1、それぞれの朝
まだ辺りが薄暗い中、舞は起きだした。
ものをかき分け、家から出て行く。
荒ゴミの山を丁寧に一つ一つ確かめる。
「もったいない。これはまだ使える。」
山の中から宝物を見つけたようにDVDデッキを取り出した。
今日は荒ゴミの日。月に2回あるその日は早くから起きだして収集場所を歩いて回るのが舞の習慣になっていた。
「¥500円にはなるかな。」
まだ使えそうなものをネットオークションでお金に換金するのだ。
「これは¥200くらいか、他も見てからにしようっと。」
ちょっと重そうな傘立てに目をつけておいて、舞はまた別の収集場所へと歩いて行った。
ブルッブルッブルッ。
携帯の振動で祐哉が目を覚ます。
「はい。」
寝ぼけた声で返事をする。
「おい、お前今日付き合え。」
電話の向こうの上機嫌な友樹に何かを感じて
「時間ない。」と不機嫌そうに答えた。
「友達の頼みが聞けないって言うのか?頼むよ、今日の相手はお嬢様もいるんだ。お前が来ないと断るって言うんだから、絶対だぞ。」
合コンが大好きな友樹は祐哉をだしにして条件のいい女の子達と飲もうとこれまでも何度か頼んできた。
「今日はいい。」
面倒そうにそう言って電話を切ろうとした祐哉だったが「今度のレポート」その言葉に手を止めた。
電話の向こうでしめしめといった空気が流れている。
「月曜日だけど出来てるのかな?お前の分ももう用意してあるけど?」
ワザと語尾を上げた言い方に眉がピクンと動いた。
大学生活で優秀な友樹に祐哉は何度も助けられている。
友樹がいなければ毎年単位は取れていなかっただろう。
仕方がない。
「わかったよ。」
いやそうに承諾した。
「それから今日から俺、住むとこないから、何が何でもお嬢様をゲットして永住先を見つけるからな、お前も協力しろよ。」
付き合う度、女の子の家に転がり込んで自分の部屋を持たない友樹が次の標的を見つけようとしていた。
「じゃあ後で。」
嬉しそうな声で友樹が電話切ったので、祐哉はも少し眠ることにした。
台所からおいしそうな匂いがたちこめている。
その匂いに誘われるように知華は目を覚ます。
「おはよう、今日は何?」
支度をしている舞の後ろから覗きこんだ。
具沢山のお味噌汁を見て
「いいものが見つかったの?」
収集日に収穫があった時のメニューだ。
舞は嬉しそうに笑った。
玄関先には朝の戦利品が並んでいる。
「その性格はどこから来たの?」
小さいころから知っている知華が不思議そうに言う。
そして昨日遅かったせいで舞と顔を合わせていなかったからと話を続ける
「そうだ、今日合コンがあるから参加して欲しいんだけど。」
「なんで私が?」
「どうしても一人足りなくて、麗美が噂のイケメンが来るから必ず舞を連れて来いって。」
麗美は父が会社の社長のせいでお金持ちを気取っている。
舞を普段から見下したような態度を取ってくるのだ。
知華が舞と仲良くするのも良く思っていないようで何かと意地悪をしてくる。
今日もきっといい引き立て役にしてやろうと思っているに違いない。
そんな事には全く興味のない舞は行くつもりなどなかった。
しかし知華は知り合ってから好きな人すらいた様子も無い友人にせめて出会いの場を作ってあげたかった。
わざわざ紹介などをセッティングしても絶対来るはずも無いのでこの機会を逃さぬよう
「コンパ代、舞はタダでいいって。どうする?」
タダって言葉に弱い舞をからかうような目で見る知華。
「なら行かないとね。」
乗り気ではなかったが夕食分が1食浮くと思ったら、断われるはずもない。
「お願いだから残ったものをお持ち帰りするのだけはやめてね。」
「どうして?」
舞がどんな時でも必ず残った者を持ち帰るのを知華でさえ時々恥ずかしくなる事がある。
麗美の前でそんな事をすればまた何を言われるか。
「その代わり明日、あのケーキ買ってきてあげるから。」
舞はなぜか良く分からなかったがケーキにつられてつい
「わかった。」と返事をした。