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第2話 東方の島国アスカ(5)

 「お待たせしました。こちらが皆様へご用意した隠家です」


 そう言ってザクロに連れてこられたのは町のはずれにある一件の家だった。


 「これでもここはアスカで一番大きい町なんです。……そしてあそこに見えますのが城でございます」


 恥ずかしそうにザクロが指さす方を見ると、そこには小ぶりながらも立派な装飾が施されたお城が建っていた。


 「それではすいません。私はこの後政務がありますので今日は一旦失礼させていただきます。明日、こちらの者が伺いお城へ案内しますので、詳細はその時にお話しましょう」


 そう言って会釈をするとザクロは城の方へと歩いて行く。


 とりあえずルナ達は用意してもらった隠家へと入り、この後どうするかを話し合う事にした。


 「ザクロさんの言うとおりなら、私達の標的は吸血鬼、というより吸血鬼カーミュラの力を受け継いだ魔人……ってことですかね♪」


 隠家の一室に全員入って各々が一息つくや否やミサがそう口にする。


 「おそらくそうじゃろう。……そしてあのザクロといった男の妹、という事はこの国の皇女って事になるのかの」


 と珍しくオニヒメも難しそうな顔をする。


 「しかしここで話し合っても分からない事が多いですし、とりあえず明日までは情報収集しかする事がないかもしれませんね」


 「そうだね……。チラッと町の人々を見たけど、吸血鬼に怯えてる様子もなかったし、ザクロ皇子が言うように吸血鬼自体には害はないのかも。戦うにしても戦わないにしてももう少しその吸血鬼の事を知りたいかな」


 フォーリアの案にルナは賛同し、残りのメンバーも「そうじゃな」「ですね♪」と頷き、とりあえず今日は各々情報を集める事にした。


▽▽▽

 「でも本当に吸血鬼討伐を依頼してきた国にしては平和そのものだよね」


 近くのお店で売っていた団子らしき甘味を食べ歩きながら、町の様子を見てルナは呟く。


 「そうですね、小さい町のようですが町中が活気に満ち溢れています」


 「だな。……それに子供が元気に笑顔で走り回っているのはこの町が平和な何よりの証拠って感じだ」


 ルナの隣を歩くフォーリアとロゼもそれぞれ思ったことを口にする。


 隠家で話し合った後、ルナ・フォーリア・ロゼは町で情報収集、オニヒメとオニキシは吸血鬼の眷属たる他の鬼族がいないかの調査、そしてミサは気になる事があるから調べてくると単独でどこかへと行ってしまった。


 「……にしてもこの服、歩きにくくて仕方ないな」


 着ている服の袖を掴みながらロゼはボヤく。ルナ達はこの町で不審がられないよう、事前にミサが用意していたこの国の人々が着用する服を着ていた。普通の服とは違い、この国の私服は着物のような服なので普段こういう服を着ないルナ達は確かに動き辛い。


 「でも可愛いし私は結構好きだよ」


 ルナはそう言ってクルッとその場で回ってみせようとするが、


 「キャッ!」


 慣れない服でのターンはやはり難しく、ルナは裾を踏んでしまいそのままその場に倒れてしまった。


 「だいじょーぶ?」


 そんなルナの様子を見ていた近くの子供達が心配そうな顔つきでルナのもとへ駆け寄ってきた。


 「ありがとう、大丈夫だよ」


 ルナは擦りむいた足を見ながらも笑顔で子供達に答える。血は出ているが子供達の前で回復魔法を使うわけにはいかないので、ルナは我慢することにする。


 「血が出ちゃってる!早くお医者さんに行かないと!」


 子供達はルナの出血を見て慌てふためいるが、


 「このくらい大丈夫だよ!お姉ちゃん、こう見えて強いんだから!」


 ルナがそう言うと子供たちも安心したのか、


 「それならいいけど……」


 と言いつつもやはりルナの怪我が気になるのか、


 「でも痛かったらちゃんとお医者さんの所に行ってね。先生なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」


 「………………え?」


 ルナが子供達の言葉に疑問を持った時には、彼らは既に元気よく走り去ってしまった。


 「どんな怪我や病気もあっという間に治す……ね」


 ルナは立上りながら先程の子供達の言葉を復唱する。


 「ちょっと気になるな、今の子供達が言ってた事」


 「そうだね……。ちょっと病院を探してみようか」


 ロゼもルナと同様に違和感を覚えたようで、ルナ達はとりあえず病院を探して見る事にした。


▽▽▽

 「…………あぁ、…………アアアア!!」


 施設の中では全身を拘束されている一人の少女の悲鳴が響き渡っていた。


 吸血鬼の生まれ変わりと言われている少女・ツバキは施設で医療技術向上の為の実験という名の人体実験を受けており、少女の腹部は小さいナイフにより切り開かれていた。不死とはいえ痛覚は普通の人間と何も変わらないので、ツバキは身体中を襲う激痛に地獄のような苦しみを味わう。


 「………うぅぅぅ、…………お兄ちゃん…………」


 ツバキは逃げ出したい思いを必死に堪えて痛みに耐える。人間と同じ身体の構造を持ちながら不死の特異性により、どんな事をされてもすぐに元通り再生されるツバキの身体は、この国の研究者にとって最高の研究素材であった。


 「もう少し我慢してくださいねぇ。ツバキ様のこの行いは国の為、そして次期皇帝のザクロ様の為にもなりますから」


 ここの研究者は毎日同じ事を言う。彼らは知っているのだ、ツバキは兄の為なら何でもすると。


 「……お兄ちゃん、……お兄ちゃん……」


 そしてツバキもまた、大好きな兄の為にと繰り返される激痛と再生を繰り返すのだ。

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