エピソード7:復讐の叫び、覚醒の閃光
俺のショートソードが、血を求め、風を切る。
ゼウスさんのショートソードを手に、棒術で培った体捌きと防御を合わせた俺のスタイルは、ギャングたちの予想を裏切り、次々と敵を打ち倒していった。
酒場は、もはや戦場と化していたが、俺の心には、ゼウスさんの死への怒りと、この酒場を守るという揺るぎない決意だけがあった。
猛攻、そして突破。
「小僧めが、調子に乗りやがって!」
ヴァルガスの怒声が響く。
俺が次々と手下を倒していくのを見て、彼は苛立ちを隠せないようだった。
ギャングたちは、俺の動きに怯えながらも、ヴァルガスの命令に従い、さらに人数を増やして襲いかかってくる。
俺は、迫りくるギャングの一人の剣を、ショートソードの平で受け流す。
棒術で学んだ重心移動で相手の体勢を崩し、その隙にもう一人のギャングの喉元に刃を突きつけた。
「お前らには、ゼウスさんの足元にも及ばない!」
俺は叫んだ。
ギャングたちの顔に、恐怖の色が濃く浮かぶ。
彼らの攻撃は、粗暴で、力任せだ。
それに比べ、俺の動きは、まるで水が流れるように滑らかでありながら、岩を砕くかのような鋭さを持っていた。
別のギャングが、俺の背後から斧を振り下ろしてきた。
俺は、その殺気を肌で感じ取り、瞬時に体を反転させる。棒術の「残影の体捌き」だ。
まるでそこにいるかのように見せかけ、次の瞬間には別の場所に移動する。
斧は空を切り、男はバランスを崩した。俺は、その隙を見逃さず、ショートソードの柄で男の頭部を打ち付ける。
鈍い音が響き、男は気を失って倒れた。
「くそっ、何なんだあいつは!」
「化け物か!?」
ギャングたちの間に、動揺が広がる。
俺は、その動揺を見逃さなかった。
一気に間合いを詰め、ゼウスさんから教わった体術の技を繰り出す。
相手の突きを腕で受け止め、そのまま相手の腕を捻り上げる。
そして、その男を盾にするように、迫りくる別のギャングにぶつけた。
二人の体が激しくぶつかり合い、ギャングたちはもろとも倒れ伏した。
酒場の中央に、わずかながら空白が生まれる。
俺は、そこで一瞬だけ息を整えた。
ガストンや他の仲間たちが、驚きと希望の入り混じった目で俺を見つめている。
俺は彼らに向かって力強く頷いた。
「ゼウスさんが、俺たちを守ってくれている!」
俺の言葉に、仲間たちの顔に、再び戦意の炎が灯ったのが見えた。
「小僧め、いい気になるなよ!」
ヴァルガスが、怒りに燃える目で俺を睨みつける。
彼の巨体が、地響きを立てて俺に迫ってきた。
その手には、再び巨大な斧が握られている。
「貴様のようなひよっこが、ゼウスの真似事をしたところで、俺に勝てるわけがない!俺の兄弟の血の重さを、貴様に教えてやる!」
ヴァルガスは叫び、斧を横薙ぎに振り払ってきた。
その一撃は、先ほどゼウスさんに放ったものよりも、さらに重く、速い。俺は、棒術で培った全身のバネと、ショートソードのリーチを最大限に活かし、その斧をギリギリでかわした。
斧が俺の頬をかすめ、熱い風が吹き抜ける。
「兄弟の仇だと?ふざけるな!ゼウスさんは、そんなことを望んでいなかった!」
俺は叫び、ヴァルガスの懐に飛び込んだ。
彼は、俺の動きが読めないのか、一瞬だけ動きが止まる。
その隙に、俺はショートソードを上段に構え、ヴァルガスの腕を狙って斬りつける。
ガキッ!
斧の柄が、ショートソードの刃を受け止める。
ヴァルガスは、その巨体に見合わぬ素早さで反応した。
「甘いな、小僧!ゼウスの真似事では、俺には届かん!」
ヴァルガスは、そのまま斧を押し込み、俺のショートソードを弾き飛ばそうとする。
だが、俺は棒術で培った体幹の強さで、その力に耐える。
そして、体勢を低くし、ヴァルガスの足元を狙ってショートソードを突き出した。
「お前の憎しみは、ゼウスさんの心には届かない!」
ヴァルガスは、俺の不意打ちに驚き、大きく後ずさる。
彼の足元がぐらつき、体勢を崩した。
俺は、この好機を逃さない。
棒術で培った素早い連撃を、ショートソードで繰り出す。
刃が、ヴァルガスの体に連続で叩き込まれる。
肩、腕、そして脇腹。
致命傷ではないが、確実に彼を削っていく。
「ぐっ……このっ……小生意気な……!」
ヴァルガスは呻き声を上げ、血を流しながらも、狂気の目で俺を睨みつけた。
彼の憎しみは、まるで底なし沼のようだ。
「ヴァルガス!貴様の復讐は、何も生まない!」
俺は叫んだ。
ゼウスさんが、最後まで武器を抜かずに戦った意味を、俺は理解したい。
「ゼウスさんは、お前を殺すこともできた!なのに、なぜしなかったか、お前には分かるか!?」
俺の言葉に、ヴァルガスの顔が、一瞬だけ歪んだ。
「それは……ゼウスさんが、二度と人殺しの剣を抜かないと誓ったからだ!そして、この酒場を、血で染めることを望まなかったからだ!」
俺の言葉は、まるでゼウスさんの声が乗り移ったかのように、酒場中に響き渡った。
ヴァルガスは、その言葉に激しく動揺したのが見て取れた。
彼の目が、憎しみから、別の感情へと変化していく。
それは、理解と、そして諦めにも似た表情だった。
だが、ヴァルガスはすぐにその感情を振り払った。
彼の目に、再び狂気が宿る。
「関係ない!俺は、貴様を、そしてゼウスの大切なものを、全員殺す!」
ヴァルガスは再び斧を構え、俺に襲いかかろうとする。
だが、彼の動きには、先ほどの勢いがなかった。
俺が与えた傷が、確実に彼を蝕んでいる。
そして、俺の心には、ゼウスさんの意志が、はっきりと感じられた。
俺は、ゼウスさんのショートソードを強く握りしめた。
これは、ただの武器ではない。
ゼウスさんの命と、彼の誓い、そして俺への希望が込められた、覚醒の刃だ。