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白紙の地図と高校生のPGC 〜half red eyes〜  作者: 更級一矢
第一章 Half Red Eyes 編
15/83

第15話 少女との契約

[報告]

小説のサブタイトルに、『第〜話』と付けました。

また、『第1話 プロローグ1』の修正を行い、『第12話 一希と一姫と贈り物』に於いて、一希の拳銃の名前を『cross over』(クロスオーバー)に変更しました。

ご迷惑をお掛けしました事を、謝罪させて頂きます。m(__)m


アクセス数が650を普通に越えて居ました。

何時も読んで下さる皆さま方、本当に有り難うございます。此れからも、宜しくお願い致します。


「お、お前、自分が何したか分かってんだろうな!」

強盗達からは、先程までの勢いは消え失せて居た。

其れは、決して自分達に銃口が向けられて居るからと言う理由から来る物では無い。

気圧されて居た。

紅に染まった、たった一人の少年に。

何とか言葉を返せたなら、まだ良い方で、残りの一人は、腰が抜けたのか、座り込んで居た。

「何の事だ。」

その少年ーーー一希は、目の前の強盗の頭部に銃口を向け、言った。

「こいつは、俺の妹を手に掛けようとした。」

一希は足下に転がった死体を軽く蹴る。

「…だから、『処分』しただけだ。」

「な、なら、お前も其処の妹と一緒に処分してやるよ!!」

叫ぶ様に言うと、強盗はショットガンを構えた。

装填されて居るで有ろう散弾を喰らえば、一希は勿論、後ろに居る一姫も只では済まないだろう。

だが、一希は動じない。

動かない的でも、素人なら外すと言われる五メートル先、其処に有る眉間を正確に標準したままで。

数秒の後ーーー

二人の指に力が入りーーー

「ギャアァァァァァ!!」

一発の銃声と、悲鳴が響いた。

銃は、一希が撃った。

悲鳴は、強盗が挙げた。

銃口から熱風と共に、放たれた弾は、強盗の頭部が有った所の空を切り、壁にめり込んだ。

にも関わらず、強盗は、ショットガンを取り落とし、床に崩れ落ちて、喚いて居る。

その理由は、ショットガンの引き金、其処に掛けられて居る筈の人差し指を見れば一目瞭然だった。


人差し指は、引き金と共に、消し飛んで居た。


「お、俺の指がぁぁぁぁぁ!!」

指を押さえ、泣き叫ぶ強盗を、一希は虫でも見る様な目で眺め、再び引き金を引いた。

放たれた弾丸は、狙い通り頭を消し飛ばし、再び、血と脳が混じり合った紅と灰色の花を咲かせた。


銀行の中から、銃声が二回聞こえた。

「ーーーくそっ」

言葉と共に、拳を机に振り下ろす。

指にじんわりとした痛さが襲って来たが、無視した。

PMCの作戦本部。

其処に居る数人の人間は、何もせずに、静観して居る。

自分達の無力と、総司令部への待機命令に怒りを噛み締めながら。

「隊長、もう我慢できません!突入の許可を!!」

自分だってそうしたい。

だから、何度も、突入許可を仰いだのだ。

だが、総司令部は、楽観視して居るのか、それとも、只単に、現状を理解出来ない程無能揃いなのか、待機命令しか出して来ない。

「ーーー今ならまだ間に合う!!人質を解放して、大人しく出て来い!!繰り返すーーー」

頭の中で、プチッ、と何かが切れる音がした。

「五月蝿い!!勧告を止めさせろ!!」


「そうしてくれる?」


不意に、声がした。

「誰だ、お前は?」

其処には、何処にでも居そうな、制服を着込んだ一人の少女が立って居た。

鞘に入った日本刀を持って居る点を除いては。


「貴方が、この部隊の指揮官?」

「あ、ああ。」

思わず頷いてしまった。

「なら、これ。」

少女は、制服から一枚の紙を取り出し、渡して来た。

紙を受け取り、目を通す。

「……何だ此れは!?」

その紙は、総司令部からの指示書だった。

以後、この少女に全権を委譲せよ、と言う内容の。

「指示書だけど?」

見て分からないのかと言う口調である。

「そんな事は分かって居る!!総司令部から全権を委譲されるお前は一体何なんだ!?」

そもそも、此処まで来るのには、規制線が張られて居る。

其所を何の騒ぎも起こさずに通って来たのだから、只者では無い筈なのだが。

そんな怒声を少女は何処吹く風と受け流し、言った。


「只の、女学生よ。」


そして少女は歩いて銀行の中へと入って行った。


「ああ、もしかして、もう片付いてた?」

二人目を『処分』した一希の耳に入ったのは、そんな声だった。

声に反応して、振り向いた一希が見たのは、鞘に入った日本刀を持った、制服姿の少女だった。

「誰だ、あんた。」

一希は突如現れた少女に対して、警戒を緩めない。

一希は、一姫を背にして、三人が一直線上に位置する様に移動する。

すると、少女は歩きながら、

「まぁまぁ、その話しは、残りを片付けてからで。」

と、言って、残り一人となってしまった強盗の前に立った。

「ま、待ってくれ…自首でも何でもするから、い、命だけはーーー」

「残念だけど。」

そんな強盗の命乞いを、少女は遮って言った。

「私達は、『ライセンス』を発行されて居るから。」ライセンス。

頭文字を取って、通称『R』とも呼ばれる。

此処で言うライセンスとは、決して免許などの事では無い。

裏の法律に存在する、強制力を伴った許可証。

其れが意味するのは、『リスト』に指定された標的の抹殺。

手段は問われない。

合理的な死刑よりも、残酷な死刑判決。

つまり、少女が言ったのは、事実上の死刑宣告。

其れを聞いた強盗は、今更ーーー本当に今更だーーー声にならない悲鳴を上げて、逃げ出した。少女に無防備な背中を見せて。

もし、強盗が苦し紛れに銃を撃ったなら、結果は変わって居たかも知れない。

だが、現実はそうならなかった。


「月下流抜刀術三の型ーーー『朧月』」


第四都市を騒がせて居た強盗団は、この瞬間全滅した。


「あんた、良いのか?」

あれから約一時間後。

既に人質は解放され、人も居なくなった銀行内。

其処には、一希と二人の少女の三人だけが残って居た。

人質の救助活動の間、側で二人の話を立ち聞きして居ると(決して、一希に何かしらの悪意が有った訳では無い。)、どうやら、強盗の指を狙撃で吹き(撃ち)飛ばしたのは、この、長い髪を括った少女らしい、と言う事が分かった。

一希は、他の人質達と外で医師の診断と記憶の削除(希望者のみ)を受けて居るであろう、一姫の様子を見に行きたかったのだが、残る様に言われたのだった。

「何が?」

日本刀を持った少女が言った。

「容疑者として、逮捕しなくて。」

殺人の善悪に付いては、一希は聞かなかった。

自分も人を殺したし、もし、少女が殺人を悪と考えて居たなら、殺す事は無かっただろうと推測したからだ。

「ああ、別に良いよ。あいつ等は、『リスト』に登録されてたし、殺せ、って命令したのは、依頼人だし。」

『リスト』。

其れは、『ライセンス』と併用される物で、裁判の前から、死刑が確定して居る程の犯罪者が載って居る物で、其れが意味するのは、『捕まってもどうせ死刑なら、捕まえずに殺しても良い。』と言う物だ。

但し、殺害するならば、PMCが殺害対象に対して発行する『ライセンス』が必要となる。

そして、『リスト』が『ライセンス』と異なって居るのは、一般人に公表されて居るか居ないか。

『ライセンス』は公表されて居ないが、『リスト』は法律として公表されて居る。

但しその場合、『リスト』の説明は、「一定基準を越えた凶悪犯を逮捕せず、やむを得ず殺害した場合、其れを合法的な死刑執行とする。」と言う生温い(?)物となって居る。

生死に関わる法律の為、廃絶を叫ぶ声も大きいが、今の所改定されそうな様子は無い。

取り敢えず、『リスト』と言う言葉を側に置き、『依頼人』と言う言葉に対して一希は聞いた。

「依頼人?じゃああんた達は…PGCなのか?」

学生の身で武装して居る(一希もだが)のを見た時から薄々浮かんでいた職業を一希は口にした。

「まあ、そうなるわね。」少女はそう言って髪を掻き上げた。

「其れより、貴方は?」

「あ。」

すっかり失念していた。

「俺は、風見一希だ。職業は…学生?」

「何で疑問系なのよ…」

少女は呆れた様に言った。

「…あんまり自覚無いんだよ。」

何時の間にか所属していたのだから無理も無いのだが。

「引き籠り?」

「……全然違う。」

「じゃあ、NEET(ニート)?」

「……」

何でも格好良く言えば良い物では無い。

「何でそうなるんだ…」

「雰囲気を見て。」

何時から雰囲気でそんな事を見抜く時代になったんだ、俺が目覚める迄にこの都市(世界)に何が有ったんだ、と一希は思った。

「…で、話しって何だよ。」

話の脱線を感じた一希は、本来の用件へと戻す。

「ああ、それね。……えっと、もしかして一希は、俗に言う『シスコン』か?」

茶か何かを口に含んでいれば、瞬時に吹き出して居ただろう。

呼び捨てにされた事は、もう、どうでも良くなった。

「…帰って良いか?」

「駄目。」

「なら真面目な話をしろ。俺も暇じゃ無いんだ。」

「…冗談が通じない人ね。…まあ、良いわ。」

少女の纏う空気が変わった。

「私には、『刃』が無い。」

「ちゃんと有るだろ。」

一希の言葉通り、日本刀は、確かに鞘に収められた状態で、少女の手に有った。

「違う。この刀の刃じゃなくて、私と言う『鞘』に収まる『刃』の事。」

まだふざけて居るのかと思ったが、少女の目は真剣だった。

「其処のもう一人じゃ駄目なのか?」

「駄目です。」

髪が長い少女が言った。

「私では、役不足です。」

その言葉は、謙遜等では無く、確信を持って言われて居た。

「其処で、一希に頼みが有るの。」

此処でから先の話の流れだけで、先の内容が分かった気がした。

「私の『刃』になりなさい。」

懇願では無く、命令なのか、と思ったが、其処の部分は黙って居る事にした。

「…つまり、お前の所で、働けって事か?」

「言い換えると、そうね。…で、どうする?」

「…メリットは?」

「たまに命を掛ける必要が有るけど、高収入。」

「ハイリスクハイリターンかよ…」

一希の呟きは、華麗にスルーされた。

「後、今までの犯罪歴の取り消し。これは、私が勝手に遣っとく。」

「犯罪歴の取り消し?其れは、別のPGC(ところ)に入っても有るのか?」

「いや。私が勝手に揉み消す。」

「…其れ、不正じゃないか?」

「別に。不正なんて、この都市なら、一枚捲ればゴロゴロ転がってるけど?」

「そんな物なのか?」

「そんな物よ。」

一希は急に、政治家(この都市では、主にPGCの幹部を指す。)が信じられ無くなった。

元々、信用等、一欠片も無かったが。

±0が若干−に傾いた様な物だ。

「でも、俺は犯罪歴は無いぞ。」

「何言ってるの。」

少女は溜め息を吐き、転がって居る死体を指差した。

「殺人罪、良くても過剰防衛、後、銃刀法違反。立派な犯罪歴持ってるじゃない。」

「……」

犯罪歴に立派だとかそう言う評価は無い。

「裁判は受けられるだろうけど、長期間の懲役か、悪ければ死刑は免れられないわ。」

「…其れを、揉み消すと?」

「そう。」

一希の頭の中には、天秤が浮かんで居た。

一方には、少女、そしてもう一方には一姫。

天秤は、一姫に傾いた。

一希に取って、別に懲役はどうでも良い。

二ヶ月を無かった事にして、未だに眠って居ると思えば良いからだ。

だが、一姫が居るならば、話しは違う。

あの呆然とした表情と、動揺の所為か、僅かに焦点が合って居ない目を思い出した。

大戦のお陰で発展した今の医療技術でも、記憶を完全に封じるのは難しい。あくまで、PTSDを防ぐ為の一時的な処置だ。『何か怖い事が有ったけど、思い出せない。』と言う様な感じになる。(余談だが、現在の洗脳技術も、これを発展させた物だ。)

だが、耐性や記憶の強さによって、消去出来るかはまちまちとなってしまう。

だから、一姫の記憶消去が上手く成功して居なかった時(一希は記憶の消去を受ける積もりが無いが一姫には受ける様に言った)、側に居る事が大切だろう。

側に居る人間が、人殺しをした兄であったとしても。

其れに、一姫を守り続けるならば、力も金も必要だった。

結論は出た。

「……分かったよ。」

真剣な目で、少女に目を合わせた。


「俺は、あんたの『刃』になる。」


少女は笑みを浮かべた。

「契約成立ね。」

その言葉と共に差し出されたのは一枚の紙。

「これは?」

「事務所の住所。二日後に来て。」

「分かった。」

そこ迄聞いた時、一希はふと、有る事に気付いた。

「そう言えば、名前は?」

「…ああ、忘れてた。この()は、彩萠雪華。其れからーーー」

少女は雪華を人差し指で指した後、自分を指す。


「私の名前は、月下舞無。改めて宜しく、風見一希。」


其れが、一希と舞無と雪華、三人の出逢いだった。


「兄さん。」

事後処理の為に残ると言った二人と別れ、銀行の外に出た一希を待ち受けて居たのは、一姫だった。

「一姫。」

一姫の目が焦点をしっかりと結んで居るのを見て、一希は取り敢えず胸を撫で下ろした。

「兄さん、帰りましょう。もう、遅いです。」

「そうだな、帰ろう。」

二人は家路に付いた。

一希は此処で気付くべきだった。

人は、自分が思って居るよりも、騙され易いと言う事に。

一姫の記憶が全く消えて居なかった事を一希が知るのは、この日から五年以上より後の事となる。



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