第9話 聖魔事変〜決戦〜(11)
息を引き取ったリーシャをルナはゆっくりとその場に寝かせる。
「…………自滅してくれると思ってましたが、最期の最後まで面倒をかけさせますねぇ」
ロイターは蔑むようにリーシャとルナを見る。
「良いでしょう、あなたは私が直々にあのエルフの所へ送ってあげましょう」
ロイターはそうルナに告げて杖を構える。
しかしそんなロイターをルナは気に掛けず、
「ごめんね…………そしてありがとう」
とリーシャの髪を撫でながらルナは呟いた。
ルナに無視されたロイターは苛立ち、
「戦う気がないならさっさと死になさい!」
そう言って杖を振り下ろす。
しかしその杖はルナに届く前に止められる。
「お前だけは…………お前だけはあぁぁ!」
間に入ったフォーリアがレイピアで弾き返し、
「これ以上仲間をやらせるかよ!」
間髪入れずにロゼが槍を振りかざす。
ロイターは「おっとと…………」と杖でロゼの攻撃を防いで後ずさった。
ルナはリーシャの髪から手を離すと立ち上がり、ロイターの方に振り返る。
そしてそんなルナの両側には目を真っ赤に晴らしているフォーリア、険しい表情でロイターを睨みつけているロゼがそれぞれ並び立つ。
「……悪いけど、いい加減この戦いを終わらせてもらうよ」
ルナは力強くロイターに宣言し、そのルナの言葉にフォーリアとロゼの二人も頷く。
「流石に三対一は少し分が悪いですなぁ」
とロイターは頭を掻きながら呟く。
そして手に持つ杖を掲げ、
「それでは聖王国が誇る秘密兵器をご覧に見せましょう!」
そう声高らかに叫ぶと、ロイターは手に持つ杖で自身の身体を突き刺した。
自刃を思わせるロイターの行動にルナ達は一瞬驚くが、直ぐに異変に気付く。
ロイターの胸に突き刺さった杖から禍々しい光が溢れ出し、ロイターの全身を包み込んでいく。
「見なさい愚かな魔族共!!コレこそが聖王国の誇る技術力の結晶です!!!」
ロイターの声と共に彼を包む光が消えていく。
そしてそこに立っていたロイターは、先程とは全く別の存在に変化していた。
▽▽▽
変化したロイターの容姿を一言で表すなら天使が相応しい。背中には白い羽が生え、ロイター全身を淡い光を纏っている。見る人が見れば神々しくも感じるだろう。
しかしルナは嫌悪感を拭えない。そしてそれはフォーリアも同様のようだ。
「ほほぉ〜、流石はエルフの姫の魔力といったところですねぇ」
ロイターは自身の力を感じながら満足気に頷く。
そう、ルナとフォーリアフォーリアはロイターが纏う力を馴染み深く感じる。そしてそれがリーシャの魔力によって生み出されていると直感で理解していた。
ロイターは今の自身の力を試す為か杖を軽く振るう。すると杖から凄まじい魔力が幾つも放出し、近くにある建物や戦いから避難しているエルフ、更には自国の兵士まで吹き飛ばしてしまう。
「これは良い!魔力という物を初めてその身に宿しましたが、存外悪い気はしないじゃないですか!!」
ロイターは魔力を有したと言った。つまりリーシャを殺した時にあの杖で魔力を吸収し、その魔力を自身に取り込んだということだろうか、とルナは考える。
「……………………お嬢様の」
フォーリアがレイピアを構えロイターの元へ駆けて行き、
「お嬢様の魔力でお嬢様の大切なものを傷つけるなああ!!!」
怒りと勢いに身を任せ捨て身の攻撃を仕掛けた。
しかしそれをロイターは何もせず、無抵抗に攻撃を受け止め、フォーリアのレイピアはロイターの胸に突き刺さる。
しかしロイターはダメージを受けた素振りを見せず、余裕の笑みを浮かべゆっくりとレイピアを抜き取り、フォーリア諸共投げ飛ばした。
「先程も拝見しましたが、やはり回復能力は凄まじい!!」
リーシャは先程、集落全体のみんなの魔力・怪我を全回復させていた。その力を自分一人に集中するのなら、今のロイターのように致命傷も瞬時に回復する事が出来るだろう。
「だったら!!」
フォーリアと入れ替わりロゼが突っ込み、次はロイターの首を狙い、鋭く槍を振り払う。
しかしその攻撃もロイターには届かない。ロゼの攻撃は見えない壁みたいなものに阻まれ、その反動を受けたロゼにロイターは杖を振るい、その衝撃でロゼはルナの側まで吹き飛ばされてしまう。
「おやおや、あなたは来ないんですか?」
ロイターは未だに動かないルナを挑発する。
そしてそんな挑発を受けたルナは、
「…………………………………………………………………」
ゆっくりと目を閉じ、自分の胸に手を当てていた。
そんなルナの様子を見て、
「つい先程、あんな啖呵を切ったばかりだというのに、結局死んだエルフの事で頭が一杯のようですね」
とつまらなそうにロイター呟く。
「もういいです。絶望に朽ち果てながら死になさい」
ロイターはそう言って杖に魔力を集め、それをルナ目掛けて撃ち放つ。
それでもルナは焦らない。怖がらない。絶望もしない。
先程ロイターはリーシャは死んだと言った。
(……………………生きてるよ)
ルナは自身の中を巡る温かい魔力を感じ取り、
「リーシャの愛が!私の中で生き続けている!!」
ルナはそう叫び、ステッキを掲げ、
「魔装変換・魔法天使」
ルナとリーシャ、二人の魔力を今、掛け合わせた。
▽▽▽
その光景を離れた場所からルキアートは見ていた。
ルナにダメージを与えられたとはいえ、聖騎士のルキアートはまだまだ戦う余力を残していた。
なのでやろうと思えば今からでもロイターに加勢し、再びルナと戦うことも出来る。
しかしルキアートはこの戦いの結末を見届けることを選んだ。
大切な人を失う気持ちはルキアートも知っている。
そんな想いを胸に、彼女がどう戦うのか、
「………………どんな結末になろうが、俺はお前の事を心に刻み込むぜ」
ルキアートは静かにそう呟く。