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第9話 聖魔事変〜決戦〜(8)

 リーシャの悲鳴と結界内での出来事に、ルナとヒナギは彼女の元へ駆けつけようとするが、ルナはルキアートが、ヒナギはどこからか現れた500人の兵士が行く手を妨害する。


 「どけよぉぉぉ!」


 ヒナギは立ち塞がる兵士を次々と薙ぎ払い何とか結界に辿り着いた。


 しかし将軍にとって一般兵が死してヒナギを足止めした数分は十分過ぎる時間だった。


 先づ将軍は族長の身体から刀を引き抜き、近くにいたロゼを刀の柄で気絶させ、続いてリーシャを守る為に立ち上がったフォーリアの鳩尾に拳を入れて彼女を戦闘不能にする。そして結界内にいたエルフ達を次々と襲い、ヒナギが着いた時にはリーシャ以外結界内にいた者は全員倒れていた。


 「おやおや、まだ全員息があるじゃないですか?」


 ロイターは呆然と立つヒナギの横に堂々と立ち並び、非難めいた声で将軍に声を掛ける。


 それに将軍はつまらなそうに、


 「何度も言わせるな…………。俺は標的以外の殺しは好かん」


 と言い放つ。


 それにロイターは「そうでした」と呟き、


 「ですが標的であるそこのお姫様とこの忌まわしき結界を張る老体は仕留めて下さい」


 と伝えロイターはその場から離れていった。


 「おい!俺を中に入れろ!」


 ヒナギは結界を叩き、中にいるリーシャに向かって叫ぶ。


 族長はまだ息があるため結界は辛うじて張られている。しかし一緒に結界を張っているリーシャはショックのあまりパニックになっており、ヒナギの声が聞こえないでいた。

 

▽▽▽

 目の前の出来事にリーシャは絶望する。


 その場に座り込み、倒れている族長…………、リーシャにとっては父親を抱き抱える。必死に回復魔法を唱えるが傷があまりにも深く、唱えても唱えても血が溢れ出し、リーシャの服と手は血まみれとなった。


 「…………せめてもの情だ。最期に時間をやる」


 将軍は刀を鞘へとしまい、リーシャ達にそう伝え背を向ける。


 それでも尚リーシャは回復魔法を唱え続けた。


 そんなリーシャの手を父は弱弱しく、しかし優しく握る。


 「いや…………、死んじゃ嫌だよ…………お父さん…………」


 「………………心優しい子よ」


 か細い声で父は話す。


 「この愚かなワシを…………最後まで父と呼んでくれ…………て…………ありがとう…………」


 父は死の直前でありながら優しく微笑む。


 そしてそのまま愛する娘の腕に抱かれ、静かに息を引き取った。


 「…………では次はお前の番だ。一瞬で終わらせてやる」


 そう言って将軍が再び刀に手をかけた瞬間だった。


 「イヤアアァァァァアアアァァァァアアア!!!!」


 リーシャの悲鳴と共に彼女からドス黒い魔力が溢れ出す。


 様子がおかしい。その場にいた誰もがそう感じた。


 将軍はつかさず刀で斬り掛かるが、リーシャを纏う黒い魔力に弾かれる。


 「リーシャ!!」


 遠く離れているルナが大声で呼び掛けるが反応はしない。


 リーシャの目からは光が失われ、まるで魂が抜けた人形のようであった。


 族長の死とリーシャの暴走ともいえる状態によって結界は解け、ヒナギはようやくリーシャの元に着く。


 そして理解する。…………いや、ヒナギはリーシャの症状が何なのか気づいていだが、その現実に目を避けていた。


 しかしリーシャの目の前に立ってその現実を叩きつけられる。


 リーシャは自身の魔力に呑み込まれている。


 魔力を有する者の中でもほんのひと握り、内に膨大な魔力を持つ者が絶望に呑み込まれた時、その者の魔力は暴走し、その者の魂ごと朽ち果てる。


 急いで魔力を鎮なくてはならないとヒナギは焦るが、


 「邪魔をしないでもらおうか」


 近くにいた将軍にヒナギは止められてしまう。


 「邪魔はどっちだぁぁぁ!」


▽▽▽

 その頃リーシャの意識は別の所にいた。


 一寸の光もない暗闇の空間。気付けばそこにリーシャはいたのだ。


 (私…………何してたんだっけ?)


 リーシャはこれまでの事を思い出す。


 (…………そうだ。集落に帰ったらみんな襲われてて)


 そして再び絶望する。


 「あ…………あぁぁ…………」


 リーシャの瞳から大量の涙が溢れ出す。


 (お父さん…………お父さん!!)


 リーシャの心が荒んでいくのと比例して、リーシャのいる空間もより暗くなっていった。そして次第にはリーシャの身体も暗闇が徐々に蝕んでいく。


 それはまるでリーシャという存在そのものが暗闇に取り込まれるようだ。


 しかしリーシャにはこの絶望の暗闇を跳ね返す力も気力も残っていない。ただただ呑み込まれるのを黙って待つしか無かった。


 そうして全体の8割が暗闇に染まった頃。


 (……………………………………………………………………………………!)


 遠くから声が聴こえた気がした。


 (………………………………ヤ!…………………………リーシヤ!)


 間違いない、誰かがリーシャの事を呼んでいる。


 そしてそれはどこか懐かしい心地がした。


 リーシャはその声に導かれ、顔を上げる。


 そこには覚えのない、…………しかし不思議とリーシャが確信を持って断言出来る二人が立っていた。


 「…………ママ?………………パパ?」


 リーシャを今まで育ててくれたお父さんとは違う、実のリーシャの両親。二人はリーシャの言葉に黙って頷き、優しく二人でリーシャを抱きしめる。


 その瞬間リーシャを蝕んだ暗闇は徐々に消えていき、気付けばリーシャのいる空間も優しい光に包まれ、リーシャの心は両親の愛情で満たされていた。

 


  

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