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第2話 東方の島国アスカ(7)

 アスカに来て二日目の朝、ルナ達の隠れ家にこの国のお城から使者がやってきた。


 ルナ達は使者に促されるままに用意されている馬車に乗り、お城へと向かう。


 「いよいよ吸血鬼さんとご対面ですかね♪」


 相変わらずミサは楽しそうな口調で馬車に揺られつつ、町並みの景色を見ている。


 「吸血()のツバキ……か」


 ルナは海であった一人の少女を思い出す。吸血鬼でありこの国の皇女……、お姫様であるツバキはどんな思いでこの国にいるのだろうか。


 (助けたいな……あの子を)


 ルナは自身の胸に強くそう思う。昨日ルナ達の所に訪れたスミレの話を思い出しながら。


▽▽▽

 「お願い致します!ツバキ様を助けてください!」


 スミレのいきなりの土下座とお願いの内容にルナ達は困惑していた。


 「どういうことじゃ?そちらの依頼は吸血鬼の討伐と聞いておったが?」


 オニヒメの問にスミレは額を床につけたまま、


 「あの討伐依頼はこの国の文官共が、この国の未来と己が保身のためにザクロ皇子を半ば強引に巻き込んで出した物なのです」 


 「つまりザクロ皇子には討伐するつもりは毛頭ない……ってことですかね♪」


 「当然です!!ザクロ皇子は妹君であられるツバキ様を大事に想っております!!たとえ吸血鬼の生まれ変わりだろうとそれで殺す決断をするなんて有り得ません!!」


 ミサの言葉にスミレは顔を上げて必死にそう説明し、


 「…………すいません。取り乱しました」


 そう言ってスミレは立ち上がる。


 「それで?どうして文官達は急に吸血鬼のお姫様を危険視するようになったの」


 「それはですね…………」


 「この国に聖王国のスパイが潜んでいる……、からですよね♪」


 ルナの問に答えようとしたスミレを遮ってミサはそう口にする。


 「どうしてそれを!?」


 と驚くスミレに、


 「私を甘くみてはいけません♪」


 としたり顔でミサは胸を張る。


 「昼間の内にお城の方をちょちょいと調べさせてもらいましたが、魔導武器を持った人を数人ですが確認しました♪…………あれ、聖王国の軍人ですよね♪?」


 「…………これは驚きました。厳重な警備の我らが城を易易と潜入したのですか」


 ミサの言葉に驚きとも感心ともとれる表情をスミレは浮かべる。


 「ちょっと待て!俺らって明日その城に行く予定だったよな。それじゃあ聖王国の連中と鉢合わせしないか!?」


 「それは大丈夫です。今回来たのは聖王国の使者の方々で先程お帰りになられました」


 「はい♪それは私も先程確認しましたよ♪何やら空飛ぶ乗り物に乗って出ていくのを見届けました♪」


 ロゼの不安をスミレが解き、その裏付けをミサがする。


 「でも危うく私達も聖王国の軍人と鉢合わせするかもしれなかったんだね」


 スミレ達の話を聞いてルナは少しドキッとしたが、スミレはそんなルナに申し訳なさそうな顔をし、


 「我々も聖王国の使者が来たのは予想外でして……、恐らくこの国にいるスパイからの情報でツバキ様を確認しに来たのだと思います。ひとまずは吸血鬼なんている筈がないと無理矢理言いくるめて追い返しましたが、それも時間の問題でしょう……」


 と言いながらもスミレは困った表情を浮かべる。


 「それでこの国に潜んでいるっていうスパイは目星ついてるの?」


 「いえ……、お恥ずかしながら全く分からないのです」


 「…………まぁ、スパイがいる以上吸血鬼の存在は聖王国に確実にバレてるんだよね」


 「そうですね……。近い内にまた来ると言っていたので、その時は…………」


 スミレはそこまで言うと悔しそうに手を震わせながら下を俯く。


 そしてルナはここまでのスミレの話を聞いて、どうしてこの国の文官達が魔王国に吸血鬼の討伐依頼を出した理由を理解した。


 「…………戦争を回避する為、か……」


 「…………はい」


 ルナの言葉にスミレは肯定する。


 "魔"の存在を悪とする聖王国にとって、害はなくてもかつて世界を滅ぼしかけた伝説の吸血鬼の生まれ変わりを看過するわけにはいかないのだろう。


 「当然この世界一の大国である聖王国とて戦う力など我が国にはありません。…………ですので、この国を守る為にはツバキ様を殺すしかないと文官共は思ったのですが…………」


 「吸血鬼の不死の特異性で殺せなかった……ですね♪」


 ミサの言葉にスミレは頷く。


 つまり自分達の手では追えないから魔族である魔王国に助けを求めたという事なのだろう。同じ魔族なら何とか吸血鬼を殺せると思い。


 しかし皇子であり吸血鬼ツバキの兄であるザクロは、そんな文官達に従う振りをして密かに別の計画を練っていた。それが…………、


 「ツバキ様を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これがザクロ皇子が貴方々にお願いしたい事でございます」


▽▽▽

 「着きました。どうぞお降り下さい」


 昨日のスミレの話を思い出しているとお城に着いたのだろう、運転してきた使者がルナ達に声を掛けてきた。


 これからルナ達がやる事は三つである。


 一つ。実際に吸血鬼であるツバキと会うこと。スミレは昨日海であった少女こそ吸血鬼たるツバキであると昨日教えてくれた。


 二つ。文官達が目を光らせ自由に身動き出来ないザクロ皇子と密かにコンタクトを取り、ツバキの偽装死計画を練ること。


 そして三つ。


 (今度こそ聖王国から守ってみせる)


 この国にいる聖王国のスパイを見つけ、この国で戦争を起こさせない。あの集落のような惨劇は繰り返させない。


 ルナは強くそう決意し馬車から降りる。

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