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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
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第16話 護衛二日目 〜悪癖〜

学校からの投稿です。

学校の校舎がボロいので寒い。

誰にでも悪癖は有る。

例えば、一姫には、本を読み始めたら止まらないと言う悪癖が有るし、一希は、椅子に座らないと眠れないと言う悪癖が有り(だから、一希は部屋にベットを置かない。)、冷泉葵衣は、感極まると、校内で普段より盛大な爆発を起こす。

だからと言って。


「今日に限って流石に此れは無いだろ…」


まだ、高校生が活動を始めるには、まだ早いで有ろう早朝五時半。

一希は、雪華が仕立て直して居るで有ろう制服を、事務所に取りに来て居た。

合鍵で入った事務所、自分のロッカーに掛けられた制服は、しっかりと直されて居て、昨日の解れや裂けは、跡形も無い。

問題は無かった。

有る一点を除いては。

「すぅ…すぅ…」

ソファーの上で、ブランケットにくるまり、規則正しい寝息を立てて居るのは、雪華。

「すぅ……すぅ…すぅ…」

対して、反対側のソファーの上で、何も掛けずに、規則正しいとは言えない(?)寝息を立てて寝ているのが、舞無。

そんな二人に共通して居るのが、顔がうっすらと赤くなって居る事(特に雪華はかなり赤い)、そして、ソファーとソファーの間に有る応接机に二つのコップと、二本のビン、数本の缶が置かれて居る事、そして、缶には、一部部分に全て同じ言葉が書かれて居る事だった。


『お酒は二十歳になってから』ーーー


「……」

飲酒。

其れが二人の…と言うよりは舞無の悪癖だった。

自分一人で飲むのなら別に構いはしないのだが、舞無は、酔った勢いで、雪華にも酒を勧める(と言うより、飲ませる)。そして、極端に酒に弱い雪華は、舞無に押し切られて飲み(飲まされ)、飲んだ翌日は少なくとも十一時頃になるまで起きれない。所謂、二日酔いだ。

一希は、何度も、せめて飲むなら少しにしろと言って居るのだが、舞無は『酒は百薬の長』と言って譲らない。

机の上のビンや缶を見る。

此れだけ飲めば、百薬どころか、百毒だ。

取り敢えず、今分かる事は。

「今日は、護衛は無理、か。」

昨日あんな事が有った以上、これ以上の失態を重ねる訳にはいかない。

其れを考えると、雪華を無理矢理動かすより、今日は自分一人でやった方が良いだろう。

そう思いながら、一希は、換気をする為に、窓を開けた。

お世辞にも新鮮とは言えない北東ブロックの空気が、まだ薄い日の光と共に、酒の匂いに痺れた肺に、染み込んだ。

一希は溜め息を吐くと、改めて、窓際ーーー雪華の指定席から、事務所の中を見た。

ソファーの上で眠り続ける二人。

そんな二人を見て居ると、思わずこの世界が平和な物に思えてしまう。

だが、二人は実際に武器を手に取って仕事をして居る。

依頼人から与えられた殺人の権利と、命令で、己が手を汚した事も、一度や二度では無いだろう。

今迄に数人しか殺した事が無い一希でさえも耐え難い慚愧の念に晒される。

仮令、其れが悪人だとしても。

しかし、この二人は自分を遥かに越える量の罪を背負い、其れが償いで有るかの様に、第四都市の片隅に有るこの事務所にひっそりと同居して暮らして居る。

そんな思いが枷となり、平和に見える第四都市の景色をまるで芝居の背景の様な希薄な物に変え、僅かに一希の心を重くするーーー

「ん…」

ソファーの上で、雪華が小さく寝返りを打った。

その所為なのか、解いた長い髪の一部と一緒に、留め金が緩んで居たのだろう、細い銀の鎖の小さな写真入れ(ロケット)が首から落ち、小さな音を立てた。

その音で我に帰った一希は、窓枠から腰を下ろし、其れを拾った。

細工の細かさが、安物では無い事を、各所に付いた細かい傷が、身に付けてから長い年月が経って居る事を示して居た。

一希は、ロケットを見つめた。

中に入って居る写真は、一希も舞無も見た事が無い。

其れを暴く事には、多少の興味が有ったが、一希は、其れを実行に移そうとは思わない。

一希が一姫を譲れない物で有る様に、そのロケットに入って居る写真も、雪華に取って、譲れない物では無いかと思えたからだった。

でなければ、中身を見せない所か、身に付ける事すらしないだろう。

結局、一希は中を見る事無く、静かにロケットを机の上に置いた。


二人の死角で制服を着替え(と言っても、二人は寝て居るので、死角も何も有った物ではないが)、メイクをして、変声ガスを吸い込み、『風見一姫』となった一希は、雪華の目の前で雪華の携帯に、今日は自分一人で護衛に付くと言う旨のメールを送った。

本人の目の前で、メールを打つと言う行為に、奇妙な感覚を覚えながらも、マナーモードの雪華の携帯が震えた事を確認し、一希は事務所を出て行った。


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