第9話 聖魔事変〜決戦〜(12)
リーシャの想いを交えた変身は、今までより強く、そして心温まるものだった。
髪は綺麗な緑色となり、ドレスもふりふりの物から白とピンクを織り交ぜたシルクの様なワンピースへと変わる。耳も少し大きなったようで、遠くの周囲の音を鮮明に聞き取る事が出来る。
その姿を見たフォーリアは思わず、
「…………お嬢様?」
そう思わせてしまう程、今のルナの姿はリーシャの面影を色濃く出していた。
「リーシャ、コレ借りるね」
ルナはそう言ってリーシャが持っていた彼女の杖を手に取り、それを自身の杖と重ねる。
すると両方の杖は強く輝き出し、やがて一本の新たなステッキとなった。
「少しあのエルフの力を感じますねぇ」
ロイターは新たに変身したルナの姿、そして魔力をじっくりと観察する。
「これは少々厄介そうなので、一気に終わらせましょう!!」
そう高らかに叫び、先程試し撃ちしたものとは比べ物にならない程大きく、密度の濃い魔力の塊を杖から作り出す。
「では死になさい!!」
ロイターは笑いながらそう言ってその魔力砲をルナ目掛けて撃ち放つ。
「「ルナ(様)!!」」
フォーリアとロゼが同時に叫ぶ。
そして心配する二人に対して、
「大丈夫だよ…………」
ルナは天使の様な笑顔で二人にそう応え、新しいステッキを前に掲げる。
そしてルナに向かって飛んでくるロイターの魔力砲はルナのステッキに直撃し、
「…………………………………………は?」
その光景にロイターは唖然とする。
魔力砲はルナのステッキに当たると、そのエネルギーは全てルナのステッキに吸収された。
「お・か・え・し!満月魔力弾!」
ルナはそう言って満月のような大きくて丸い魔力弾を作り出し、そのままロイターに撃ち返す。
「おおおおおおぉぉぉ!」
ロイターはその攻撃を自身の周囲に張っていたであろう防御の結界を一点に集めたシールドを作る事で防ごうとするが 、ルナの魔力弾が当たったと同時に破壊され、そのままロイターに直撃した。
初めてまともに攻撃を受けたロイターは苦しそうな表情を浮かべる。そして今度は同じような魔力砲を連続して撃ち続けるが、ルナは魔法防壁を多数作り出し、ロイターの魔力砲を一つ残らず相殺した。
「この魔族めが!!」
遠距離は分が悪いと感じたロイターは接近戦に持ち込もうと、まるで瞬間移動の様にルナに肉薄し、杖に魔力を込めて思いっきり振りかぶる。
だがこの攻撃も、ルナは軽くステッキを振り上げて弾き返し、
「天魔一閃!」
ステッキに魔力を集め、そのまま薙ぎ払った。
「ガハッッッ…………」
ゼロ距離からこの攻撃を喰らったロイターはそのまま吹き飛ばれる。
「クソ…………クソがア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
ロイターは立て続けにダメージのでかい攻撃を二発喰らったが、それでも雄叫びをあげつつ立ち上がる。
「いい加減、終わりにしよう…………」
ルナはそう言ってとどめを刺すべく、ステッキに魔力を集め始める。
しかしそんな中でもロイターは不気味な笑みを浮かべていた。
「認めましょう…………あなたは強い。あなたは聖王国を脅かす程の魔族だ」
ロイターは薄気味悪くそう告げる。そして魔力を一気に体内から放出し、
「なら私も!命にかえても!ここで聖王国への危険分子を排除しましょう!!」
そう叫んでロイターの中にあるリーシャから奪った魔力を全て自身に纏った。
▽▽▽
「ふふふ………漲る。力が漲って来るぞぉ!!」
ロイターは更に姿を変え、声高らかに笑い出す。
「ではいくぞ!!愚かなる魔族共に正義の鉄槌を下してやる!!」
ロイターはそう言って杖から魔力砲を撃ち放つ。
「!?」
ルナはそれを防がずに回避することを選んだ。魔力砲はルナの身体スレスレを掠めていき、そのまま後方にある森の方へ飛んで行く。そして、
ドゴーン!!
魔力砲はけたたましく爆発し、地面を大きく削り、辺りの木々全てを壊し尽くした。
流石にあれを喰らったら今のルナでもひとたまりもない。
「うーむ、力が有り余り過ぎて加減が難しいな」
そんなルナの心配は他所にロイターはそんな事を言い出した。
「少しづつ痛めつけて嬲り殺そうと思ったが、これでは一瞬で終わってしまいそうだ」
とロイターは下衆な笑みを浮かべてルナを見る。
そしてルナはどう動くか考える。
一番防がなくてはいけないのは、先程のような攻撃を他のみんなに撃たれる事である。
何とかルナに注意を引かせつつ、ロイターを倒すにはどうすれば良いのか。
そう考えていると、ルナの隣にフォーリアとロゼが再び並ぼうとしていた。
ルナはつかさず、
「危ないから離れて!」
と二人を注意したが、そんなルナに対して、
「もう一人で抱え込まないでください」
とフォーリアが優しい口調でルナに語りかける。
「私達は仲間です。辛い事も、苦しい戦いも一緒に乗り越えましょう」
フォーリアの言葉にロゼも「全部言われちまった」と笑いながら頷く。
「フォーリア…………ロゼ…………」
二人の言葉はとても嬉しいが、やはり危険な目に合わせたくないという気持ちがルナの中に少し残る。
そんな不安を持った時だった。
『…………ルナさん』
どこからかリーシャの声が聞こえてきた。
『ルナさん、フォーリアの言う通りよ!』
リーシャの声は自分の内から聞こえるてくる気がした。
『ルナさんは独りじゃない。頼りになる仲間がいる。だから信じて仲間の力を…………私の力を!』
そこでリーシャの声は途絶えた。
(…………そうだね)
リーシャの声でルナは考えを改める。
「フォーリア、ロゼ…………、力を貸して」
ルナの言葉に二人は嬉しそうに頷く。
そしてルナは目を閉じ、自身の中に流れるリーシャの魔力を高めていく。
(…………リーシャ、みんなを守る為に力を借りるよ!)
ルナはステッキをフォーリアとロゼに向け、
「魔力付与!」
ルナとリーシャ、二人の魔力をフォーリアとロゼに与えた。