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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
17/83

第17話 護衛二日目 〜登校〜

お待たせしました。

約二時間後。

事務所を出た一希は、一旦自宅に帰って時間を潰し、護衛の引き継ぎをする為に、逆瀬女子高の正門に居た。

逆瀬女子高は、所謂、『お嬢様学校』で、さっきから正門前の異常に広い車止めに、運転手付きの黒塗りの高級車が停まっては、去って行く。

「…此処は何処の映画の世界だ…」

余りにも非常識な光景に、一希は思わず本音を漏らした。


待ち始めてから十分程度経っただろうか。

「済みません、待ちましたか?」

一台の車の中から、彗が降りて来た。

「いえ…今来た所です。」

定番とも取れる台詞を返しながらも、一希は素早くドアを開けた運転手を盗み見た。

彼の腰には、最も第四都市に出回って居る、冷泉銃工社製大型大口径拳銃『ソードブラストSBG』がホルスターに収められて、吊られて居た。

一希は僅かながらに昨日の運転手ーーー鳥遊に同情した。

死んでも、直ぐに代わりが補充されると言う、使い捨ての様なその身に。

そして、後悔して居た。

あの時、確実に全員が助かる方法は無かったのだろうか、と。

終わってしまった事を悔やんでもどうしようも無い。

其れを知っているにも関わらず、答えの見つからない思考を断ち切れないのは、自分の弱さなのだろう、と、一希は思う。

「…行きましょうか。」

そんな一希の心中を悟ったのか、彗が促した。

「…ええ。」

そうして、歩き出した二人だが、二人の間には、何処か重い雰囲気が漂って居た。

「彩萠さんは、どうされたんですか?」

そんな重い雰囲気を振り払おうとしたのか、平静を装いながらも、彗が聞いた。

「彼女は、風邪です。私の所に、朝方電話が有りました。」

普段言い慣れない、『私』と言う単語に、危うく噛みそうになりながらも、一希は答えた。

勿論、二日酔いで寝込んで居ます、とは口が裂けても言えないし、そんな事を正直に話す程、一希も馬鹿では無い。

PGCには、当然武力も必要だが、傭兵と異なり、依頼人(クライアント)や、対象との信頼も重要となって居る。

其れが任務の、成功に大きく関わって来る事も有るからだ。

故に、今の信頼が±0だったとしても、一希には、其れを−へ傾ける積もりは無い。

「…そう言えば、二神先生、今日は休みらしいですよ。」

「何時もあの人休んで居る様な感じがするんですけど。」

実際、昨日のHRや授業もいい加減の一言に尽きた。

「そう思いますよね?」

「ええ。」

「でも、先生、欠勤は、一回も無いんです。」

人は見かけに寄らない物だ。

「そうなんですか。」

何気無い言葉に受け答えしながら、一希は、何とかこの雰囲気を払拭しようとしてくれて居る彗に、感謝していた。


何故なら。

一希の中に浮かんでは沈む、答えが見つからない思考。

其れが彗と話して居る内に、少しずつ薄れて行って居る気がしたからだった。


転校生と言うのも、一日経てば、只のクラスメイトと成り下がる(?)事が出来るらしい。

質問と言う名の攻防戦は多少有った物の、名も知らぬ室長の注意に因って、昨日の様な混乱は無かった。

「早く席着けー。HR始めるぞ。」

チャイムの音と共に入って来たのは担任の二神では無く、岡部とか言う名前の副担任だった。

「二神先生と彩萠は、今日は風邪で休みだ。君達も自分の体調に気を付ける様に。」

出席簿を見ながらの副担任の言葉に、教室が軽くざわめいた。

どうやら本当に、あのやる気が無さそうに見える教師の欠席は、やはりクラスの人間に取って、予想外な事だったらしい。

ざわめきが収まった後、僅かな連絡事項が有り、HR終了のチャイムが鳴る前に、HRを終わらせた岡部は、そそくさと教室を出て行った。

再び喧騒を取り戻した教室の中で、一希は少しの間軽く目を閉じた後、目を開けて、窓の外を見た。

何処の教室の窓からでも見える時計塔。

昨日は何も感じなかった其れが、今日は、天に向かって伸びる墓標の様に見えた。

其の様子に、何とも言えない胸騒ぎを感じた一希は、知らず知らずの内に、スカート越しに、crossoverを収めたホルスターを押さえて居た。


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