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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
20/83

第20話 護衛二日目 〜過去の傷〜

お待たせしました。

遅くなって済みません、部活(文芸部)が忙しかったので。


「―――二神篝が犯人?」

「はい。」


夜七時を過ぎた事務所。

蛍光灯の光に照らされた其処で、舞無は机の上で、腕を組み、PMCによる取り調べを受けてから彗を送り届け、帰って来た一希から報告を聞いて居た。

因みに一希は、女装のままで、肩の血糊すら拭いて居ない。

聞いた所によると、雪華は、昼過ぎに起きて(舞無は午前中に起きた)、色々ずれた事…と言うよりは、奇行を繰返し、今は、ソファーの上で、ブランケットにくるまり、ボンヤリとした表情だが、飲酒の翌日は、何時もこうなので、二人は気にしない。

其の元凶である舞無が気にしないのは、甚だ問題かも知れないが。

「腑に落ちないわね。」

「やっぱり、舞無さんも、そう思いますか?」

舞無が頷く。

「ええ。貴方達が護衛に付いた途端にこの二日間だもの。嫌でも思うわよ。『出来すぎてる』って。」

確かにそうだ。

護衛に付いた初日から、通り魔はおろか、爆弾騒動が有り、そして今日になって通り魔がやって来た。

まるで、一希達が護衛に付くのを待って居たかの様に。

だが、今はそんな事よりも、気になる事が一希には有った。

「舞無さん。人間を化け物にする方法って、どんなのが有りますか?」

「化け物?」

舞無が首を傾げる。

同時に目が、可哀想な人を見る物になって居た。

悲しきかな、一希はもうそんな視線には、慣れっこだった。

「ええ、化け物です。弱装弾とは言え、四十口径の弾を脚に何発も喰らって、立ち上がれる程の。」

「……まさか。二神がそれだったの?」

「……」

一希は沈黙で、肯定を示す。

「…人を化け物にする方法、か…思い付かない事は無いけど…」

「例えば?」

「そうね、精神を破壊して置いて、空っぽの精神に、命令を植え付けるとか。」

当然、実践はされて居ない物の、今の都市の科学技術や医療技術を駆使すれば、其れは造作も無いだろう。

「でも、其の方法だったとしても、銃弾を受けて回復する事は無いですよね。」

「化け物、って言った理由はもしかして其れの事?」

「正確には、驚くべき頑丈性ですかね。弱装弾をまともに脚に受けても、走れる…そんなレベルのです。」

「そんなレベルを作るなら、多分其れは―――」

其処で唐突に、舞無は言葉を切った。

其の顔からは、血の気が引き、驚愕、と言うよりは、絶望に近い。

「……どうしたんですか、舞無さん?」

だが返事は、帰って来ず、一希の声は、事務所の中で反響し、虚ろに消えた。

舞無も一希も、互いに何も言えずに、気まずい沈黙が事務所を支配した。

しかし、其の沈黙を、雪華が破った。

「…一希さん。そろそろ、帰った方が良いですよ。この街も危険になりますし、心配して居ると思いますよ?」

雪華は、誰が、とは言わない。

しかし、一希の頭に浮かんだのは、たった一人しか居ない。

「…そうします。」

このまま話して居ても、何にもならない。

そう判断した一希は、雪華に見送られ、事務所を後にした。


一希の姿が扉の向こうに消えた。

其れを見届けると、雪華は舞無の元に歩み寄る。

まだ微量のアルコールが残って居るのだろう、僅かに視界がぶれる。

舞無は何時の間にか、机に伏せて居た。

其の肩は、僅かに震えて居る。

決して償えない自らの罪を意識した罪人の様に。

雪華は、舞無の背中にそっと手を置く。

手が触れた瞬間、舞無の背中が、一瞬、大きく揺れた。

「舞無さん、一希さんは帰りましたよ。」

「…………そう。」

舞無は、顔を上げた。

其の顔は、蓄積した疲れが一気に襲って来たかの様に、憔悴仕切って居た。

「大丈夫ですか?」

雪華も何故舞無か此処まで憔悴して居るかは分からない。

恐らくは、話せない事なのだろう。

しかし、其れに付いて、言及する積もりは、雪華には無い。

隠して置きたい傷をまさぐられる苦しさを、雪華は知って居るからだった。

故に、気遣う事は出来る。

否、気遣う事しか術が無かった。

「……大丈夫。有り難う。」

其れを聞いても、雪華は、舞無の背中を擦って居た。


「雪華。」

舞無が再び言葉を発したのは、其れから約数分後の事だった。

「何ですか?」

聞くと同時に、雪華はそっと手を離す。

「…何時か向き合わなければいけない事に向き合うタイミングって、何時だと思う?」

暫しの沈黙の後、雪華は口を開いた。

「…其れは、どうしても、向き合わなければならない事ですか?」

「確信は無いけど、多分ね。」

舞無の目に何時もの―――彼女に飲酒をさせた時の様なふざけた様子は無い。

正に、真剣その物だった。

とは言え、雪華自身にも正しい答えは出せない。

彼女自身も、未だに自分の『傷』に向き合って居ない事が、其の所以だった。


「―――何時でも、良いと思いますよ。」


だから、雪華は、そんなありきたりの答えしか出せない。

「何時でも、向き合う事が出来ると思います。其れに向き合おうとする、行動と、其れに見合う、覚悟が有れば。」

其れは、雪華自身が、持とうと望んでも、持てない物だった。

行動はともかく、今の雪華は、覚悟を持って居ない。

否、持てない。

何故なら、彼女の覚悟を、彼女から遠ざけて居るのは―――彼女自身。

更に詳しく言えば、恐怖であり、絶望。

もし、結果が凄惨たる物だったら?

もし、結果によって、自分が、更なる絶望に堕ちてしまったら?

其れ等は、雪華の心を緩やかに、だが、いざとなれば、強力に締め付ける見えない鎖。

鎖の存在を、其れに締め付けられる自分を、雪華は昔、嘲笑った。


―――まるで、何者かに(いと)で操られ、弄ばれる道化師(にんぎょう)の様だと。


そして、今は、嘲笑う事さえ、忘れてしまった。


「…覚悟…か。」

舞無が、其の言葉を自らに言い聞かせる様に呟いてから数秒後。

「雪華。」

「何でしょう?」

「長い話になるけど…聴いてくれるかしら?……私の…罪を。」

「……はい。」

舞無は話始めた。

其れは、雪華の想像の域を遥かに越え、同時に、この都市、否、世界の基盤を揺るがしかねない話だった。


次は、彗と一希視点(予定)

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