第9話 聖魔事変〜決戦〜(3)
結界内から聞こえた悲鳴にルナはいち早く異変に気付き、急ぎフォーリアの元へ向かいう。そしてユリウス達も戦闘の手を止め、事の非常事態に舌打ちをして、結界の方へ駆けていく。
一方結界内では大量の聖王国兵と三人の聖騎士に対し、ヒナギ一人で相対していた。
「そこの青年!コイツとここから離れろ!」
ヒナギは剣を構えながらフォーリアの隣に立っていたロゼにそう告げる。
それにロゼは多少パニックになっていたものの、腕を抑えうずくまっているフォーリアを背負い、リーシャ達の方へと何とか走っていく。
運ばれたフォーリアにリーシャは青ざめた表情を浮かべ、回復魔法をかけ始める。
咄嗟にヒナギが止血をしたおかげでフォーリアは失血死を免れたが、アレではもう戦う事は出来ない。幸いな事にカルメアの働きで集落内の生き残りはほぼ結界内に逃げ込むことが出来ていたので、
「族長どの!結界の広さを狭くして強度を高めてくれ!」
ヒナギは族長にそう伝え、それ族長は頷く。
ひとまずコレで後背を気にせず戦う事ができ、何とかルナ達もこちらに合流することができた。
「いやー残念ですねぇ。本来はアレで一気に消し飛ばす予定だっのですが」
とロイターは笑いながら新たな軍勢の前に立つ。
「…………許さないっ!!」
フォーリアの件で怒りに身を任し、ルナは武装変換で双剣を構え、ロイター目掛けて一気に詰め寄り斬り掛かる。
しかしその攻撃はルキアートにより防がれ、そのままルナは吹き飛ばされた。
「威勢は良いがそれだけで勝てる程我々は甘くないですよ」
ロイターは立ち上がるルナにそう言いつつ、
「では我が精鋭達よ!人類の敵、魔王軍を根絶やしにしなさい!」
そう命令し、聖騎士を筆頭に攻めに転じた。
▽▽▽
「雑魚共は俺の手下で何とか食い止める!!」
ユリウスはそう叫び、多くの死霊を召喚する。その中には、
「久しぶりですな」
私の横にかつてハミネ町での戦闘で剣を交えたダーウィンも召喚されていた。
「今回は味方同士だね。…………まぁこんな風に話してる暇は無さそうだけど!!」
ルナはそう言いつつ自身に迫る攻撃を受け止める。
その攻撃を仕掛けたルキアートは続け様に槍による鋭い突きを繰り出し、それをルナとダーウィンは手持ちの剣で防いでいく。
「ダーウィン!!そいつの手助けをしてやれ!!」
遠くからユリウスの声が聞こえ、それに「うむ」とダーウィンが応え、ルキアートの攻撃を凌いだ後、ルナの隣に剣を構えて立ち並ぶ。
「今回は前回と違い、力を制限されていない故、貴殿の力になって見せますぞ」
とダーウィンは隣に立つルナにそう言う。
確かにダーウィンは以前とは比べられない程の力を感じる。
「その力を制限されてるあなたに私は何とか勝てたんだけどね。………………でも凄く頼りになる!」
ルナはそう言って衣装をスピード特化の閃光に変え、ルキアートと対峙する。
「普段ならあのクソ神父をぶっ殺してぇところだが、今は別だ………………」
そう呟き、ルキアートは矛先をルナに向け、
「俺はお前を…………、俺の信念に基づいて魔の手から救ってやる」
と炎を纏いそう宣言する。
▽▽▽
「カルメアはコイツらを率いて雑魚の足止めと撃破を!」
カルメアは頷いてユリウスの召喚した下級死霊千体を引き連れ離れていく。
本音を言えば相手の兵士と同じ数の死霊を召喚したかったが、今は少しでも魔力を温存したかった。
「そんな数で足りるのか?我が勢力の一割にも満たないでないか」
そう言ってユリウスに近づいてくるのは、全身に冷気を纏い、辺りを凍らせながら歩いてくる氷帝アイシェンだ。
「テメェらこそこんな小さい集落相手に、多勢が過ぎるんじゃねぇか?」
ユリウスは剣を片手に、もう片方の手にはタバコを持ち、「ふぅ…………」と一服しながらアイシェンを睨みつける。
「魔王とその幹部二人を相手にするのだ、これでも少ないくらいだろう」
「これは高く評価されてるようで」
ユリウスはタバコを吐き捨て、真面目な顔付きでアイシェンと対峙する。
「貴様の相手は炎帝がすると思っていたが………、どうやらあの少女によほど執着してるようだ」
と呆れた表情でルキアートを一瞥し、
「まぁ貴様らはどの道、我らを敵にした時点で終わりだ」
とアイシェンは冷気をユリウス目掛けて撃ち放ち、そう言った。
それに対しユリウスは胸元で十字を切り、
「テメェの神に祈っておけ……。今からお前に裁きを下す!」
そう叫び、ユリウスは冷気ごとアイシェン目掛けて突っ込んで行く。
▽▽▽
「全く…………、大変な事になったなあ」
ナロは聖王国兵を倒しつつ、辺りをキョロキョロしていた。
ナロの得意分野は隠密であり、こういった敵味方交わる戦場は彼女の不得手とするところだ。
それでもナロは魔王軍幹部の一人、雑兵相手なら特に苦戦することもない。
そんなナロはこの戦場で人探しをしていた。相手の事を考えればこの人数でも直ぐに見つかると思ったが、何故か見つける事が出来ずにいた。
「どこに行ってしまったんやろ?」
そう呟いた時だった、
「見つけたよ〜」
そんな声と共に背後から殺気を感じる。
振り返るとそこには雷帝ミラージェが笑って立っている。
「他の幹部と〜、ルナちゃんの相手は〜、取られちゃったんだよね〜。魔王もどっか行っちゃったし〜。キミも幹部なんでしょ〜、暇だし付き合ってよ〜」
と戦場に似合わない口調と態度でミラージェは拳を構える。
「相手してる暇は無いんやけどなあ…………」
とナロは困った表情を浮かべる。
そう、先程ミラージェが言った通り、聖騎士達が攻めてきたから魔王ヒナギの姿が見えなくなったのだ。ヒナギに万が一の事があれば魔王軍は瓦解してしまう。その為ナロは戦場で探し回っていたのだ。
「そんなつれない事は〜、………言わないでよっ!」
ミラージェはナロとの距離を一気に詰め、電気を帯びた拳で殴り掛かる。
それをナロは何とか避け、この戦いは避けられないと覚悟する。
「やるしかあらへんか…………、それより…………」
ナロは尻尾を五本生やし、ミラージェを睨みつけ、
「さっきから無礼が過ぎるぞ小娘。その生意気な口きけへんよう、叩きのめしたる!」
ナロは己の魔力を高め、そう言った。