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第8話 聖魔事変〜交錯〜(7)

 出発は夜明けと共にする事に決め、それまでは各々仮眠をとったりなど休息を取る時間とした。


 ルナも疲れが溜まっていた為直ぐ眠りに着いたが、割かし早めに目が覚めてしまった。リーシャ達はまだ寝ているし、夜明けまではまだ少し時間はありそうだ。


 もう一眠りしようとも考えたが、一度目が覚めた為か、今後の不安がまた込み上げてきたので、外の空気を吸おうと馬車から出た。


 馬車の中ではルナ、リーシャ、フォーリア、ナロ、カルメアの女性陣が眠り、外ではロゼ、ヒナギ、ユリウス達が休む事にしており、馬車から少し離れた所で、ロゼとユリウスは横になっている。


 ヒナギの姿が見えず、辺りを見渡してみると、ヒナギは夜空に浮かぶ星々を眺めていた。


 ルナはヒナギの所に向かおうとし、ヒナギも途中で歩いて来るルナに気付く。


 「眠れないのか?」


 「ううん。寝てたんたんだけど目が覚めちゃって」


 そう返事をし、ルナもヒナギの横に立って夜空を見渡す。


 「一つ聞いてもいいか?」


 とヒナギは上を向きながらルナに話しかける。


 「…………ルナも異世界転生してこの世界に来たんじゃないのか?」


 その言葉にルナは驚き、思わずヒナギの顔を見つめる。その様子に「やっぱりな」とヒナギは呟く。


 「()…………って事は?」


 「あぁ、仲間達には言ってないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ここまで言ってやっとヒナギはルナの方に顔を向ける。


 そして「誰にも言うなよ」と言って、ヒナギはルナに簡単にこれまでのことを語り出す。


▽▽▽

 魔王ヒナギと呼ばれる男は異世界転生をし、この世界にやってきた。


 "ヒナギ"という名は前の世界での彼の名前であり、転生を果たした彼は新たな人生の始まりに際し、名を"サンジュリア"とした。


 サンジュリアはこの世界に来た当初から莫大な魔力を有しており、それにより人類からも魔族からも恐れられ、いつの日か"魔王"と呼ばれるようになった。


 そんな魔王サンジュリアにも優しく接してくれる者がいた。それがリーシャの実父であり、今は亡きエルフの国の王ルーシアである。


 エルフの国には旅の流れでたまたま辿り着いたに過ぎなかった。その国を訪れたばかりの頃は他の国と同様、魔王の噂にエルフの国の民はサンジュリアに恐れを抱いていたが、エルフの王ルーシアはそんなサンジュリアに「今まで辛かったな…………」と言葉をかけ、抱きしめてくれた。


 この世界に来て初めて受けた他者からの温もりに、サンジュリアは心が洗われたかのように救われた。


 やがてルーシアの働きかけにより、エルフの国の国民にもサンジュリアの誤解は次第に解けていき、それに応えるようにサンジュリアもエルフの国周辺に出没する魔獣や賊を持ち前の魔力を用いて討伐するようになる。そんな彼の行動を見て、みんなもサンジュリアを慕うようになった。


 そしてサンジュリアはその国で十数年過ごすことになる。その間サンジュリアはエルフの国の防衛隊長として大好きな国を護る役目を任されており、サンジュリアはその期待に応えていた。


 やがて王ルーシアとその妃の間に一人の女の子が生まれた。ルーシアはサンジュリアに生まれた姫の名前をつけて欲しいと頼む。サンジュリアは最初その頼みを断ったが、ルーシアの「我が1番の友に頼みたい」という願いに押し切られ、サンジュリアはその姫に"リーシヤ"と名付けた。


 そうして温もり感じながら暮らしていく中で、事件は起きた。


 それはいつも通り、エルフの国周辺に出没した賊をサンジュリアが討伐しに向かっていた。賊自体はサンジュリアの実力を持ってすればとるに足りない相手であったが、普段より広範囲かつ大人数で散開していた為、討伐を終えるのに時間がかかってしまった。


 嫌な予感がしサンジュリアは急いで国へと帰った。


 国に着いてサンジュリアは唖然とする。


 エルフの国は炎に包まれており、至る所から国民の悲鳴が聞こえてくる。


 やがて一人の国民がサンジュリアに気づき駆け寄って来る。その者はこう告げた。


 「魔獣と魔族が攻めてきた!急いで王の所に向かってください!」


 見ると魔獣と魔族が暴れていた。しかしどこか様子はおかしく、中には泣きながらエルフを斬りつける者もいた。


 サンジュリアはルーシアの元へ駆けつける。途中助けられそうな国民もいたが、誰もが皆「王の元へ!」と口を揃えていた。そんな彼らをサンジュリアは苦渋の思い出見捨て、やがてルーシアの元へ辿り着いた。


 しかしサンジュリアが到着したと同時に、鎧を全身に纏った大男にルーシアは斬られていた。


 「……………………………………お前が魔王か」


 その大男はサンジュリアを見て何かを呟き、剣に付いた血を飛び散らせ、サンジュリアの横を歩いて消えていった。


 サンジュリアはルーシアの元へ駆け寄る。涙を浮かべながら回復魔法をかけるが、傷は深く、とても助けられそうになかった。


 ルーシアは辛うじて目を開け、そこにサンジュリアがいるのを見て安心したように笑った。


 「我が友よ…………。此度の騒乱は聖王国によるものだ。我が国民を襲っている魔族も奴らに操りている可哀想な被害者だ…………グフッ」


 ルーシアは喋りながら吐血する。サンジュリアは話すのを辞めるよう促すがルーシアは首を横に振り、


 「しかし奴らは娘の存在に気付かなかった。…………あの娘はやがてこの世界の光となる。…………我が友サンジュリアよ………………、どうかあの娘を助けてあげてくれないか…………」


 その言葉にサンジュリアは涙を流しながら頷く。


 それに満足したように、


 「サンジュリア…………、お主にエルフの王としての我が魔力を授ける…………。その剣で我にトドメをさし、魔力を吸収してくれ…………」


 とサンジュリアに懇願する。


 サンジュリアはその言葉に躊躇いを見せるが、ルーシアの真剣な瞳、そして恩人であり、この世界唯一の友からの最期の頼み(・・・・・)をサンジュリアは断れなかった。


 そこからはリーシャの育ての親である族長が見た通りで、サンジュリアは剣をルーシアの胸元に突き刺し、彼の魔力を己に吸収する。結界師として優れていた族長にリーシャを連れさせ、一刻も早くこの国から出させる為に演技をする。それを目撃した者、そして聖王国の者は罪を魔王に擦り付ける為に、魔王サンジュリアがエルフの王を殺し国を滅ぼしたと語り、魔王としてより恐れられる存在となった。


 そこからサンジュリアは名を捨てる事にした。サンジュリアの名前は友さえ救えなかった恥ずべき魔王の名であるからだ。なのでとりあえず前の世界の名であるヒナギと名乗る事にした。


 そして彼の一人娘を守る為、魔王は国を作ることにする。


 聖王国に虐げられてる者を勧誘し、 いつしか頼りになる仲間も増えてきた。そして魔王軍として、魔族も人間も平和に暮らせる世界作り、友への恩返しをする事に尽力する。


▽▽▽

 聖王国を抜け出して二日が経過する。


 予定通りなら今日中にはエルフの集落に着くとヒナギは告げる。


 あの夜、ヒナギの過去をあらかた聞いたルナはこの男は信頼できると確信し、共にリーシャ達を救おうと誓い合った。


 道中、異変を感じる者がいた。


 「…………あれ?集落の結界が解けてる…………」


 リーシャは不思議そうにボソッと呟いた。


 それにヒナギは嫌な予感がし、ナロに様子を見るよう命令する。


 ナロは魔力を集中させる。


 そして青ざめた表情を浮かべ、


 「あかん!集落が襲われとる!!」


 こうしてルナ達は初の、そしてヒナギは二度目の真の地獄(・・・・)を味わうことになる。

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