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1-5 盲目のピアニスト


両親は政略結婚、父には恋人が居た。母は父を愛そうとしたが一方通行。それどころか軽んじられ、『役立たず』と人前で口汚く罵倒。


離縁したいが、婚家からの支援が無ければ実家は没落。耐えるしかない。



顔を合わせるたびに『二人目はまだか』『息子を産め』と責付せっつかれながら激務をこなす日日。結果、心身を壊し衰弱死。



なすり付け合いの末、決まった事は三つ。


一つ、母を実家の墓に入れる事。二つ、めしいの娘を生家に残す事。三つ、一切の関係を絶つ事。



法的手続き終了後、後妻として迎えられたのは父の愛人。半年早く生まれた姉、二つ年下の弟も二人の愛の結晶。


次期当主の生母が『先妻の娘など見たくない』と放言。直ぐに別棟が建築され、問答無用で放り込まれた。






「ウチも似たようなモノだけど、大変だね。」


「あら、ウフフ。」



繊細で優美な音色に心が満たされてゆく。ウィリアムは盲目のピアニスト、白百合の君に恋をした。






ウィリアムは大いなる惑星、ペルセウスで誕生。ペルセウスの貴族は皆、三つの特殊能力を持つ。一つ、念動力。二つ、変身能力。三つ、再生能力。


念動力と再生能力は優れているが、変身能力は上の中。同年代では抜きん出ているが、薄緑の肌と紫の虹彩は変えられない。


だから出立前、保護色スーツを仕立てた。



貴族寮の先輩から紹介された仕立屋はナント、王家御用達の一級店。


学生割引だと言って安くしてくれたのは、将来を見据えての事だろう。良い品なので長く着用できる。


けれどココは外星、光の角度によって波形模様が出てしまう。



だから日中の移動は屋内限定、自由に活動するなら夜。灯りが無いか、薄暗い場所が好ましい。






「母方の祖母は刺繍ししゅうが趣味でね。『娘が二人も居るのに、少しも興味を持ってくれない』と嘆いたんだ。そしたらエイミー、五つ年下の従妹が『ウィリアム兄さまなら、きっと上手に刺せるわ』って笑ったんだよ。」


「まぁ、タイヘン。」


「自分で言うのも何だけど、器用な方だと思うよ。でも人には向き、不向きってのが有ると思うんだ。」


「解るわ。私の母も手芸が得意で、五つの誕生日に刺繍枠を貰ったの。でも私、それをかんむりのようにかぶって。うふふ、叱られちゃった。」






力を使えば目を治せる。君が見えるようになれば、いつでも好きなだけ譜面が読める。聞いた事の無い曲を弾けるようになる。


『ここには美しい旋律が閉じ込められているの』


ガブリエルが呟いた言葉が頭から離れない。なのに考えてしまう。醜い姿を見られれば、きっと嫌われてしまうと。



ウィリアムはガブリエルの目を治療せず、夜ごと通った。






ドスドスドス、ドン。


「ウィリアム!」


食堂のテーブルをてのひらでバンと叩き、悪意と敵意に満ちた目でにらむ。


「おはようございます、イヴァン伯父さま。」


朝っぱらからうるさいな。父上から嫌味でも言われたか、ヴェロニカ伯母さまに知られたか。


「どうぞ、お掛けください。」


静かにね。


「フンッ。」


乱暴に椅子いすを引き、ドスンと腰を下ろす。ふところから四つ折りにされた紙を取り出し、ポイと投げて寄越よこした。


よろしいのですか。」


「読め。」



それは便箋では無く複写用紙で、中央に大きく『い加減にしろ』と書かれていた。


父の字である。



妾腹しょうふく分際ぶんざいで生意気な!」


今度はこぶしでドンッと叩いたので、グラスが倒れそうになった。


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