1-3 自慢じゃ無いけど
ウィリアムが入っているのは、ペルセウス惑星一規則が厳しい『貴族寮』。
学院寮と違い質素だが、重厚で趣のある建物だ。入寮者以外立入禁止で、厳重管理されているので安全安心。
実家との関係に悩む子女のために用意された寮なので、年齢性別関係なく入寮可。貴族なので個室だが、二間続きでユッタリしている。
男子寮と女子寮は別棟で、番犬が警備を担当。
もちろん愛玩動物飼育禁止だが、予約すれば凛凛しい大型犬をモフモフできる。ちっとも寂しくナイ。
食事は三食、寮の食堂でとる。
掃除は寮生による当番制。洗濯は週に一二回、洗濯室を利用。廃嫡されても暮らせる自信がつくと、一部の人には大人気。
「食堂の目玉は『フランスの家庭料理』で、注文受付時間は朝六時から夜七時。うん、楽しみ。」
『高級料理』ではなく『家庭料理』というのが良い。
備え付けの金庫に貴重品を入れ、身嗜みチェック。ウキウキしながら食堂へ。三十分待ちだったので番号札を貰い、売店を見て回った。
母方の祖父母や友人に送るため、切手付き絵葉書を五枚購入。序に入荷待ちの『サブレー』と『マカロン』を予約した。
ワクワクが止まらない。
「おや、ウィリアムじゃないか。」
ゲッ、嫌なのに会った。
イヴァン・ボルガ伯爵。
当主と正妻の嫡男として誕生、イワノ伯爵令嬢ヴェロニカと政略結婚。高慢で派手好き、女癖が悪い。
一人だけ寮生活を送る僕を『変わり者』扱いし、常に小馬鹿にした態度を取る嫌なヤツ。
「お久しぶりです、イヴァン伯父さま。そちらの御婦人は。」
こりゃまた随分、若い娘を捕まえたね。ヴェロニカ伯母さまが知ったら、うふふ。ドウなるんだろう。
「友人だよ。それより君、なぜ地球に居るんだい。」
家出か? 有り金すべて出させよう。グフフ。
「学院行事の一つ、見聞学習です。」
確かコイツ、生意気にも『ペルセウス学院』に通ってたな。どこかに引率教師が居るんだろう。面倒な事になる前に、離れた方が良さそうだ。
「しっかり学びなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
・・・・・・未成年、だったら大変だよ。
サラッと書けば母上の事だ、直ぐに察して父上に連絡するハズ。部屋に戻ったら手紙を書こう。
ん、アレも愛? だとしても書けないよ。
身内の恥を曝す事になるし、巻き込まれたら嫌だもん。って、ヤツらも食堂に行くのか。別に良いケド。
「うん、こんなモンかな。」
夕食にフランスの代表的な家庭料理、『ポトフ』を食べて大満足。
大きく切った肉と野菜類に香草を加えて、水からユックリと煮込むんだよ。家庭ごとに異なる、なんて聞いたら食べ比べしたくなっちゃった。っと。
葉書に書くなら、楽しい内容が良いよね。
「問題はコッチ。」
無事、地球に到着しました。
タスマニア島からコルシカ島に転移して、ヴェルサイユ宮殿の異星人ホテルに入りました。連泊するので安心してください。あちこち回らず、パリで見聞を広めます。
便箋一枚だと味気ないので、印象に残った事を描きますネ。ヴェロニカ伯母さまに宜しく。
「自慢じゃ無いけど美術の成績、良いんだ。」
ウフフ。
「ファッ、寝よう。」
宛先を書いた封筒に、三つ折りした手紙を入れて封をした。受付に出せば宇宙郵便で送ってくれる。
葉書は二級便、封書は一級便で出そう。
「おやすみなさい。」
三秒後、スヤァァ。