第9話 聖魔事変〜決戦〜(9)
リーシャが意識を取り戻した時、集落の戦場は絶望的であった。
魔王ヒナギが倒れているフォーリア、ロゼ達を庇いながら戦っていたお陰で死者は出ていないようだが、そんな状況で将軍と戦っていた為かギリギリのようだった。
そして聖騎士相手に戦っているル、ナ、ユリウス、ナロも魔力不足により苦戦を強いられている。
「………………………………お嬢様」
リーシャの意識が戻ったのを一番最初に気付いたのは深刻なダメージにより倒れているフォーリアであった。フォーリアは無事な様子のリーシャを見て安心したのか、ほっとした表情を浮かべ涙を流す。
そんなフォーリア顔の横にしゃがみこみ、
「…………私ならもう大丈夫」
そう言ってフォーリアの頭を撫で、再び立ち上がり戦場を見渡す。
すぐ近くには血の海の中で安らかに眠る族長……、お父さんの姿がある。もうお父さんと話す事は出来ないと考えるととても悲しいが、それでも先程のように絶望する事は不思議となかった。
先程の夢のような出来事をリーシャは鮮明に覚えている。死の直前も、そして死して尚私の事を愛してくれたお父さん、ママ、パパの想いはしっかりとリーシャの胸の中に刻まれた。
それにその三人だけじゃない。
腕を無くしても必死にリーシャを守ろうとしてくれたフォーリア。
生まれ故郷や親を捨ててでも助けに駆け付けてくれたロゼ。
パパとの約束の為にリーシャ達をずっと見守ってくれたヒナギ。
聖騎士相手にもみんなを守る為に戦ってくれているユリウスにナロ。
そして…………………………、
(私を集落から連れ出して、一緒に旅をしてくれて、困った時は全力で助けてくれて、今も私の為に命懸けで戦ってくれてる…………)
リーシャは自分の胸に手を当て、一人の少女に目を向ける。
(最高の友達で私の大切な人…………ルナさん!)
リーシャには今も自分の為に戦ってくれる人がいる。そしてそんな人達が傷ついている。
「今度は私がみんなを助ける番だよ」
リーシャは内から溢れ出す熱く、しかし優しい魔力を感じ、戦場へと一歩踏み出した。
▽▽▽
「…………!リーシャ!?」
ルキアートとの戦いで魔力切れ間近になり、膝を地面についているルナはコチラに向かって歩いて来るリーシャに驚きを隠せないでいる。
それはヒナギも同じようで、
「「来るな!」」
ルナとヒナギは同時に叫んだ。
しかしその二人の叫びにリーシャは、
「大丈夫だよ」
と笑顔で応える。そして手に持つ杖…………、二人のお父さんから託された杖を空高く掲げる。
「聖なる慈愛を、私が愛する者達へ………………」
リーシャが祈る様に目を閉じ、魔力を杖に集める。
すると杖から白く、淡く、そして優しい光が集落全体を包み込む。
「!?」
ルナは内から溢れてくる魔力に目を見開いた。ルナだけでは無い、ヒナギ、ユリウス、ナロの魔力を持つ者全員の魔力が回復したようで、彼らも驚いた様に自身の魔力を確かめている。
またロゼは気を取り戻しており、フォーリアに至っては無くした腕が再生される程の回復をしている。
「今度は私がみんなを護るから!」
リーシャはそう言うと、目を覚ました集落のエルフ達を護るよう新たに結界を作る。
そしてルナに向かい、
「私がみんなを護るから、この戦いを終わらせて!!」
そう力強く叫んだ。
▽▽▽
魔力だけでは無い。リーシャの持つ優しい心も体中にみなぎっているとルナは感じた。
「………………ありがとう、リーシャ」
ルナは静かに呟く。
そしてルキアートにステッキを向け、
「悪いけど友達に託された今、もう負ける気はしないよ!」
そう言って自身の魔力を高める。
「魔装変換・剣士!」
ルナは再び近接戦闘スタイルに変身する。
魔力が回復している事にルキアートも気付いているようで、
「あのエルフの娘の力か…………、ロイターの野郎が危険視するわけだ」
とどこか納得したように頷く。
「それでも俺のやるべき事は変わらねぇ!」
そう言ってルキアートは炎槍を構えてルナ目掛けて走り出す。
それをダーウィンが間に入って防ごうとするが、
「ここは私に任せて!ダーウィンは他のヘルプに回ってあげて!」
とルナが叫ぶ。
ダーウィンはルナの自信に満ち溢れている顔を見て、
「承知した!」
と言ってルナの側から離れていく。
「タイマンで俺に勝つつもりか!」
その様子を見たルキアートは炎槍に高度の炎を纏わせルナに振りかざす。
「…………独りじゃない」
その攻撃をルナは剣で受け止める。
先程と違い、高魔力で変身したルナの剣はルキアートの聖武器・フレーミアと接触しても溶ける事はなく、そのままルキアートを跳ね返す。
「今はリーシャの想いもここにあるんだから!」
そう言ってルナは自分の胸に手を当てた。
そして魔力を最大限に高め、それを剣に流し込む。
「二人の絆をこの一撃に…………。天魔一閃!!」
ルナの剣はその魔力を纏い、光り輝く。それをルキアートに全力で振りかざす。
「ウォォォォォォォォ!」
その攻撃をルキアートは受け止めるが、徐々に力負けしていく。
「終わりだぁぁぁぁぁぁ!」
そしてルナは更に魔力を込めて振り払い、ルキアートは受け止めきれず遙か後方に吹き飛ばされた。
▽▽▽
「はぁ…………はぁ……やった…………」
ルキアートを倒した事でルナは力が抜けてしまう。しかしそこにリーシャが駆け付けてくれ、
「さすがね、ルナさん」
そう言ってルナの肩を持ち体を支える。
一気に魔力を使ったせいで脱力してしまったが、リーシャの魔法のお陰ですぐに魔力は回復した。
「ありがとね」
そうルナはリーシャに伝え、辺りを見渡す。
リーシャのおかげで戦いはコチラが有利に動いていた。
魔力が回復したことでユリウスは大量の死霊を召喚し、一気に聖王国兵を圧倒していく。
またユリウスにはダーウィンが、ナロにはカルメアが戦いに加わった事で、アイシェンとミラージェを追い詰め出していた。
そしてヒナギも将軍に大技を連発し、もう何もさせないように足止めをしている。
「コレでもう終わるよね?誰も死なないよね?」
リーシャはルナの手を握りそう尋ねる。
「ええ、もちろん!…………じゃあ終わらせて来るね!」
ルナはそう答え、ヒナギ、ユリウス達、ナロ達どちらに加勢しようか考えていると、
「………………全く、だからあれほど早く仕留めよと言ったのだが」
「……………………………………………………………………え?」
不気味で不穏な声がしたと同時に、リーシャの背後から一本の杖がリーシャの身体を貫いていた。