第9話 聖魔事変〜決戦〜(10)
吐血し力が抜けていくリーシャの体を今度はルナが支える。
リーシャの身体を貫いている杖は禍々しい光を放っており、その杖の持ち主、ロイターは勢いよくリーシャの身体から杖を引き抜いた。
それと同時に先程までリーシャが出していた魔法が全て消える。
「リーシャ!!早く回復魔法を!!」
ルナは悲鳴じみた声で叫ぶが、リーシャは少し目を閉じた後、
「………………駄目みたい。うまく魔力が練れないや…………」
儚げに感じる笑顔を浮かべてリーシャはそう伝えた。
それはルナが聖王国に囚われていた時に付けられた拘束具と似たような症状だった。魔力はあるのだが、魔法を使おうとすると魔力が乱れ、勝手に排出されてしまう。
「何をしても無駄ですよ」
そう言うのは背後で笑うロイターだった。
「この杖は相手の魔力を封じる魔道具です。…………それにその傷なら今から回復魔法を掛けても手遅れでしょう」
それはあまりに残酷な言葉だった。
「…………リーシャ!…………リーシャ!!」
ルナはただ泣き叫ぶ事しか出来ない。
自分が油断してなければ、もっと力があればと自責の念がどんどん強くなる。
そんなルナに支えられながら、リーシャは静かに目を閉じた。
▽▽▽
「あ…………、あぁ…………、うわぁぁぁァァァァァ!」
ルナは雄叫びの様な悲鳴をあげ、それを煩わしそうにロイターが耳を塞ぐ。
「まぁ、色々ありましたが目的は達成出来たので及第点といったところですかね」
そう言いながらロイターはルナの正面に回り込む。
「ここからは残り者の掃除ですかね。我が軍勢に今後の支障が出ない程度に反乱分子を排除しましょう」
そう言ってロイターはルナの前から立ち去ろうとする。
「…………………………………………………………てよ」
「はい?」
「待てって言ってんだよ!!」
ルナはリーシャの身体を支えながらロイターを睨めつける。
そして叫んだのと同時に、凄まじい憎しみと殺意がルナの中で暴れ出す。
(この男だけは許せない、絶対に殺す)
やがてその感情はルナの魔力に具現する。魔力はドス黒くルナの体から溢れ出し、服も漆黒のドレスへと変わっていく。
(ころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス殺すころすコロス)
『その気持ち、僕が叶えてあげるよ』
どこからか聞き覚えのある声が聴こえた気がした。
『さぁ、その衝動に身を任せるんだ。』
その言葉を皮切りに、ルナは黒き衝動に呑み込まれる。
▽▽▽
リーシャは微かに残る意識を隣にいるルナに向ける。
(あぁ…………、さっきの私と同じだ)
絶望の底に叩きつけられ、自分を見失ってしまっている。
今のリーシャに不思議と死の恐怖は無かった。それよりもリーシャのせいで、リーシャの大好きな人が壊れていく方が余っ程辛い。
(待っててルナさん…………。今度は私が貴方を救うから)
リーシャは最期の力を振り絞り目を開ける。
(みんなが私にくれた様に、ルナさんに愛情を!)
そしてリーシャはルナにキスをする。
「!?」
リーシャはキスを通して自身の魔力をルナに流し込む。魔力を練る事は出来なくても、ただ魔力を流すだけなら何とか可能だった。
リーシャの優しい魔力に包まれ、ルナの暴走した魔力は次第に治まっていき、やがてルナは正気に戻った。
「…………………………!」
正気になったところでルナはリーシャからキスされてる事に赤面する。
「おかえりなさい………………」
リーシャはルナの唇から口を離して微笑む。
「………………なんでキスを?」
ルナの質問にリーシャは恥ずかしそうに、
「前にね…………フォーリアが大好きになった人には…………自然とキスをするんだって」
「はは、それは少し違うかな」
ルナとリーシャは笑い合う。
「…………ルナさん、みんなを護ってあげて」
「……………………うん」
「………………大好きだよ、ルナさん」
そう言ってリーシャはもう一度ルナに口付けをし、幸せそうな笑顔を浮かべ死んでいった。