マーガレットの小さな恋
恋愛ものです
「…嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い」
マーガレットの白い花弁を一枚ずつ千切っていく。自分がこんな事をするなんて、思ってもみなかった。それでも、燻る気持を落ち着かせるには、これがよく効いた。何度も何度も繰り返して、思う通りの結果を出すため、私は沢山の花を犠牲にした。
今のところ、0勝32敗。恋を勝敗、と表記する些か不適切かもしれないが、私にとっては恋とは勝負だった。どちらが告白するかで恋の主導権を握るのか、恋愛はそれに掛かっている、と私は思っている。
とはいえ、私には恋愛経験はない。だからこそ、花の花弁を千切る、という精神安定をするしなかい訳であるが、それは一旦置いておく。
恋愛は勝負事、それは私のお姉ちゃんの格言を、そのまま私のモノとして取り入れただけだ。実際、理解が出来たから。
また、私の千切っているマーガレットの花弁は、21枚。私の最初の言葉は、嫌い、であり、花弁の数は絶対に奇数で終わる。つまり何度やっても、嫌い、になる。
分かっているのに止められないのは、この行為に精神安定以外の何かを求めていないからだ。
はぁ……と自分の勇気のなさに、ため息をつく。
空を見上げても、瞳を閉じても、瞳を開けても、思い浮かぶ顔は、そう。空色の透き通った瞳に、石鹸の香りがする紺色の髪、日に焼けた健康的な肌は擦り傷やアザを毎日の如く作るので、それが消えた所を見たことがない、ワンパク少年。その少年が、逆さになって、私を覗き込んでいた。
「うわっ!」
少年が、大きな声を上げる。
「ひゃっ!?な、なにすんの!?」
私は心底驚いた。心臓がひっくり返ったかと思った。
「馬鹿みたいに、花なんかムシってどうしたんだよ?それで、押し花作んのか?」
「…うん」
なんとなく、天邪鬼な気分の私は、そう答えていた。
「ふ〜ん、なら手伝ってやるよ。」
思いがけない答えに、目をパチパチとさせる。少年は早速と、短い服の袖を無駄に腕まくりして、花の茎を丁寧に摘み取って行く。
その行動は、とても慣れている。一分としないうちに、十本の花を丁度よい長さで摘み取って、5分としない内に花冠にした。それをわたしに被せると、残りの一本の花を私へ握らせた。
「ほら、凄いだろ!」
ニッカリと、太陽のような笑顔を浮かべる少年に、天邪鬼な返答をする気も失せて素直な言葉を発した。
「すごい…ありがとう!」
「おう!」
少年は、更に太陽のような笑顔を深めて、そして誇らしげに笑った。
「…好き」
自然と言葉が出ていた。あれだけ戸惑っていたのに、だ。そして慌てて気がつく、これでは私の方が、負け、ではないか、と。
「…えっ?」
少年から、ふっと笑顔が消えた。そして、段々と瞳がキョロキョロと、手足が落ち着きなく動き出す。
「っ好き!」
私は追い打ちを掛けるように、そして多少投げやりな気持で叫んだ。
「お、おう……おれも、その…」
少年の動揺したような雰囲気に、私は除々に冷静さを取り戻した。
そして、少しの悪戯心が出てくる。
少年の手を握った。
「うえっあ!?な、なんだよ…!」
明らかに動揺している。そして、嫌がられても、ない、と思う。…これは脈アリ、なのでは?
「好き!あなたは?」
暫くの沈黙の後、言葉はしっかり帰ってきた。
「っ好き!」
顔を紅潮させて叫ぶ少年に、私は密かに恋の勝利を確信していた。
「花冠の作り方、私に教えて!」
「おう!」
太陽のような笑顔で嬉しそうに笑う少年を見て、ふわりと心が踊る。それで何だか、別に勝たなくてもいいか、とも思った。
恋は勝負事、だけど一番大切なのは、幸せであること。これも、お姉ちゃんの格言だ。だけど、それは私には納得出来なかった。幸せ、というものが何なのか、私には理解できなかったからだ。だけど、今なら少し分かる。
少年と笑い合えている今が、幸せだと。
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