第9話 聖魔事変〜決戦〜(6)
ルナ、ダーウィン、ルキアートの三人はルキアートの作った炎の壁の中で対峙する。
ルキアートが攻めに転じればルナかダーウィンのどちらが防ぎ、もう片方が攻撃を仕掛ける。
またルナとダーウィンが攻める時、ルキアートは巧みな槍裁きでこれを防ぎ、つかさず炎を出して反撃に臨む。
こうして一進一退の攻防が炎の壁の中で繰り広げられていた。
しかしルナとダーウィンは二人がかりでも押し切れないどころか、ルキアートの抜群な戦闘センスに翻弄されていた。
「お前の力はそんなものか!」
ルキアートは叫びつつ、ルナ目掛けて炎を纏った槍を振りかざす。
それにダーウィンが手に持つ大剣で防ぐが、
「さっきから邪魔なんだよ!」
ルキアートはダーウィンと競り合った瞬間に回し蹴りを放ち、間髪入れずダーウィンに槍から繰り出される炎の衝撃波を喰らわす。
「ダーウィン!!」
ルナの呼び掛けにダーウィンは「心配無用」と応え立ち上がる。
それに「しぶといな…………」と舌打ち混じりにルキアートは呟いた。
「どうして………………」
「あん?」
「どうしてこんな酷い真似するのさ!?」
ルナはルキアートに叫び混じりの声で問い掛ける。
ルナはこれまでの出来事で、聖王国の上層部や軍隊に悪感情しか持てないでいるが、その中でルキアートには彼らとは違う、優しさを持っていると感じた。
ルキアートなら解ってくれる、味方になってくれる、ルナはそう信じていた。
「……………………解らねぇよ」
ルキアートは槍を持つ手に力を込めそう呟く。
「俺だって何が正しくて何が悪いかなんて解らねぇ!正義っていうのはそれぞれの価値基準でしかねぇ!だからお前と闘う理由も分からねぇし、本音を言えばお前とは闘いたくねぇ!」
ルキアートはルナに負けないほどの声で叫ぶ。
「なら…………」
とルナは希望を込めてルキアートを説得しようとしたが、
「俺の家族は魔族に殺された……………………」
ルキアートのその一言でルナは黙ってしまう。
「こんな時代だ、闘いに巻き込まれて死んだって話は珍しくもなんともねぇ。…………それに俺の家族は両親も兄も国に仕える兵士だった。国の為に戦って死んだならそれは本望だったって俺も思ってる…………」
空を見えげながらルキアートは語る。
そして険しい表情でルナを見つめ、
「それでもなあ…………、俺は家族を殺した魔族を憎まずにはいられねぇ。家族が信じた国を裏切る訳にはいかねぇんだ」
そうルキアートは強い口調でルナに告げ、「最後だ」と言って矛先をルナに向け、
「もう一度だけ聞く………。魔族と縁を切って聖王国側につけ、もしこのまま魔族側に加勢し聖王国に仇なす存在となるなら………」
ルキアートは槍を振りかざして炎の斬撃を放ち、その斬撃はルナの頬を掠める。…………まるで最終警告、次は当てるという意思が伝わる。
「お前を敵とみなし、俺は全力でお前を殺す」
その言葉でルナも覚悟を決める。
ルキアートを説得するのは不可能だ。リーシャ達を助けるにはこの男を倒さなければならない。
ルナは双剣を構える。ルキアートに自分の答えと覚悟を伝える為に。
ルキアートもそんなルナの答えを理解し、「そうか…………」と静かに呟いた。
そしてルキアートの身体から激しい炎が生まれ、やがてその炎はルキアートの持つ聖武器に集まっていきく。やがて真っ赤に染めあがり、熱気が離れてるこっちにまで伝わるほど激しく…………、まるでルキアートの内に秘めた情熱を具現したかのように姿を変える。
「炎槍・フレーミア………………、炎海!!」
そうルキアートが叫ぶと彼の持つ聖武器・フレーミアから激しい炎が放出され、ルナとダーウィンを飲み込むかのように二人に襲い掛かる。
ルナとダーウィンはその炎の海を一箇所に一点集中して斬撃を飛ばし、僅かにできた隙間から炎海を抜け出す。
しかし抜け出した地点にルキアートが激しい炎を全身に纏いながら駆け寄り、ルナ目掛けて凄まじく鋭い炎槍の突きを繰り出す。
ルナはギリギリで反応し、何とか双剣で防ぐが、
「キャッ!?」
自身の双剣とルキアートの炎槍が触れ合った瞬間、炎槍の高温はルナの手にまで伝わり、軽く火傷をしてしまう。また直接触れたルナの双剣はその箇所が熱により溶けてしまっていた。
ダーウィンも私を助ける為ルキアートに斬り掛かるが、炎槍に触れた刃先からダーウィンの剣も溶けてしまう。
今のルキアートに接近戦はマズイと判断したルナとダーウィンは距離をとる為離れ、ダーウィンは遠距離から斬撃の乱打ちを、ルナは双剣から通常のステッキに戻して魔力弾の攻撃を仕掛ける。
しかしどの攻撃もルキアートが纏う炎により、ルキアートの身体に届く前に燃え尽きてしまう。
攻撃手段を無くしたルナ達は、そのままルキアートを近づかせない為に遠距離から牽制するしか出来なくなった。