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第9話 聖魔事変〜決戦〜(1)

 「なんて事だ…………………………」


 目の前で起きている惨劇に、族長は膝から崩れ落ち眺めているしか出来なかった。


 事の発端はつい先程、聖王国が軍を引き連れた事より始まった。


 最初は族長含む集落の住人は、兼ねてから打診していたこの集落の保護をしに来たのだと思った。


 しかし聖王国軍は集落に入るや否や、周囲の建物や住人に襲いかかってきた。


 訳が分からず族長は混乱する。すると一人の男性がこちらに歩いて来る。その男は軍の中では浮いていて、一人スーツを着こなし、周囲を護衛らしき兵士で固めている。その様子からこの男がこの軍を引き連れている聖王国の代表だと族長は確信した。


 「どーも、エルフの皆さんこんにちは。私、聖王国が大臣の一人、ロイターと申します」


 ロイターと名乗る男は丁寧に族長にお辞儀をする。しかしそのお辞儀からは全くといって良いほど、誠意が感じられなかった。


 「こ、これはどういう事なのですか?」


 族長はロイターに現状のこの有様を尋ねる。族長含むエルフの思うところは一つ、


 |(何故私達が聖王国から襲われているのか?)


 そう、襲われる理由が分からないのだ。確かに以前、エルフの国は魔王と親交があった為、聖王国と何度か衝突はあった。


 しかし魔王に滅ぼされてから、エルフの生き残りは聖王国の傘下となったのだ。


 エルフ達の混乱と絶望が入り交じった表情を愉快そうにロイターは眺める。そして、


 「何を勘違いしてるかは知りませんが…………」


 ロイターは冷めた口調と蔑む視線をエルフ達に向け、


 「我々聖王国はアナタ方エルフを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 と告げた。そして続け様に、


 「我々がアナタ達に今まで手を出さなかったのは、エルフの王族の生き残りがいるのではないかと調べる為です。そして愚かにもその血を引くお姫様は自ら我が国に訪れました!」


 ロイターは両手を高らかに上げ、


 「なんて素晴らしいことでしょう!全く愉快で!なんと愚かで!」


 声高らかに笑う。そして隣に立つ配下から剣を受け取り、


 「だからねぇ…………、アンタらはもう用済みなんだ」


 ロイターは剣先を族長に向け、そのまま勢いよく振りかざす。


 それが開戦の合図となった。


 聖王国の兵士は一斉に突撃を仕掛けてくる。


 「!?皆の者集落の中央に集まるのだ!」


 族長の声をきっかけに、エルフの住人は走り出す。


 それを面白そうにロイターは眺め、


 「永年の憂さ晴らしだ!じっくりと追い詰めなさい!」


 と兵士達に命令する。


 その命令をきっかけに、兵士達は突撃するのをやめた為、族長達と兵士との間にある程度の距離ができた。


 その隙に族長は結界を張り直す。聖王国軍が来た際に結界を解いたのを後悔するが、今はこの危機を乗り越える方が先決だ。


 突発的に張った結界なので普段の結界より範囲は狭くなってしまう、それでも族長達と聖王国軍との間に結界を張ることには成功した。

 

 しかし住人全員を結界内に入れることは出来なかった。


 この結界はエルフなら自由に出入り出来るので、後から結界内に避難できた者もいる。しかし当然逃げ遅れた者もおり、


 次々とそうした同胞達が聖王国軍に蹂躙されていった。


 老若男女関係なく、聖王国軍は目の前にいるエルフをまるで害虫駆除をしてるかの如く、容赦なく無慈悲に殺していく。


 エルフの集落はあっという間に地獄絵図となる。


 結界の外では逃げ遅れた者たちの叫び、内側からは目の前で家族、恋人、友人を殺されたことで悲鳴と泣き叫ぶ声が響き渡る。


 族長は結界の外にいる者に救いの手を差し伸べることは出来なかった。今この結界が解ければ間違いなく皆殺しにされるだろう。族長にはこの結界を命続く限り、この危機を脱出できる転機が来るまで張り続けなければならない。


 走馬灯のように族長の頭にはかつてのエルフの国の惨劇を思い出す。


 (ルーシア…………。お前の言う通り、聖王国は信用するべきではなかった) 


 後悔してももう遅い。


 それでも思う。


 族長だけでなく、あの国の生き残りのエルフは皆。


 (かつて防衛隊長であった魔王がこの場にいたら)


 魔王は私達を裏切った訳では無いのでは?この惨状で、かつて魔王と親交があった者はそう考えるようになる。


 そして行き着く思考は同じであった。


 「助けて!魔王様!!」


 「言われなくてもそのつもりだ!!」


 その声と共にエルフと聖王国軍の間に、魔王が降って来る。


 さながらその光景を、エルフ達はまるで英雄(ヒーロー)を見るような目で魔王の背中を見つめていた。


 


 




 


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