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戦場の傭兵譚  作者: 六波羅朱雀
傭兵の旅路、終わらない世界
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棘の少年と傭兵06


 残された傭兵は一人その場に立ち尽くす。そして考える。ここに連れて来なければ良かったのかと。


 それでもあの時、あの森で、助けないという選択肢はなかった。そして故郷に返さないという選択肢もなかった。


 国中が、いや世界中が戦争モードで、旅する傭兵にも軍から逃げたといえる少年にも行く場所などなかった。かといって傭兵の旅に巻き込むのは危険すぎる。だとすれば、家族に会いに行くように言わなければ良かったのだろうか。いいや、どのみち故郷へ戻った以上は会いに行かずとも会ってしまう。傭兵が言わなくたっていつかどこかでそうなっていた。


 それに、最期のティナの顔は嬉しそうだった。


 傭兵は依頼を遂行した。依頼人の願いを叶えたのだ。それが傭兵にとってどんな結末でも、依頼人が選んだ道だ。


 何も言わずに傭兵は遺体の傍へ寄る。そして一段と赤に染まる薔薇を一つ掴み、もう一つ掴む。それから依頼人の首にかけられていたドッグタグを取り自分の首にかけ、遺体に触れて瞼を閉じさせた。


 次にすっかり体温を失った身体をどうするかと考える。けれども少年は薔薇と共にあることを願ったのだからそのままにしておいた。


 傭兵はその場を離れた。


 二つの薔薇のうち一つは、薔薇の畑の中央にある教会に置いた。傭兵は手を合わせて少年が天国へ行ったことを願った。


 そして少年の家の玄関前、二段ほどの階段の上に一輪の薔薇を置く。それは傭兵から少年の両親へのメッセージだった。


 きっと、朝起きた両親は少年がどっかへ行ったのだなと思うだろう。元々少年に興味のない親だったならばそこまで気にはするまい。けれども、出かけようと玄関を開けた時、真っ赤な血に濡れた薔薇を見て何かを思うだろう。


 真実に辿り着かなくてもいい。ただ、将来、ずっと長男が帰って来ないと思った時。弟が、兄は何処だと問うた時でもいい。


 そんな時に、そういえば最後に少年が帰った日の朝、一輪の真紅の薔薇が置かれていたなと。


 そう、思い出して欲しい。


 傭兵は次の旅に出る。悲劇の物語と昇り出した太陽を背に進む。


 ──ありがとう、レオン。 


 最後のその言葉がひたすらに再生される。


「忘れない、絶対に」


 忘れてもいいと言われたけれど、忘れてはやらない。その依頼は遂行出来ない。


「俺は、全部忘れない」


 その「全部」にどれほどの意味が含まれているのかは分からない。


「またいつかここへ来る」


 その時は再び、薔薇を置くのだ。


「……次の依頼人は、救って見せる」


 生きることが全てとは言わない。死ぬ方が楽なこともあると、傭兵は知っている。


 それでも、あまりにも悲しすぎると思うから。


「絶対に、救って見せる」

 

 ファナティナ・レーゼットを、傭兵は忘れない。


***


 僕は君に救われた。

 ありがとう、レオン。

 綺麗な薔薇と、ささやかな棘を。

 ありがとう、レオン。

 君に名前を呼ばれるのは、嫌いじゃないよ、レオン。


ここまで読んだ方、本当に感謝です!

この物語が第一章みたいな扱いです。


ぜひ、ブックマークといいねを!

作者の励みになります。多分、飛び跳ねて喜びます。

何日にいいねされたか、ブクマされたか記録つけるくらい研究して喜びます。多分。


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