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エピソード6:残影の舞、覚醒の刃


ゼウスさんのショートソードを握りしめた俺の手に、彼の魂が宿ったような錯覚を覚えた。


刃から伝わる冷たさとは裏腹に、俺の胸には熱い炎が燃え盛っている。


ヴァルガスの「死刑」宣告が響き渡る中、酒場は怒号と悲鳴が入り乱れる戦場と化していた。


ギャングたちが、俺に向かって一斉に襲いかかってくる。


 「死ね!小僧!」


ギャングの一人が、血に飢えた目で剣を振り下ろしてきた。


俺は、これまでの棒術で培った体捌きで、その剣を紙一重でかわす。


ゼウスさんの教えが、まるで血肉のように体に染み付いている。


棒術は、相手との距離を測り、最小限の動きで攻撃をかわし、相手の体勢を崩すことに長けていた。


だが、俺の手にあるのは、棒ではない。ゼウスさんのショートソードだ。


俺は、かわした勢いそのままに、ショートソードを逆手に持ち替え、相手の腹部に突き刺すように繰り出した。


剣先が相手の体に触れた瞬間、これまで棒でしか感じたことのなかった「切れ味」に、俺は驚きを覚えた。


肉を裂く鈍い音と、飛び散る鮮血。


男は呻き声を上げ、膝から崩れ落ちた。


 「な……なんだと!?」


別のギャングが、俺の動きに驚愕の声を上げる。


俺自身も、自分の動きに驚いていた。


棒術の体捌きは、あくまでも護身と防御を主眼としていたが、ショートソードという「切れ味」を持つ武器と組み合わせることで、攻撃がまるで別次元のものになったのだ。


 『ゼウスさんの……力だ……!』


俺は心の中で呟いた。


まるでゼウスさんが、俺の体を借りて戦っているかのようだ。


俺は、棒術で培った素早いフットワークでギャングたちの間を縫うように駆け抜け、次々とショートソードを繰り出していく。


相手の攻撃を紙一重でかわし、その隙を突いて斬り込む。


あるいは、相手の武器を受け流し、その勢いを利用して相手の懐に飛び込み、ショートソードを突き立てる。


 「くそっ、見かけによらず、やるじゃないか!」


ギャングの一人が、苛立ちを隠せない様子で叫んだ。


俺の動きは、確かに洗練されていた。


棒術で身につけた、流れるような重心移動と、予測不能な体勢からの攻撃。


それが、ショートソードの鋭い切れ味と合わさることで、圧倒的な破壊力と速度を生み出していた。


酒場内では、まだ惨劇が続いていた。


ギャングたちが、倒れた客たちに容赦なく剣を突き立て、悲鳴が響き渡る。


ガストンや他の用心棒たちも必死に戦っているが、多勢に無勢。


彼らの表情には、絶望の色が濃く浮かんでいた。


 「みんな!諦めるな!」


俺は叫んだ。


ゼウスさんが命を懸けて守ろうとしたこの酒場を、俺が守る。


その思いが、俺の体を突き動かす。


ギャングの一人が、ガストンに襲いかかろうとしているのが見えた。


俺は即座にそちらへ駆け寄り、ショートソードを一閃する。


男は腕を押さえて呻き声を上げ、後ずさった。


 「コウ!お前……!」


ガストンが驚いた顔で俺を見る。


彼の目に、一瞬だけ希望の光が宿ったように見えた。


 「ゼウスさんの……仇は、俺がとる!」


俺の言葉は、酒場内に響き渡る。


それは、俺自身の誓いであり、そしてゼウスさんへの弔いの言葉だった。


俺はもはや、ただの見習いの酒場従業員ではない。


ゼウスさんの意志を継ぎ、この酒場を守る、新たな戦士だ。




 「ちっ……あの小僧め、まさかゼウスの剣を使いこなすとはな!」


ヴァルガスが、苛立ちを隠せない様子で叫んだ。


彼は、ゼウスさんの死後、完全に戦意を喪失したと思っていた俺が、ゼウスさんの剣を手に覚醒したことに驚いているようだった。


 「だが、所詮は素人だ!数で押しつぶしてやれ!」


ヴァルガスの号令と共に、さらに多くのギャングたちが俺に殺到してくる。


しかし、俺はもう恐れていなかった。


ゼウスさんのショートソードが、俺の手にしっくりと馴染んでいた。


棒術で磨いた防御の技術も、ショートソードと組み合わせることで、より強固なものとなっていた。


相手の攻撃を最小限の動きで受け流し、あるいはショートソードの刃で弾き飛ばす。


 「お前らには、ゼウスさんには、指一本触れさせない!」


俺は叫び、怒涛の勢いでギャングたちの中へと切り込んでいく。


一瞬にして三人のギャングが、俺のショートソードの餌食となった。


酒場内は、俺の残影と、ショートソードが描く血の軌跡で埋め尽くされていく。


ゼウスさんの体捌きと棒術の技術、そしてショートソードの鋭利な切れ味が、完全に融合していた。


それは、まるで舞踏のように美しく、しかし破壊的な剣舞だった。




俺は、ゼウスさんがかつて見せたような、神業の域に達しつつあった。


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