

自らの保身も考えた訳でも無い。

もし此れを彗が、自分の意思でやって居ないのだとしたら。

誰かに命令されてやって居る事だとしたら。

止めさせる必要が有った。

其の先に待ち受ける負の連鎖の恐ろしさを一希は身を持って知って居るからだ。

「どうなんですか?」

一希は、再び静かに問う。


「今、私に銃口を向けて居るのは、自分の意思ですか?」

一希が言った時、私は僅かに―――仮面の下の殺した心の中で―――動揺した。

其の問いが、自らの中で燻る火種と、殆ど同じ内容だったからだ。

思えば―――

今まで、数え切れない人数を殺めてきた。

最初は、恐怖を伴った。

だが、段々何とも思わなくなった。

何とも思わなくなるに連れ、世界から色彩が消えた。

自分を含め、人が『モノ』に思える様になった。

だから、死んでも良かった。

護衛の一日目も二日目も。

あの爆弾騒ぎの時、二神が襲って来た時、私は寧ろ安堵し、歓迎した。

死ねるかも知れない、と。

だが、目の前の少年―――風見一希は、死なせてくれなかった。

其れについて責めるのは、お門違いだとは思う。

だから、責める積もりは無い。

又、失望して、死ねる日を待ちながら、死んだ様に生きる。其れだけだ。

だが、昨日。

一希を殺せと言われた時、何とも言えぬ感情が出て来た。

其れは殺すと言う事に対する抵抗感でも、養父に対する反感でも、ましてや罪の意識でも無かった。

なら、私を止めようとして居るのは―――

「どうなんですか?」

一希の声を契機に、私は思考を葬る。

葬った積もりだった。

「…もう慣れました。」

だが、思わず殺し切れ無かった思考の断片が口を飛び出す。

「慣れちゃったんです。意思がどうこうじゃなくて、人が『モノ』に変わったり、裏切られたり、命令されて自分の意思を無視して手を汚す事なんて、もう遥か昔に。」

「……」

一希は何も言わない。

だが、そんな事を気にせず、思いのままに言葉を吐き出す。

「一番最初は両親の死だった。其の次はメモリーチップ。PMC。人殺し。仕舞いには監視の為の養子縁組。もう、かつて居た筈の『此瀬 彗』は役でしかない!!」

其れは苦しさを伴う事の無い記憶の奔流だった。

その証拠に、小瓶に手が伸びる事は無い。

「だからもう良い。私は此れからも都合の良い死人の様に生きて行く!!自分の意思なんて捨てた!!」

肩で息をして、呼吸を整える。

抵抗する絶好の機会だと言うのに、息を整える間、一希は動きもしなかった。

「なら、止めた方が良いです。」

暫くして、其の言葉と共に振り返った一希は、やはり私でも驚く位の美少女だった。

右目の黒のカラーコンタクトには、隠し切れない紅が浮かんで居る。

「己の意思を捨てた位なら、まだ私と違ってやり直せる。でも、私みたいに自分の意思を持った状態で慣れたら―――」

―――もう、戻れませんよ。

一希の目に、光が有るのが見えた。

其の光に、親近感が涌いた。

と言うより、其れは私が持って居る物だと悟る。

「…一姫さんも、色彩が無いんですか…?」

「…私には、今大切な物が、護るべき物が有ります。色彩は、其の人達がくれました。」

羨ましさを覚えた。

一希に対しても、其の人達に対しても。

「……私には、そんな人は居ない。」

回りに居るのは、敵か中立の人間だけ。

味方、と言える人間は、居ない。

「なら、私がなりますよ。これから、一つ一つ取り返して行けば良い。」

其の言葉に。

何かが私の中で―――崩れた。

右手からRATが落ちると同時に、視界がピントの合って居ない写真の様にぼやけ、頬を何かが伝う。

何故一希は無条件でそんなに優しくしてくれるのだろうか?

其れを考える暇も無く私は目の前の『味方』に飛び込んだ。


「…う…うわあああああ!!」

泣きながら飛び込んで来た彗を、一希は避けずに受け止める。右手が、背中の震えを伝えて居た。

制服の湿り気を感じながら、一希も又、羨ましさを彗に抱いて居た。

―――まだ、取り返しが付く運命(さだめ)の少女に。


彗が嗚咽を収め、落ち着くのに、十数分を要した。

「……私、此れからどうしたら良いんでしょうか?」

そう聞かれた一希は困った。

思えば彗は誰かに命令されて一希を殺しに来た筈で。

一希を殺す事に失敗(?)した以上、何らかの制裁が有ってもおかしく無い。

護衛としても、味方としても、何処か安住の地を探してやる必要が有った。

事務所なら、戦力的にはともかく、場所の安全性に欠ける。

自宅なら、一姫を巻き込んでしまう可能性が有る。

この二つ以外の場所で、人を匿えそうな場所は一希の知って居る限り一つしか思い浮かばない。

「一旦、冷泉銃工の友人の所に匿って貰いましょう。」

「今からですか?」

「ええ、善は急げです。」

一希が彗の手を引こうとした其の時だった。


「―――その必要は無い。」


彗が落雷に打たれたかの様に、ビクッ、と揺れる。

振り返った彗の口から出たのは弱々しい声だった。

「…お義父様に…理事ちょ―――」

彗の声は、銃声に掻き消された。

理事長が微笑と言う名の嘲笑を浮かべる横で、彗の義父親の指が無造作に引き金を引くのが早かったか。

危険を本能的に察知した一希が、彗と自分の位置を、突き飛ばす様にして入れ換えるのが早かったか。

「ぐあっ!!」

結果は、後者だった。

彗の義父親の持つ狩猟用のショットガンが、散弾と共に硝煙を吐き出し。

一希の全身―――特に背中に大小様々な花が咲いた。

只一つ共通して居たのは。


「一希さんっ!!」


次第に大きくなって行く花の色が、全て紅だと言う事だけだった。



『考査に因る此れからの更新予定について。』

次回の公式の更新は、3月1日前後となります。

ですが、作者が現実(考査)から逃亡する可能性も有る為、もしかしたら、一話か二話程度更新するかも知れません。

此れからも何とぞ宜しくお願い致します。m(_ _)m

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