1-6 迷惑な話だよ
確かに父、アレクシィは先代イワノ伯爵が愛人に産ませた子。
本来なら当主にナレナイ四男坊だが、兄三人が相次いで死亡。娘二人は嫡男に嫁ぎ、呼び戻せないからと当主になった強運の持ち主。
「なぜコレを私に?」
速達とはいえ『宇宙便なのに、もう届いたんだ』と驚く。モチロン顔には出さない。
「お前がヤツに密告したんだろう。」
密告って、大袈裟だなぁ。
「何のことでしょう。」
僕が知らせたのは母で、父ではアリマセン。
「寄越せ。」
「はい、どうぞ。」
四つ折りにしてからスッと差し出す。
「違う! 金だ金。」
オイオイ、それでもボルガ伯爵家当主か。
ってかさ、ペルセウス星人の品位を落とすような真似は止せ。この肌と目は目立つんだ。
「甥に集るとは嘆かわしい。」
焼き立てのクロワッサンと新鮮なオレンジ果汁を堪能してたのに、迷惑な話だよ。
「そんな事を言って良いのか。」
???
「思春期だもんなぁ、興味を抱くのは仕方が無い。けどな、ウィリアム。相手は異星人。」
「あぁ、そういうコトですか。」
ガブリエルとは清い関係、指一本触れてない。課題の事も伝えているし、引率教員に報告済。
「そういうコトだ、戻るぞ。」
「お断りします。僕、見聞学習中なので。」
「はぁ? んなモン終わりだ終わり。部屋に戻って有り金、全て寄越せ。ペルセウスに戻っても集るからな。逃げられると思うなっ、ギャッ。」
見聞学習中だって言ったでしょう。学院の教員や職員が監視、じゃなくて見守ってるんだよ。
それにね、未成年者への恐喝は重罪だよ。私学だろうが公立だろうが国立だろうが、初等部で最初に学ぶ事ですヨ。
惑星外での学校行事中、未成年者の安全を守るための特例として、教員に捜査権と逮捕権が一時的に与えられる。
コレは中等部で最初に学ぶ事。
終わったね、イヴァン伯父さま。明日の朝刊一面トップ間違いナシ。
ボク知ぃらない。
従兄キリルは学生だけど成人ホヤホヤ、爵位を継いでも問題ない。良かったね、ヴェロニカ伯母さま。願い、叶いそうだよ。
「食べ終わってからで良いから、別室で話を聞かせてくれるかい。」
「はい、先生。」
警備員に引き渡されたイヴァン。頭から布袋を被せられ、台車に乗せられ退場。ペルセウス星に矯正送還され、裁判を受ける事になる。
若い友人は父からの手紙を盗み見て直ぐ、逃げるように帰星したらしい。絡まれたら被害届を提出して、接近禁止命令を出してもらおう。
うん、それが良い。
「外星で『社交的集会』という名の、はぁ。酒池肉林してたとは。」
同じ伯爵家だけど、ボルガ家じゃなくて良かった。
「間違いでは無いんだけどさ、悪趣味だよ。」
イヴァン伯父さまが参加していた集会は史記、殷本記に記されている『沙丘に戯れ、酒を以て池と為し、肉を懸けて林と為し、男女をして倮して、其の間に相逐はしめ、長夜の飲を為す』の再現。
中国古代の暴君とされる殷の紂王に纏わる故事だが、こうした淫蕩歓楽の果てに殷王朝は滅びたという。
凄いな、漢和辞典。『幾ら何でも大き過ぎるだろう』って思ってゴメン。