第9話 聖魔事変〜決戦〜(7)
ルナ達が聖騎士と闘ってる最中、ヒナギはある人物を探す為、戦場を密かに駆け回っていた。
聖騎士達が現れた際、ヒナギは感じ取った。聖騎士とは別の強者の気配。そしてそれは恐らくヒナギにとって因縁のある男のものだと確信していた。
(どこだ……何処にいる?)
今はその男の気配が消えてしまっている為、見つけ出すのに苦労をしていた。
戦場ではルナ、ユリウス、ナロの三人とも聖騎士相手に劣勢を強いられているのはヒナギも理解しているので、時間をかける訳にもいかない。
あの男が闘いに参加したならばあっという間にヒナギ達の陣営は崩れてしまう。それほどの力を持っているとヒナギは知っている為、いち早く見つけ出して自分が始末しなければならないと危惧していた。
しかし疑問点もある。何故あの男はこの場にいながら姿を隠しているのか。強さでいえば聖騎士と同等かそれ以上の実力者だ。出し惜しみをする理由は何なのか。
(くそっ!これじゃあ埒が明かない)
焦りを感じつつ辺りを探っていると、ヒナギはある人物と鉢合わせた。
「おやおや、これは魔王殿ではないか」
「…………確かロイターっていったか」
現状聖王国軍を指揮している聖王国の大臣ロイター。この惨状を作った張本人だ。
「…………この鉢合わせは幸運と見るべきか?」
「おー怖い怖い。魔王と出くわすなんて何て不幸なのでしょう!」
ヒナギは手に待つ自身の愛剣・バルムンクをロイターに向け、それにロイターはわざとらしく怯えてるフリをする。
ロイターの態度に嫌気がさすが、これは好機でもある。戦は基本的にトップを倒せば終結する。つまりこの男を今ここで殺せばこの戦いは終わる。
「悪いが一気に終わらせるぜ」
そう言ってヒナギは一直線にロイター目掛けて斬り掛かる。
途中ロイターを護衛していた兵士達がヒナギの前に立ち塞がったが、ヒナギは容赦なく彼らを斬り捨て、ロイターに肉薄した瞬時に魔剣バルムンクを振りかざす。
その刹那だった。
「!?」
突如ヒナギの背後から殺気が現れ、気付いた時にはヒナギは斬られていた。
ヒナギは咄嗟に回復魔法を自分にかける。魔力の鎧を身に纏っていたおかげで幸い深いダメージは追わなかったが、斬られる直前まで殺気も攻撃の気配も気付けなかった。
そしてヒナギはこの攻撃をしてきた者こそ、自分が探していた相手だと直感する。
傷を癒し再びロイターの方へ目をやる。するとそこにはヒナギの予想通り、あの男がロイターの横に立っていた。
「将軍殿、助けるのがギリギリでしたぞ」
「…………あのタイミングが隙だった」
将軍と呼ばれた男は静かにロイターの言葉に返事をする。寡黙な人物なのだろうかそれ以上の言葉は発せず、ただじっと魔王ヒナギを見つめる。
ただそれがどのような表情で見ているのか解らない。将軍は立派な銀の鎧を身に纏い、顔も全体を覆う兜をかぶり、足の指から髪の毛の先まで全て隠されている。
そしてそれは以前会った時と全く変わらない姿だった。
「やっと会えたな…………」
ヒナギは内から溢れ出す憎悪を抑えて冷静さを保とうとするが、どうしても目の前の男、
かつてのエルフの王、そしてヒナギの恩人を殺した男前をに、速まる鼓動を抑えられずにいた。
「…………………………………………………………」
そんなヒナギの言葉に将軍は無言を貫き、
次の瞬間にはヒナギの目の前まで来ていた。
「クッ!」
ヒナギは何とか将軍の動きに反応でき、振り下ろされる将軍の剣を魔剣バルムンクで受け止め、手から魔力の塊を作り出し、それを将軍にぶつける。
ヒナギの攻撃は将軍にヒットするが、鎧に傷をつける程度で済まされてしまう。
(チッ!あの鎧かなり頑丈だな)
ヒナギはつかさず次の攻撃を仕掛ける。
魔力で将軍の影を操る事で足を拘束して動きを封じ、続け様に地面から将軍を囲むよう四方から壁を生み出して将軍を閉じ込める。
「万物を突き刺し敵を屠り去れ!降り注ぐ大剣!」
ヒナギは魔力を魔剣バルムンクに集める事で、閉じ込めた将軍の頭上に巨大な大剣を具現化し、勢い良く将軍目掛けて振り下ろした。
降り注ぐ大剣の威力は凄まじく、直撃した直後に強い爆発と衝撃が巻き起こり、周囲もどよめき出す。
ヒナギの持つ技の中でも高火力を誇る技に、他で戦闘している聖騎士達も驚いた様にこちらを一瞥していた。
衝撃によって巻き起こった砂埃によって、将軍がどうなったのか見えない。しかしアレだけの技を直撃したのだからかなりのダメージは与えられた筈だ。
「これはこれは…………。凄まじい攻撃ですなあ」
ロイターは無用心にも一人拍手をしながらヒナギに近づいてきた。
「………………随分と余裕だな」
そんなロイターの様子にヒナギは睨みつける。
それにロイターは可笑しいと言わんばかりに、
「それは勿論。戦いは勝つ算段を得てから挑むものでしょう」
とロイターは告げる。
「恐らく貴方はこう考えているのでは?『聖王国の兵を率いている大臣を殺せば戦いは終わる』と」
「…………解ってるじゃねぇか」
「その考え方自体は間違ってません。戦いというのは相手を殲滅させるか相手のトップを討てば勝敗は決まります」
手に持つ杖を手で叩きながらロイターは語る。
「しかし貴方方は一つ見落としてますよ」
不気味な笑みを浮かべロイターはヒナギに言う。
「我々の勝利条件はある娘を始末する事ですよ」
その言葉と同時に砂埃は消え去る。
しかしそこには将軍と呼ばれる男の姿は無かった。
その直後だった。
「イヤァァァァァァ」
安全圏である筈の結界の中にいるリーシャの悲鳴が響き渡る。
有り得ないことに将軍はいつの間にか結界の中に居た。
そして彼の剣は族長の胴体を貫いていた。
▽▽▽
「面白い事になってきたねぇ〜」
辺り一面が白い空間に一人、星河煒月をルナとして転生させたエーリスは彼女らの戦いを水晶越しに眺めていた。
「僕のお気に入りのピース達が1つに集まった。…………さぁ、もっと僕をワクワクさせておくれよ!」