第2話 東方の島国アスカ(6)
アスカに着いて一日目の夜、隠家に集まったルナ達は各々得た情報を共有し合う。
「町の外をぐるっと見てきたが、せいぜい居て小鬼族じゃった。あれはとてもじゃないが吸血鬼の眷属ではないの」
最初に報告したのは町の外で吸血鬼の眷属が潜んでいるのか調べに行ったオニヒメ達であったが、これといった成果は出なかったようである。
「子鬼族は眷属としては弱すぎるって事?」
「子鬼族は鬼族の中では最下種で、区分的には魔獣に該当する知能も力も弱い種族なんですよ」
ルナの質問にオニキシはそう答える。
「吸血鬼の眷属となれば、少なくとも大鬼族や魔人たる鬼人がいると思ったのですが、どうやらこの国にいる吸血鬼は眷属を作っていないみたいですね」
とオニキシは結論つけた。
「因みにオニヒメやオニキシは鬼族の中ではどの立ち位置なの?」
「ん?ワシらか?オニキシは強大鬼族でワシが鬼神種じゃよ」
ルナの質問に何でもないかのようにオニヒメは答えたが、なんかすごい言葉が聞こえた気がルナはした。
「えぇと……、強大鬼族は大鬼族の上位種っていうのは何となく分かるけど……、鬼神って?」
「文字の如く"鬼の神"たる種族じゃよ」
と相変わらず酒を飲みながらルナを見てニカッとオニヒメは笑う。
(本当に九歳なのか?オニヒメって……)
ルナはそんな疑問を持ちつつも、これ以上オニヒメ達側からは情報の提供は無さそうなので、ルナ・フォーリア・ロゼの三人で町から集めた情報をオニヒメ達に話すことにした。
「町では色々と気になる話が聞けたよ」
とルナは話を切り出す。
「まずこの国は栄えてはいるけど、外の国々との交易を絶っている都合上少し文明が遅れているし、当然魔道具なんてものはないみたい」
アスカは聖王国と比較すると、どうしても田舎の小国というイメージが強く、建物や道路の舗装といったところも近隣諸国と比較しても発展が遅れているのがこの世界をまだよく知らないルナでも何となく察する事ができた。
「でも医療だけは違うみたい」
ルナはそう口にする。子供達から不思議な話を聞いた後、ルナ達は町の色々な人々から話を聞いて回った。
変装しているとはいえ、よそ者のルナ達があれこれ聞き回るのは不審に思われるかもしれないと危惧したが、この国の人々はとても親しみやすく、ルナ達が質問しても何も疑わずに答えてくれた。
「実際に病院の中までは調べられなかったけど、聞いた話では病気や怪我はこの国の秘薬で瞬時に回復するし、秘薬以外にも手術の成功率がほぼ100%でこの国の人々は病気や怪我で苦しむことはないんだって」
ルナの報告にオニヒメは何か考え事をする。そして一つの結論に辿り着いたようで、
「恐らく秘薬というのは、吸血鬼の血を何かしらの方法で使用しているのじゃろうな」
と告げる。
「血?」
「吸血鬼の血は即効の回復薬になるが、その血を飲んだ者は眷属になる……と伝説では言われておってな、しかしワシらとルナ達の情報を合わせるに、この国ではその副作用無しに吸血鬼の血を薬に変える術が確立しておるのじゃろ」
「……だとするとアスカが外交を絶って鎖国状態を維持しているのも納得ですね。そんな薬の存在が世に知れ渡ったら他の国々は黙っていないでしょう。それこそ、その薬をも求めて戦争が起きてもおかしくない」
フォーリアはどこか納得したようにそう呟くが、
「ちょっと待て、それだとおかしくないか?そんな凄い薬を作れて周囲に害も与えない……、そんな吸血鬼をこの国は討伐する必要があるのか?」
「そうだね……、どうしてアスカはそんな貴重な吸血鬼を討伐してほしいんだろ。吸血鬼の存在が他の国にバレたから?」
ロゼが口にした疑問点にルナも不思議に思う。
「はーい♪そこで私が持ってきた情報の出番です♪」
そこに挙手をしながらぴょんぴょんするミサが得意気な表情を浮かべ、
「うまーく城の中に潜入したんですが、かなりヤバめな情報を持って帰って来ました♪」
とヤバめと言ってる割には楽しそうにそう告げる。
「で?何が分かったんじゃ?」
オニヒメがじれったそうに尋ねると、
「なんとですね!…………と、私の話をする前に来客が来たみたいです♪」
そうミサが言ったと同時に、ルナ達の隠家のドアからノックが聞こえてきた。
「どうぞ〜♪」
それになんの警戒もなくミサが答えるとドアはゆっくりと開き、
「夜分遅くに失礼します。魔王軍幹部の皆様に内密にお願いしたい事があって参りました」
そう言って一人の武士のような女性が入って来た。
▽▽▽
「お初にお目にかかります。私はアスカ国の特殊護衛隊を務めてますスミレと申します」
スミレと名乗った女性はルナ達に頭を下げる。
「特殊護衛隊……、このタイミングで来るってことは例のこの国の皇女たる吸血鬼の護衛隊ですか?」
「はい……、皇子ザクロ様の名により皇女であられるツバキ様の警護を一任されています」
フォーリアの問にスミレは素直に答えた。
(ツバキ……って名前なんだ)
ルナはその名前を自分の中に刻み込む。どうもその皇女様とはこれから深く関わり合うことになる予感がしたのだ。
「それで♪ご要件はなんですか♪」
スミレの顔を覗き込むようにミサが尋ねるとスミレは膝を床につけて、
「お願い致します!ツバキ様を助けてください!」
土下座をしてルナ達に頼み込んだ。