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第1話 魔王軍幹部会(1)

 エルフの集落での戦いから三日が過ぎた。


 戦いの後、生き残ったエルフ達は魔王の庇護下に加わりたいと強く願った為、集落の復興を取り止めてそれぞれ休息を取り魔王国に向かう準備をする事にした。


 フォーリアはその休息の束の間、一人で族長のお墓に来ていた。


 エルフ達の強い要望で族長…………リーシャの育て親をこの地で埋葬する事になり、集落の中で唯一綺麗に残されていた花畑けに族長の亡骸を埋めたのだ。


 「お嬢様が大切に育ててきた花畑でしたね………」


 フォーリアは懐かしむようにその花畑に目を向け、


 「族長様、今までお世話になりました。必ずお嬢様を生き返らせて見せますので、ゆっくりとお休み下さい」


 と目に涙を浮かべながらも、優しい笑みと強い覚悟の籠った声でフォーリアは誓いを立てる。


 フォーリアはこの集落に来る前、家族との旅の途中で族に襲われ、フォーリア以外皆殺しにされた過去を持つ。その後リーシャに拾われ助けてもらい、族長の家で世話になる事になった。


 フォーリアはリーシャと族長に深い恩義を感じ、執事として働く事になったが、二人のフォーリアに対する温もりは心地よく、いつしかフォーリアも、そしてリーシャや族長も新しい家族だと認識していた。


 「人と魔族が平和に暮らせる世界…………か」


 フォーリアはふとその言葉を口にする。それはルナがリーシャの蘇生とは別に、魔王ヒナギと掲げた夢である。


 「正にここはそうでしたね」


 エルフの集落では人間はフォーリア一人であった。最初は自分とは違うエルフの皆んなとコミュニケーションをとれなかったフォーリアだが、リーシャや族長だけでなく、他のみんなも優しく接してくれたので、フォーリアはすぐこの集落に馴染む事が出来た。


 もしかつての集落の様に人と魔族が仲良く暮らせる世界が来たら、それはどんなに良い事なのだろう。


 「私もそんな世界を見てみたいですね」


 きっとリーシャも生き返った世界がそんな素晴らしい世界なら喜ぶに違いないとフォーリアは考えた。


 そして荒れ果てた集落を眺め、


 (平和になってお嬢様も生き返ったら、みんなでここで暮らしたいですね)


 この集落を再建し、平和な世界でリーシャとフォーリア、それにルナやロゼと仲良く楽しく過ごす。そんな素敵な未来を想像し、フォーリアは族長のお墓から立ち去った。


▽▽▽

 「よーしよし、いい子だな」


 集落のとある一角でロゼは魔獣の世話をしていた。


 戦いの直後、集落内にあった食料や日用品はほぼ全て焼き払われてしまったので、ヒナギが自国と連絡を取り、ヒナギのペットである白獣馬(ペガサス)ルリィと黒獣馬(ユニコーン)ネリィに必要分の物資を積ませ召喚した。


 そしてネリィとルリィが到着すると、ヒナギの元ではなく真っ先にロゼの側に二頭とも駆け寄り、それに嫉妬したヒナギが近づくと噛まれるというハプニングがあり、ヒナギは悲しそうにネリィとルリィをロゼに託す事にした。


 因みにその際、ユリウスとナロから「「寝とられたな」」と弄られたヒナギは、二人に鉄拳制裁をしていたりもしていた。


 ヒナギからネリィとルリィの餌は貰っていたので、それを与えつつ毛並みを撫でると、二匹は嬉しそうな声を上げつつ、ロゼに擦り寄る。


 「ホンマに君、魔獣から好かれるなぁ」


 と先程から少し離れた位置(近くにいると噛まれるからだそうだ)で座りながらコチラを不思議そうに眺めるナロが声を掛けてきた。


 「不思議と昔から動物によく懐かれるんですよね」


 とロゼは答える。ロゼ自身動物に好かれる体質なのは自覚していたが、まさかそれが魔獣にまで及ぶとは思ってもいなかった。


 「………………俺、このままでいいのか?」


 「ん?」


 「あっ、いや…………」


 ふと自身の不安を口に出してしまい、それがナロの耳にも届いたようだ。


 ロゼがどうしようかと口ごもっていると、


 「悩みがあるなら言うてみ?コレでも君の何倍も生きてるんやから、アドバイスくらいはしてあげるよ?」


 とナロは少し、ほんの少しだけ恐る恐るロゼに近寄ってそう告げた。


 「ルナのリーシャを復活させるっていう目標は俺も同じです。それに人と魔族が争わない世界っていうのも俺が望む世界なんです」


 とロゼはリーシャとは別にもう一人の少女、幼なじみで親友で、そして初恋の亜人の女の子ミリーを思い浮かべる。


 「俺に力があれば…………、昔も今も大切な友達を失わずに済んだと思うんです。そんな弱い俺がルナの力にこれからなれるのかなって…………」


 ロゼの心にあるのは今回の自分の不甲斐なさ。聖王国城での裁判時は父親の裏切りに失望して何も出来ず、聖王国脱出の際はヒナギの多大な手助けに寄るところが大きく、集落での戦いでは早々に聖王国軍の将軍シリウスに為す術なく倒され、最後だってルナの魔力あって戦力になる事が出来た。


 つまりロゼはここ一連の出来事で己の力で皆の力になれた事はない。それがロゼの悩みであった。


 こんな弱い自分がルナ達について行っても足でまといにしかならないのではないか。


 そんな想いをナロに伝える。それにナロは、


 「なんや、そんな事で悩んでたんか」


 と溜息まじにりにそう言った。


 それにロゼは少しムッとし、


 「いや、そんな事って…………」


 「ならもっと強くなればええだけやん」


 ロゼの言葉を遮り、当たり前な事、だけど難しい事を簡単にナロは告げる。


 「過去は過去…………、って割り切るんは難しいんやけど、それで諦められるほど君の大切な物は大したことないん?」


 「…………!そんなわけ」


 「なら、強くなるしかあらへん!」


 そう言ってナロはロゼに近づき、背伸びをしてロゼの頭を撫でる。


 「ルナちゃんはええ子や。弱いからって仲間を見捨てる子じゃないって、少ししか一緒に過ごしてないウチでも分かる。…………それに今度はウチらも仲間や、強くなれる方法なんてみんなで考えればええ。」


 そう言ってナロはロゼの頭を自分の胸に抱き寄せ、


 「せやからもう一人で抱え込まんようにせや」


 と優しい言葉を投げかけた。


 ロゼは恥ずかしながらもナロの包容力に身を委ね、


 「ありがとうございます。もう大丈夫です」


 そう言ってナロの胸から顔を上げ、


 「改めて、これからよろしくお願いしますね」


 と言って手を差し伸べた。


 「ウチの方もよろしゅうな」


 ナロもそう言ってロゼと握手をしようとし、


     ガブ


 ロゼの近くにいたネリィがナロの差し伸べた手を噛み、


         ドスッ


 と背後からルリィがナロを体当たりし、


 「ぷぎゃあぁ」


 変な悲鳴を上げ、その場にナロは倒れ込んだ。


 そしてわなわなと震えながら立ち上がり、


 「こんのクソ馬がぁぁぁ!」


 そう言って二本の尻尾を生やし、二頭の魔獣相手に取っ組み合いを始めた。


 その光景を見て、


 「プッ………………、ハハハハハハ」


 とロゼは吹き出し思いっきり笑う。


 こんな心から笑ったのは久しぶりな気がした。


 そしてちゃんと自分の進むべき道が見えた気がした。


 「笑ってへんではよ助けて!!」


 ナロの悲鳴じみた声を聞き、ロゼはネリィとルリィを宥めてナロを解放させた。


 


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