3、ここは何処?
祐哉は暑苦しい空気に目が覚めた。
ぼんやり天井を眺める。
光の差すほうへ目をやって、朝を感じていた。
眠気の残る頭の中には何も浮かんでこない。
急に誰かの手が自分に乗っかかってきた。
「!!」
横を見ると友樹が自分に覆いかぶさって来ている。
状況が読み込めず、体を起こして部屋の中を見渡す。
「昨日俺どうしたっけ?ここ何処だ??」
ゴミの中にいる自分達。いったい・・・
友樹と一緒に合コンに行った事までは覚えているがどうもその後が思いだせない。
慌てて友樹を揺さぶり起こす。
「おい、友樹、ここ何処だよ!」
どなり声を上げる祐哉に寝たばかりだという風な友樹が答える。
「知華ちゃん家だよ。」
知華ちゃん?そう言われても祐哉には聞き覚えがない。
「おい、だから何処だって!!」
祐哉の大声にもビクともせず友樹はまた眠ってしまった。
「一体どうなっているんだ。知らない家、それにこのゴミの山は・・・」
祐哉はこれ以上この空間に耐えられそうになかったので部屋から出て行こうとしたが
友樹の言った「知華ちゃん」とはどう考えても女の子だろう。
どうしたものかと戸惑いながらそっとドアを少し開けて部屋の外を覗いてみる。
その瞬間、おいしそうな匂いが部屋の中に入ってきた。
誰かが台所に立って食事の支度をしている。
ふと、小さな頃の母親の姿を思い出した。
きゅうぐるぐっるっ~~。
人生の中で今が一番間の悪いタイミングだと祐哉は自分のお腹を呪った。
その音に気がついたようにその女性が振り返ってこっちを見た。
見覚えのない顔。いやどこかで見たような・・・?
彼女が知華ちゃんなのだろうか?
その女性は言葉を発さず、何も見なかったようにまた野菜を刻みだした。
さっぱり様子の分からない祐哉。
「おはよう、大丈夫?」
少し開けたドアの隙間からまた違う女性と目が合った。
誰だか分らないがただ「はい。」と答えてとりあえずドアを閉める。
昨日・・・昨日・・・必死に昨日の事を思い出そうとした。
友樹と・・・
「あっ!!」
記憶の最後に自分がお酒を飲んだ事を思い出した祐哉は慌てて、寝ている友樹を強引に起こした。
「お前いったい。どうして俺たちここにいるんだ!!」
昨日の合コンの席にいた2人。だよな?
一人はうる覚えだがもう一人は地球外生物。あり得ない。なにもかもあり得ない。
まるで自分が地球外にでも降り立ってしまったかのような驚きの祐哉は眠り続ける友樹を何度も揺り起す。
「あの~。」
ドアの外からまたも女の子の声が聞こえる。
その声に反応して全く起きる気配のなかった友樹が返事をした。
「あ、はい。」
「よかったら朝食をどうぞ。」
まるで自分の家のように眠たそうな目をこすりながら部屋から出て行く。
「お、おいっ。」
部屋に残っていたくなかったので祐哉は後について行くしかなかった。
テーブルの上にはおかずと温かいお味噌汁、湯気の立つご飯が並んでいた。
また子供のころの光景が頭の中に蘇った。
「うわ~、おいしそう、いただきます。」
友樹はさっさと食べ始めた。
状況の読めない祐哉が戸惑っていると
「どうぞ。私が作ったんじゃないですけど。」
と先ほどドア越しに目が合った女の子の方が勧めてくれたので
「いただきます。」
と遠慮がちに言ってから食べ始める。
前の席にはあの地球外生物が座り、黙ったまま黙々と食べている。
確かこいつは舞と言っていたな、と言う事は声をかけてくれている方が知華ちゃんって事だな、ととりあえずは誰の家なのかを見当を付けた。
その間も地球外生物は顔も上げず、まるで俺たち2人の存在が見えていないみたいだ。
料理はどれもおいしかった。
温かいご飯にお味噌汁一体どのくらい振りだろう。
これを目の前のこの女が作ったとは到底信じ難たがったが温かくて懐かしさの漂う食卓に安らぎのようなものを祐哉は感じていた。
その時、突然友樹が耳を疑うような事を言い出した。
「あの、もし、その部屋空いてるなら貸してもらえませんか?」
さっき寝ていた部屋を指差してしてとんでもない事を言い出したのだ。
3人はビックリして顔を向けた。
「いや、その、実は昨日から家がなくて・・・」
さらに祐哉の腕をつかんで
「こいつもね、家賃滞納で家を追い出されちゃって、急に敷金とかお金を用意することも出来ないし男が2人もいると女性だけより安心じゃあありませんか?」
知華ちゃんと思われる女の子がそれを聞いてご飯を噴き出しそうになりながら「私はいいけど。」と笑いを堪え、地球外生物のほうを見た。
無反応な表情の舞に友樹が嘆願する。
「お願いします。少しの間だけでいいんです。敷金とかのお金が貯まるまででいいんです。」
舞はそれにも答えない。
「もちろん、居る間のお金は払います。」
その言葉にピクンと反応した。
しかしまた無表情になって黙りこくっている。
「おい、お前何考えてるんだ。」
あきれて怒鳴り出そうとしたが
「いいじゃない、一部屋空いていることだし、お金も払いますってだって。」
知華ちゃんが楽しそうに言い聞かせようとしているようだ。
「お断りします。」
言われた方は聞く耳ももたない断固とした口ぶりで拒否してる。
そりゃそうだろ。
この話はこれでおしまいと思いきや
「だって住むところが無いなんて可哀想じゃない?」
「そうなんです。可哀想なんです。」
間髪をいれず知華ちゃんと友樹が口を合わせる。
「いや、どっちにしても俺は・・・。」
そう言い出した祐哉の袖をひっぱり
「どうせお前も住むとこないんだからこの際一緒にここに住んだ方が何かと都合いいだろ?」
一人では気が引けるのか、俺を味方につけようとしているのか友樹が小声で言ってくる。
ここに住む?いやいや、ありえない。こんなゴミ屋敷みたいな家に。それより何よりこの女が承諾するはずもない。
祐哉は考えるだけでも無駄と思ってそれ以上何も言わずにいた。
舞は頭の中で計算していた。
家賃に光熱費それだけでも減らせれば画材が買える。いくらでも欲しいものはある。それにうまく言いくるめればあれにこれに・・。いやいや、舞、しっかりするのよ。こんな人達と一緒に住むなんてどう考えても無理よ。
「私、先に学校へ行くね。」
考えるのがばからしくなり舞は先に学校へ出掛けて行った。