雪山に散る
※時代劇風な作品は初なので大目に……
降りしきる雪が赤く染まった大地を真っ白な世界へと変えていく――。
「はぁはぁ……はぁはぁ……ここまで……くれば追ってこ――」
「そうでもないぞ?」
「な!?」
息遣いも荒く大木の根元へと腰を下ろした俺を、抜き身の刀をことらに向けたまま、雨の降りしきる山林の奥で、ぬかるんだ地面をわざと音を立てながら目の前に人影が現れる。そしてこちらを向きつつにたりと笑う。
「どうしてそこまでして……」
「残念だがそなたに生きていられてはまずいのだ……そうだ……」
「なんだと!?」
相対する男が少しばかりばつが悪いように小声を拾い、俺は全身に怒りが湧いた。
「なるほど……始末せよと言われたか……」
相対する男は昔なじみでもある。そして好敵手と言っても過言ではない程、共に剣の道を志し上達具合を競って来た。
唯一つ違ったのは――。
「権力に屈したか!! 正二郎!!」
「…………」
共に剣に励み、主である御方にお仕えし、その正義なる刃を持って共に下民を救って行こうと約束した間柄だったが、いつしか正二郎はその御方ではない人の元で働いていたらしい。
その方とは、藩の御用金を上手い事着服し、民に還元するどころか遊興という我欲と、出世欲に憑りつかれ邪魔者は排除するともっぱらの噂の人物。
「出世か!! それとも金か!?」
「……何とでも言え……」
「そんな事では春殿が泣くぞ!!」
「春の事は言うな!!」
大事にしている人の名を出され、それまで務めて冷静な表情だった正二郎が、ようやく般若の様な顔をする。
「春の……妹の事は言うな……」
その言葉を聞き、正二郎の顔を見て俺はとある思いが込み上げる。
「ま、まさか……お前……」
「すまぬ。本当にすまぬ……。春を治すためには必要なのだ……」
正二郎の妹御である春殿は小さい頃から病弱であった。そんな妹の事を大事に懸命に支えてきたのが、正二郎という男であることは良く知っていた。
そして――。
「そうか……ならば仕方ないな……」
「すまぬ……」
俺は正二郎の顔を見て決心をした。
「長生きさせてやれよ……」
「あぁ……任せておけ。すまぬなお前との祝言を楽しみにしてたのに……」
「いや、もういいさ……」
俺も正二郎も共に大事な女性を護りたいと思う気持ちは同じなのだ。
ずしゃり
どさ
「頼んだぞ……正二郎……」
「…………」
倒れた体から流れる赤い命。その命はいつしか降り出していた雪によって覆い隠されて行く。
その後、この兄妹の行方を誰も知らない。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
当初ですね、『なろうラジオ大賞5』に参加することは無いかな……と思っていたんですけど、ちょっと思考していたら想い浮んでしまったので、短編でならいいか!! と執筆したものを出展することにしました。
初めてといっていいこの作風――とても皆様からの評価が不安です(^▽^;)
※自分を表す言葉を【拙者】【それがし】等にしていないのは字数上わざとです……。