第9話 聖魔事変〜決戦〜(14)
「なんですかそれは…………、そんなデタラメ認められますか!」
ロイターはルナの新しく開花した力に怒り狂う。もしロイターの考え通りなら理論上、ルナはこの強い力を多くの仲間に与える事も出来るということだ。それは聖王国にとっても危険すぎるので、とてもじゃないが許容出来ない。
そう思うが、フォーリアの認知できないスピードによる攻撃に翻弄され、ロイターが攻撃しようとすればロゼが魔力を奪って妨害し、そうする中で隙が出来ればルナが高威力の魔法で攻撃する。そんな三人のコンビネーションにロイターは手も足もでなかった。
「クソが………………、クソがああああ!」
ロイターは自滅覚悟で自身の中にある残りの魔力を全て杖に集める。
「全て破壊してやる!魔族共!くたばりなさい!」
そう叫ぶとロイターの体が光り出す。ロイターは自身の魔力を核にするとで、周囲を滅ぼす魔力爆発を起こそうとする。自身の命と多くの兵士の命を犠牲にしてでも、ルナを仕留めなければならないと思ったからだ。恐らく聖騎士と将軍も無事では済まないだろうがこの際仕方ないと考え、
「コレで終わりです!!」
ロイターはそう叫び、魔力を解き放つ、
その瞬間、
「!?」
ロイターの目の前にルナがいた。
どうやらフォーリアが背負い、一気にここまで距離を詰めたようだ。
「リーシャの力をそんな事に使わせないよ!」
ルナはロイターから溢れ出す魔力にステッキをかざし、爆発寸前のリーシャの魔力を吸い取った。
「おっ………………おのれぇぇ!」
最後の手段を奪われたロイターは最早ルナを睨みつける事しかできない。
「………………コレで終わらせる!!」
そしてルナはそんなロイターにステッキを向け、
「降り注げ!慈しみ溢れる光の雨!魔法光雨!」
ロイターの頭上に光輝く魔力の雨を降らし、ロイターはリーシャの魔力ごと浄化した。
▽▽▽
「………………終わったか」
将軍はロイターの最後を見届け刀を懐に収める。
「何勝手に幕引こうとしてるんだ?」
そんな将軍に魔王ヒナギはボロボロになりながも睨みつける。
リーシャの魔法で一度は回復したものの、ヒナギは将軍相手に劣勢を強いられていた。それほどまでに将軍と呼ばれていた男の実力はヒナギと離れている。
それでもヒナギはこの男を倒さなければならないという使命感が強く、また守るべきリーシャを守れなかった己の弱さも相まって少し自暴自棄にもなり、戦いを続けようとする。
しかしそんなヒナギを将軍は無視し、ペンダントの様な魔道具を手に持ち、ゲートを作り始めた。
「待てって言ってんだろ」
ヒナギは渾身の力を振り絞って将軍に斬り掛かるが、将軍は軽く刀で受け止め、勢いそのままヒナギを蹴飛ばす。
「…………こちらの目的は果たした。あの大臣が死んだ以上ここにいる理由はない」
そう言ってゲートを聖騎士や生き残っている兵士の近くにも作り終え、将軍は立ち去ろうとする。
「………………おい、最後に名前を教えろ」
ヒナギは倒れながらも睨みつけて尋ねる。
その問いに男は振り向きもせず、
「………………我が名はシリウス」
そう静かに告げ、ゲートの向こうへと消えていった。
▽▽▽
別の場所で最後の戦いを見届けていたルキアートも、将軍シリウスの作ったゲートで帰還しようとする。
「…………コレでもう決別は決まりだな」
ルキアートはルナを見つめそう呟く。ルキアートの密かな目的であったルナを味方にするというのは、国の大臣を殺した今となってはもう叶わない。これからルナは恐ろしい魔族として世間に知られ、人類から迫害されながら、聖王国に命を狙われ続ける事になるだろう。
それでも………………、
(アイツならどんな逆境も乗り越えて行くだろうな)
と何故か自然と笑みが零れ、ルキアートもゲートに向かうべく立ち上がる。
そして帰還する前にルナの方を見て、
「でも、次会った時は負けねぇからな」
もし今後、ルナが倒される時が来るとすれば、他の誰かではなく自分の手でありたい。そう思いルキアートはゲートを通る。
▽▽▽
アイシェンとミラージェも帰還したようで、ユリウスやナロ達も何とか無事にこの戦いを乗り越えられたようだ。
そして落ち着いた後、自然にこの戦いでみんなを救ったリーシャの所に全員が集まった。
「本当にすまない。君のお父さんと約束したにも関わらず、君を守る事ができなかった」
横になっているリーシャを抱えあげ、悔しさを滲ませた声でヒナギが言う。
「リーシャさんがいなかったらウチら間違いなくみーんな殺されてたわ。ほんまありがとうな」
ナロもリーシャの頭を撫でながら目に涙を浮かべ感謝の言葉を述べる。
「お嬢様は最後までみんなの為に頑張ってました」
「あぁ、俺達は最高の友達に巡り会えたんだって胸を張って言える」
とリーシャを囲むようにフォーリアとロゼが近寄ってくる。
そして、
「リーシャからたくさんのものを貰っちゃった…………。今度は私が…………、いや私達がリーシャの分もたくさんの人を救おう」
リーシャの手を握って力強くそう言ったルナの言葉に、みんなが頷いた。
………………………………一人を除いて。
「あ〜………………、ちょっといいか」
ユリウスがタバコに火をつけながら間に入る。
そして告げる。
「空気壊すようでアレだが、そのエルフまだ死んでねぇよ」