第9話 聖魔事変〜決戦〜(2)
地上に降りるや否や、ヒナギは魔力を込めた斬撃を聖王国軍に撃ち放ち、それと同時にルナやユリウス達も合流する。
ヒナギはぐるっと集落内の状況を確認し、
「………………ユリウス、ナロ。遠慮は要らない。…………殺れ」
「「了解」」
静かに、そして怒気を込めて命じる。
ユリウスとナロはそれぞれ二手に分かれて聖王国軍に攻撃を仕掛け、カルメアはユリウスの指示の元、結界に逃げ遅れた者の救助に回る。
そしてリーシャの力でヒナギとルナ、フォーリア、ロゼは結界内へと入り、族長の元へ向かう。
「サンジュリア殿………………」
「その名はあの日捨てたんだ。今はヒナギと呼んでくれると嬉しい」
そしてヒナギは結界内にいるエルフ達を一望し、
「そして遅くなって済まない。…………でもこれ以上奴らに好き勝手は俺がさせない。あの日と違い、今回は救ってみせる…………。魔王として!!」
ヒナギは剣を高らかに挙げ、それに周りのエルフは歓声をあげ、涙をながし、そして魔王ヒナギ達に自分達の運命を託す事にした。
「リーシャは怪我人の治療と結界の補助をお願い!フォーリアとロゼは結界内で万が一に備えて!」
ルナはリーシャ達に指示し、魔法少女へと変身する。そしてヒナギの横に立ち、
「私は前に出る!」
ヒナギとアイコンタクトを取って前線へと駆け出した。
▽▽▽
ルナ達が敵を次々と倒していく様子を、結界の中からリーシャと族長は眺めていた。
「ワシは何もかも間違っていたのだ。お前の父をそして魔王を信じていればこんな事には…………」
「それは違うよ」
震える族長の手をリーシャは優しく握る。
「確かに誤解はあったのかもしれない…………。でもそれはわたしの生まれ故郷が滅んだのと関係ないし、お父さんが私を助けてくれたから、私は今、こうしてここにいられるの」
リーシャは自身の想いを伝える。
「リーシャ姫の言う通りです」
そう言ってヒナギもリーシャと族長の隣に立つ。
「俺は友ルーシアと、リーシャ姫を守る事を約束したが、遠くから見守る事しか出来なかった…………。貴方には感謝してます。リーシャ姫を守り、育ててくれてありがとう」
そんなリーシャとヒナギの言葉に族長は涙を流し、
「ルーシア…………。そなたの娘と友は私達エルフの希望の光となり得ますぞ」
と天を仰いで呟いた。
▽▽▽
「思ったより早く落ち着きそうだな」
ロゼは戦況を見ながら隣にいるフォーリアに話しかける。
実際敵の数はルナ、ユリウス、ナロの三人で半数以上は減っていた。
「そうですね…………。ロイターの姿が見当たらないのは気になりますが、魔王とその幹部が来たことで退いたのかもしれませんね」
フォーリアも拍子抜けしたのか、少し気を緩めていた。
「なんかうまくいきすぎてる感もあるんだよな。聖王国からの脱出しかり、今の闘いも…………」
ロゼはこの状況に強い不安を募らせる。相手はこの世界一の強国だ。こんなに事がすんなりいくものなのだろうか?
「そういえば…………」
フォーリアは何かを思い出したかのような仕草をし、
「不思議に思ってたのですが、何故私は囚われず解放されたのでしょうか?」
そう、ルナを助け出す途中ナロから聞いた、聖王国に仇を成した者の末路。それに比べたらフォーリアへの処置は寛大過ぎると言って良い。
「あっ!それだけど…………」
フォーリア達の声が聞こえたのか、リーシャが振り向いてその問いに応える。
「何かフォーリアは利用価値があるとか言ってたよ?」
その言葉に真っ先に反応したのは、リーシャの横にいるヒナギであった。
ヒナギはすぐに辺りを確認し、ある一点を見つめ、
「…………くそったれが!」
と叫ぶ。
ヒナギの視線を追うとそこには先程まで姿を消していたロイターの姿があり、ロイターは一本の杖を持ち、不敵な笑みで何やら呪文のような者を唱えていた。
「全員その執事から離れろ!!」
そうヒナギが叫んだ瞬間だった。
ボトンッ………………
「え…………………………」
フォーリアの腕が光出し、そのまま右腕がフォーリアの体から切断された。
「ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
腕を切断された痛みにフォーリアは絶叫する。
ヒナギはフォーリアの元へ駆け寄り、止血の魔法をかけ、切断された腕を遠くへ投げ捨てる。するとその腕は空中で爆発、そして次の瞬間、結界内に数多の魔法陣が表れ、その中から先程の倍近い聖王国の兵士と、
「やぁ〜、また会ったね〜」
「………………魔王に幹部二人か」
「俺の手でケリをつける、悪く思うなよ」
聖騎士のミラージェ、アイシェン、ルキアートも現れた。